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暗黒大陸編 3巻

暗黒大陸編 3-1

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《三十一日目》/《百三■一■目》

 見ず知らずの場所で目を覚まし、そこに至るまでの記憶を失っていた俺――伴杭ともくい彼方かなた
 それから他者との関係を構築し、現地の資金を得て、《自由商都セクトリアード》にて活動拠点を作った事で、とりあえずの生活基盤は確保できた。
 まだか細く不安定で頼りないが、記憶を失い、心から頼れる仲間が不在――行動を共にしているありひと少年は仲間というより保護対象――な現状を打開する、今後の大事な足がかりである。
 それが崩されても面倒だし、色々な約束も出来たので、目下の敵である裏組織《イア・デパルドス》をさっさと壊滅させるべく、本格的に動き始める事にした。
 まず最初にするのは、当然ながら、より広く詳細な情報収集だ。
 彼を知り己を知れば百戦あやうからず、と昔の偉人も言っている。
 情報源は、顔見知りの情報屋からはもちろん、監視ゴーレムによる敵拠点への潜入調査や各種アビリティによる自分自身での遠隔調査、発行されている情報誌の購読、それから《朱酒槍ドランクランス商会》の店舗へ密かに運び込んでいた《イア・デパルドス》構成員の捕虜からの聞き取りなど、多岐たきに及ぶ。
 そうして、まだ動き出したばかりなので細かいところまでは完全に網羅もうらできていないものの、先に幾らか調べていた事もあってとりあえず大雑把おおざっぱながら欲しい情報は得られた。
 敵首領の顔などをはじめ、幹部など主要な構成員の情報や敵施設の構造、組織内派閥といった人間関係、蟻人少年と同じ境遇にある要救助者などについてである。
 集めた情報によると、厳しめに見積もっても、裏組織《イア・デパルドス》を壊滅させるのに特に問題はなさそうだった。
 改造手術により強化された猛者もさも一定数いるようだが、以前倒した〝死断冥牛頭鬼王ドゥームデス・ミノタウロス・キング〟よりは全員弱い。高度な連携があればその限りではないものの、そこまで注意すべき者はいない。
 それに最近は、俺による構成員殺害や拠点破壊の影響で慌ただしく、各地に分散されているので、各個撃破も狙いやすくなっている。
 よほどの想定外が無い限り、予定通りに事が進むだろう。
 かなりこちらの優位に進められる目処めどが立ったが、もちろん、問題が全く無い訳でもない。
 それは、裏組織《イア・デパルドス》の手が予想よりも広く、要救助者が予想を超えて多かった事だ。
 要救助者は大きく三つのグループに分類できる。
 一つ目は、容姿が優れていたり特殊な技能を持っていたりなど、商品価値が高い者達のグループ。このグループには比較的安全な改造手術がほどこされるだけで、境遇は悪くない。高額で取引される為、扱いは丁寧ていねいだ。
 二つ目は、ただの一般人。主要な商品扱いされるので、改造手術も実験的なモノがあるにしろ、そこそこオーソドックスな内容が多い。境遇は良くもないが悪すぎる事もない。
 そして三つ目が、反抗的だったり心身に何か障害や怪我があったり、または外見が悪かったりなどの理由で商品価値が低いと判断された者達だ。
 このグループの扱いは劣悪のひと言で、家畜同然である。危険な改造手術のモルモットとして消費され、非常に入れ替わりが激しい。そして運よく改造手術が成功したとしても精神的に破綻する事が多く、正常な状態で生存できる例はまれである。
 商品の品質に差があれば扱いも変わるように、そんな三つのグループはそれぞれに仕分けされて、幾つかの施設に収容されている。
 一ヶ所に固まっているのであれば救助は簡単だったが、こうなると、一度に全てを解放する必要が出てくる。一つひとつ潰していてはこちらの狙いが相手にバレて、要救助者達に悪影響が及ぶ可能性が高いからだ。
 そして、たとえ彼らを人質にされたとしても、俺は俺を優先する。自分を助けられない者が他人を助けられるはずもないのだから。
 だから最悪の場合は見捨てる事も選択肢に入る訳だが、そうならないように努力はしておきたかった。手間は増えるが、仕方のない事だ。
 ただし、手間が増えた分だけ得られたモノも多かった。
 情報収集の一環で裏社会の情報が手に入ったし、この大陸の基本的な情報についても得る事ができた。
 それに捕虜からは、敵の情報だけでなく、安全性が確認された身体能力強化などの有用な改造手術についての知識と技術を引き出す事に成功している。
 元々、俺自身は改造手術を受ける事に忌避感は無かった。
 というのも、元々俺は生体強化手術を受けた強化兵ブーステッドマンだった――ただし現在もそうかは不明。身体の能力や感覚は変わらないが、この世界では別の何かに置換されている可能性を否定できない――からだ。
 骨格や筋肉を生体金属や強化筋肉に置換し、神経や血液の代わりにもなる多機能なナノマシンの投与などによって、俺は普通の人間を超えた身体能力を得ていた。
 それでもアッサリと死ぬくらい危険性が高い過酷な仕事に取り組んでいた訳だが、それはさて置き。
 改造手術を受けたという意味では、蟻人少年達と俺は同じである。
 しかし、俺は、長い歴史と洗練された高い技術によって確立された安全な改造手術を、自分自身の意思で受けた。
 対して蟻人少年達は、試行錯誤中で危険の大きい改造手術を、自身を見下す他者に強要された。
 両者の間に隔絶とした差があるのは明白だ。だからこそ、つたない技術で行われた改造手術の被害に対して感じる同情も大きいのだろう。
 俺は蟻人少年達に協力し、せめて普通の生活ができるように手助けするつもりである。
 今日は何やかんやと忙しくて疲れたので、早いうちに酒を呑んで寝た。
 最近は迷宮産のビールがお気に入りである。


《三十二日目》/《百三■二■目》

 これまで体を休めていた蟻人少年達は、狸親父こと治安維持部隊実行隊のラクン中隊長の屋敷からもう一つの拠点に移動し、そこで生活する事になった。
 蟻人少年は心身共に大分落ち着いたが、他の面々はまだ心身の損傷が激しく、しばらくリハビリが必要になる。
 その第一歩として自活させる事にしてみた。
 まあ、始まったばかり。気長に回復していけばいいだろう。
 最後まで面倒を見られないかもしれないが、自立できる程度までは回復してもらうつもりである。
 そんな蟻人少年達だが、どこから《イア・デパルドス》に情報がれるか分からない。
 情報屋があちこち探っているかもしれないし、ふとした事で顔を知っている者が見かける可能性もある。
 そこで、変幻自在に姿を変える事が特徴な〝エルペンテス・スライム〟の柔水膜じゅうすいまくというモンスター素材を使い、ぴたっと肌に貼り付く特殊メイクゴーレムを作ってみた。
 目と鼻と口以外をおおい、後は適当に若返らせたりけさせたり、あるいは全く違う顔にしてみたりとバリエーションは豊富だ。
 これで、少なくとも顔で居場所が露見する可能性はグッと下がった。
 俺が知らない能力――例えば魔力の波動を感じるとか、魔力の色を見極めるなど――によって看破される可能性は無きにしもあらずだが、その場合はどうしようもない。その時はその時で柔軟に対応するしかない。
 それに一応、拠点には複数の警備ゴーレムを配置したし、個人個人に特殊な電波を発する鉱石鉱物が組み込まれた発信器兼服型ゴーレムも配布している。
 万が一拉致されても居場所は分かるし、最悪の場合にはこのゴーレムの別機能が助けになる。
 ただ、こうした保険があっても、使用する素材によって限界があるので、外に出る時は気をつけてもらうしかない。
 注意一秒怪我一生、油断は大敵だ。
 まあ、騒動の元凶を取り除けば、穏やかな時間も心理的な余裕も生まれるだろう。
 数日内にはひと区切りつけようと思う。
 あー、しかし。昼間から呑む酒は最高だなぁ。 


《三十三日目》/《百三■三■目》

 捕虜から得られる情報は、大体出尽くしたと判断した。
【尋問官】や【嘘発見器】、【心理学】や【心拍数検知】などの多種類のアビリティを使って、できる限り虚偽を取り払い、真実を引き出した手応えもある。
 そして他から集めた情報と、施設襲撃時に得た様々な資料と照らし合わせる事で大まかな裏付けも取れている。
 という訳で、用が済んだ捕虜――改造手術技能を修めた技能系幹部と、その補助役の側近数名――を喰う事にした。
 猛毒を使って最後の苦痛を与えて、新鮮なうちに頭からいただく。
 戦闘系構成員を喰った時も思ったが、改造手術を施された者は、前世の強化人間と同様に、添加物たっぷりの食材のような味がするらしい。
 戦闘系構成員の場合は、戦闘能力を高める為か、筋肉はアナボリックステロイドやホルモン剤を使ったような味がした。魔法金属に置換された骨はコリコリとした歯応えがあり、神経伝達物質も通常とは違って少しピリピリするからみがあった。
 対して今回の捕虜達は、技術者として手術の正確性を高める為に、器用さや記憶力の強化などといった改造手術を施されている。
 その違いからか、良質な部位は主に脳と手だった。普通よりも発達した脳、柔らかな筋肉と鍛えられた神経が張り巡らされた手の味は、とても濃厚である。
 筋肉が少なめで脂肪が多めな胴体も、それはそれで美味うまかった。
 個人的には天然物の方が好みだが、ジャンクフードのような身体に悪そうな感じも、たまにはいいだろう。
 この世界ではむしろ、滅多に喰えない味の可能性もあるのだから。


能力名アビリティ魔改造技能マギリビルディ】のラーニング完了]
[能力名【技師の指先】のラーニング完了]


 そして得た二つのアビリティ。
 魔力を用いるこの世界の改造手術だから、【魔改造技能】となったのだろうか。
 何だか少し違うような気がしないでもないが、それはさて置き。
【技師の指先】は手先が器用になり、精密作業がしやすくなるアビリティだったので、有用な部類に入るだろう。使い方次第では戦闘時でも活躍する。
 そうして血の一滴に至るまで捕虜の後始末を終えた後は、個人的な目的の為、さっさと襲撃して新しい捕虜を得る事にしよう。
 情報収集の際、今後について気になるモノがあり、早く記憶を取り戻す為にそちらに力を入れたいからだ。


《三十四日目》/《百三■四■目》

 勝負はいち早く準備を済ませ、状況を整えた方が勝つものだ。
 相手がまだこちらの事をよく知らないこの機を逃す訳もなく、仕込みを夜明け前から行った。
 要救助者達がいる施設近くを密かに巡り、屋根裏や意図的に作った死角などに、五種類のゴーレムを隠して配置していく。
 一つ目は、合図すれば路地裏や隠された秘密の抜け道などをふさぐ、塗り壁ゴーレム。
 二つ目は遠隔の眼となる監視ゴーレム。
 三つ目は構成員を捕らえる捕縛ゴーレム。
 四つ目は要救助者を助け円滑に移送する保護運搬ゴーレム。
 そして最後は制圧用のはちゴーレム。
 この五種類の中で、今回最も重要なのは蜂ゴーレムだ。
 襲撃時の主力になる蜂ゴーレムの大きさは五センチほど。
 全身赤黒い金属製なのでズッシリと重い。しかし、薄く透き通るような金属翅は自ら風を生み出す特性を持つ魔法金属製であり、それを高速で動かす事で、重量からは想像できないほど速く飛行する。
 金属翅は鋼鉄を紙のように切り裂く鋭さを持つので、ただ飛び交うだけで雑魚処理には十分かもしれないが、加えてモデルとなった蜂らしく毒針を持つ。
 紫水晶のような毒針には、対象を無力化する【麻痺毒】や【睡眠毒】をはじめ、悪夢を見せる【幻覚毒】や血を固める【凝血毒】を仕込んでいる。
 また胴体には、破壊された時、証拠隠滅も兼ねて近くの敵を殺傷する為にアビリティで作った【高性能爆薬】が入っているので、即席の爆弾にもなる。
 そんな気楽に使い捨てできる高性能な蜂ゴーレムも、やはり単体より集団である方が効率的だ。
 その為、各施設の近くには蜂ゴーレムだけでなく、蜂ゴーレムの補給や修理、製造を行う巣も設置した。
 この巣には一つにつき最大百体まで搭載可能であり、それを一つの施設につき十個用意した。
 つまり蜂ゴーレムだけで千体になる。
 逃げ場を塞いだ敵拠点はただの狩場に変わり、制圧後の行動もスムーズになるだろう。
 そうして仕込みを済ませた後は様子見を続け、太陽が沈むまで待った。
 そして逢魔おうまとき、作戦開始である。
 各施設近くに潜むゴーレム達が一斉に動き、その猛威を振るった。
 アチラも襲撃を警戒していた。用心棒を増員し、より厳しい監視体制を敷いていた。
 だが、蜂ゴーレムの大群に襲われるとは思っていなかっただろう。
 普通の構成員なら蜂ゴーレム一体で十分制圧可能で、戦闘系幹部の場合でも数十体の蜂ゴーレムが群がってお終いだ。
 一部の戦闘系幹部には蜂ゴーレムを数体壊されたが、そもそも蜂ゴーレムは消耗が前提にある。
 次の相手に意識を向けた戦闘系幹部らの足元という死角で、倒したはずの蜂ゴーレムが爆散。その破片に襲われて彼らは死傷した。意識外からの攻撃を避けられる者は少ないので、仕方のない事だろう。
 壊しても壊さなくても致命的な蜂ゴーレムにより、構成員はほぼ全て拘束に成功。
 各施設が完全に制圧されるのも時間の問題だった。 
 そして首領の屋敷では、無数の蜂ゴーレムに加え、【宝殻鬼ほうかくき】を装備した俺と蟻人少年、それから救助した者の中から戦闘用に調整された男性二人と女性一人が乗り込んでいる。
 本拠地だけに、導入した蜂ゴーレムの数は二千に及ぶ。
 数の暴力と統率された連携による阿鼻叫喚あびきょうかんの中を、俺達は進んでいった。


 その後、襲撃は特に問題も無く短時間で終わった。
 多少は見逃しもあるだろうが、首領をはじめ、この組織に改造技術を持ち込んだくだんの狂人や主要幹部、敷地内にいた構成員の大半の捕縛は完了。
 更に、各施設にいた要救助者から優れた武具や高価な家具、隠し財産までの全てを確保した。
 漁夫の利を狙って襲ってくる者がいるかもしれないので、警戒しながら色々と後始末していくと、一段落する頃には日が変わっていた。
 襲撃に費やした時間よりも、後始末の方が長かった。
 ちなみにふところに入れていた【怨霊の魂石ガイスト・ゼーレ】は、気がついた時には【破魔の浄石エクセスト・ローレ】に変化していた。
 つまり、《イア・デパルドス》に怨みを抱いて死んだあの店主との約束が、無事に果されたという事だろう。
 共に突入した女性戦闘員いわく、【破魔の浄石】はアンデッドモンスターに対する高い耐性と攻撃力を得られる貴重なアイテムだそうだ。
 内部に銀の光を秘めた水晶のような見た目に変わったので、調度品としても価値が高そうではある。
 それをどう扱うか少しだけ迷い、結局喰った。


[能力名【破魔の浄石】のラーニング完了]


 ラーニングできた能力を試しに使ってみると、身体が銀の光を帯びた。周囲に充満する死臭が、この銀の光に触れた傍から浄化されていき、どことなく清浄な空気が漂っているような気がする。
 何だか空気清浄機みたいだが、それはともかく。
 万が一、ここの構成員達が怨霊となって復讐しようとしても、これなら問題なく返り討ちにできそうだ。
 個人的に、怨霊が喰えるか試したいので、復讐に来てくれるのなら歓迎しようと思う。


《三十五日目》/《百三■五■目》

 ――たった一夜にして起こった《イア・デパルドス》壊滅事件に迫るッ。
 ――近隣住民からの情報によると、無数の何かに襲われていたという。
 ――《イア・デパルドス》の首領デパカドラ氏の本邸には、戦闘の痕跡が僅かに残されていただけで、調度品などあらゆる品が無くなっていた。
 ――出頭して治安維持機構に保護された元構成員は、『鬼に、鬼に……』と譫言うわごとのように繰り返すだけで、詳しい事情聴取は行えない状態にある。
 ――先日の襲撃事件にも現れた宝石鎧鬼、その正体は一体何なのかッ。
 ――《アドラム山道》にて山蛮竜アケムナラが氷付けの状態で発見され、山道は一時通行止めになっている。
 ――毎年恒例、《テスラ雷平原》に大量発生するディアブトロン・トードが一夜にして壊滅。普段よりも激しい雷鳴がとどろいていたらしく、それが関係するのか?
 ――巡礼中だった【堕神教】の高位汚染教師ナルトラ・カジャと信者一行の消息が《マドラレン宣教都》付近で途絶える。
 ――数日前に突如現れた、天に一直線に伸びる岩の天塔を駆け上った冒険家アンドレイ氏曰く、『塔の先は天空島と繋がっていた』という。新しい交易路となるのやもしれない。


 号外や夕刊の一面をいろどる記事は、俺が起こした襲撃事件についてが多かった。
 幾つもある情報誌が一斉に似た話題を取り上げ、世間の表裏両面で活動が激しさを増しているらしい。
 その他にも色々と気になる情報が掲載された情報誌を流し読みしつつ、俺は拘束した狂人から様々な情報と技術を吸い出していた。
 狂人は、ハダカデバネズミをヒト型にしたような血色の悪い獣人で、血や何かの薬品の汚れが目立つ白衣を羽織はおっている。
 一人でも問題なく改造手術ができるように自分自身も改造しており、生身のように精密操作できる偽腕が左右の肩とわきに追加され、六本腕となっている。
 目は特殊なマジックアイテムの義眼で、後頭部には増設脳が入った半透明の強化ガラス管が引っ付いている。
 外見からして色々とぶっ飛んでいるし、溢れ出る知識と技術と発想はまさに狂人と言うしかないレベルで、間違いなくある種の天才である。
 倫理観が無さすぎて、元々所属していた研究施設にいられなくなったそうだが、それも仕方ないとしか思えない。
 そんな狂人から情報を引き出す方法として、当初は拷問でもしようと思っていた。
 というか実際にそうした。
 しかし狂人は、自分の意思で痛覚などをほぼ完璧に遮断できるようにしていたので、拷問は意味が無かった。
 これでは非効率的だし、下手にやりすぎると情報を引き出す前に死ぬ事になる。
 そう判断して早々に拷問は中止し、さてどうするかと思っていたのだが……改造技術について聞いてみたら、呆気なく答えてくれた。
 どうやら狂人は、自分自身の境遇よりも、改造技術の発展と探求にしか興味が無いようだ。
 自身が殺されるのは、それ以上探求も発展もできなくなるので嫌らしいが、誰かが思想や技術を受け継いでくれるのなら、それはそれでいいという。
 ある程度話を聞いた後、俺が前世の改造技術に関する知識を基に、狂人の改造技術との差異について質問したところ、そこには狂人にも無かった発想が多分に含まれていたらしい。
 食いつきが凄く、俺の考えや発想などをポツポツ提示するだけで、テンションを上げながら延々と語ってくれる。
 面倒なタイプの性格だ。付き合うのがとても疲れる。しかし饒舌じょうぜつになるのであれば、長い付き合いはご遠慮願うにせよ、一時的に我慢するだけの価値はあるだろう。
 扱い方が分かれば、狂人を制御するのは物凄く簡単だった。
 引き出す情報が多すぎて時間が必要だが、一先ずの用事は済んだ。
 蟻人少年達には自立に向けてリハビリしてもらっているので、少し時間の余裕もあった。
 しばらくは狂人に付き合い、得られた全ての情報を【電脳書庫】に記録する作業が続きそうだ。 


《三十六日目》/《百三■六■目》

 今日も狂人から情報を引き出す。
 詳しく説明するのははばかられる内容なので省略するが、現在、狂人は改造手術に取り組んでいる。
 俺が語った内容に刺激されて発想した新しい改造手術を、実際に行っているのだ。
 幸い、実験体とする素体は先の一件のおかげでそこそこいた。
《イア・デパルドス》の構成員だった捕虜達である。
 これまで他人にしていた事を、今度は自分達で受ける事になった。ただそれだけの事だ。
 たとえ死んでも、その肉体は次に繋がる犠牲となるので、無駄も無い。
 ただ、今日はここまでにしよう。
 俺も助手を務めてみたが、常人では気分が悪くなるだけだ。


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