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1巻

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 ちなみに、能力とかを得るためには何でもかんでも喰えばいい、というモノでも無い。喰う物にもどうやら条件があるらしく、生物の場合は鮮度が重要になってくる。死んでから最大十二時間後まで。それが生物を喰った場合に何かしらを得られるタイムリミットである。
 あとは同じモノを喰えば喰うほど何かしらの能力を得やすくなるし、脳や心臓など、獲物のパワーが集中している部位を喰えばより確率は上がり、既に獲得した能力を強化する事が可能だ。
 それに特殊な能力だけでなく膂力りょりょくや治癒力や生命力など身体的な部分も強化もでき、俺より強い生物を喰えばほぼ間違いなくそれが持つ能力を獲得できる。
 つまり【吸喰能力アブソープション】は単体で見ればそこまで強い能力ではないが、喰えば喰うほど強くなっていく事が可能なのだ。
 ま、そんな能力に目覚めた転生前の俺は能力を強化する為に、災害指定生物――竜巻や地震といった自然災害と同一視されるほど危険な生物――を殺して喰らい、ESP能力を犯罪に使用していた悪者を捕まえて肉体の一部を〝拝借する〟事で多くの能力を持っていた。
 ちなみに霧壺を放置したらどうなるかを知った【未来予知プレコグ】もその一つだった。 


 しかし残念な事に、それらは全部リセットされている。生き残るのにかなり便利な能力が幾つもあったので、リセットされたのは惜しい。
 だが【吸喰能力アブソープション】があるだけで十分過ぎるほど幸運だったと思うし、食人などの経験――初めて人肉を喰った時に何とも思わなかったので調べた結果、【吸喰能力】は忌避感などを麻痺させる作用もあるらしい――があったからこそ今もこうして平然と謎の虫やホーンラビットを何の躊躇もなく生で喰って生きながらえているのだから、リセットされたのは悔しいが取り返す事が可能な事でしかない。
 生きる上で喰う事はとても重要な事なので、常識とか倫理とかこの際無視する。
 それで今回喰ったホーンラビットから得られた能力【脱兎】。これはどうやら逃走行為を取ると、逃げ足上昇に逃走確率上昇、環境適応能力上昇などのボーナスが発生するアビリティらしい。
 なぜホーンラビットはこんなアビリティを持っているのに、逃げずに俺達に真っ向から突っ込んできたんだろうと首を傾げながら、その後二匹のホーンラビットをとっ捕まえて喰らう事に成功する。
 腹が膨れて気分良く寝た。あとゴブ吉くんの俺に対する信頼度が急上昇中のようである。
 弱肉強食の自然界で、ゴブ吉くんが俺を自分よりも上の存在だと認識しているからだろう。


《六日目》

 どうやら普通の生まれたばかりのゴブリンは、ホーンラビットにすら負ける弱者であるらしい。
 いや、今日まで木の実を主食にして生き延びていた――と言ってもまだ日はそんなに経ってないけど――ゴブちゃんがそう教えてくれたのだ。
 ゴブ美ちゃん、と名前に美がついてるけど決して綺麗では無いので悪しからず。他のゴブリンと同じ醜悪な面デスよ、ほんのちょっとはマシですがそれほど大差は無し、という以前にそもそも今の俺では大雑把な区別しかできないし。
 俺? 俺も似たようなもんだ。近くの川で身体洗うついでに確認しました。
 ゴブ美ちゃんによると他のゴブリンとは比べ物にならないほど美形らしいけど、比べてるモノがモノだし、正直『ゴブリンにモテてもなぁー』としか思えない。それにゴブリンのイケメンって言われても素直に喜べない、ゴブリンのイケメンってなんだよ。
 ちょっと遠い目をしてみて精神を落ちつける。
 あ、ゴブ吉くんは平凡クラスらしいです、良かったね。
 話を戻すが、生まれたばかりのゴブリンは基本的に弱く、だからこそココでは生まれつき他よりも強い個体や運がいい個体、知恵がある個体だけが生き残るようになっているらしい。
 選別してる訳ですね、本当の仲間になれる程度の能力がある者だけが生き残る様に。本当に世知辛い。で、ゴブ美ちゃんによると、既に何人――正確には、何ゴブ? だって人じゃないしなぁ――かがホーンラビットの角の犠牲になっているとかなんとか。
 正直その話を聞いて、『えーマジかよ』と思った。というか口に出てたけど。
 だってさ、ホーンラビット(平均サイズ)って本当に野兎をちょっと大きくした程度のサイズなんだよ。それに体長はともかくとして、二足歩行を生かして頭上から攻撃できるゴブリンが逆に殺されて喰われるとか……ああ、有りうるか。
 だって他の奴ら、木の棒を使うとかって知能すらなかったのだ。殴る蹴るの暴行が一般的だったほど。素手で立ち向かえば、そら確かに殺されるかもしれない。ホーンラビットは額に角という武器を持っている。馬鹿が無手で真正面はきついか。
 それにもしかしたらホーンラビットの方が小さいというのも原因の一つかもしれない。下から腹部を角でグサっと抉るに違いない。
 ただ最近では俺とゴブ吉くんの真似して木の棒を装備した、ちょっとはさといゴブリンもチラホラと見かけるようになっているのだが。
 その日は情報を教えてもらったお礼にゴブ美ちゃんを加えた三人でハンティング。
 ホーンラビットマジウマー。


《七日目》

 今日は雨だったので、巣穴の洞窟でまったりと作業中。
 カツンカツンと音を響かせながら、昨日河原で見つけた黒曜石の様な謎の鉱石にそこらで拾った大きめの石を打ちつけて研磨中。
 先人にならって、解体用のナイフモドキの製作である。
 いや、そろそろ毛皮で服が欲しいかなぁーと。初期装備品である腰に巻いたボロ布から卒業したいが、角じゃ切るのに適してない。ならば皮を得る為にナイフを、という事だ。
 研磨する音が五月蠅うるさいのか、それとも興味を引かれるのか、細かい事情は知らないし興味もないが、作業していると同時期に生まれたゴブリン達が近づいてきた。
 何やら聞きたそうにしていたが、俺が無視し続けると大半が散っていった。邪魔だからよし。
 年上のゴブリン達からは何故か微笑ましいモノを見る視線を向けられる。訳が分からん。
 ナイフモドキも昼を少し過ぎた位で三本も製造する事ができたので今日はよしとしておく。というか、両手がちょっと痛くなっていたからだが。
 しかしナイフモドキを造るのを止めた途端暇になってしまったので、今度は俺の作業の様子を飽きることなくジッと見ていたゴブ吉くんとゴブ美ちゃんの二人――いや、次からは人ではなくゴブで数えよう――を近くに呼んで、ハンティング時のフォーメーションについての作戦会議を開いた。
 あーだこーだとそれぞれの意見を飛ばし――殆ど俺の独壇場だったが、ゴブ吉くんよりもゴブ美ちゃんの方が頭がよくてたまに意見を出している。ゴブ吉くんはうんうんとただ頷くだけだ、莫迦だから――ていると、そこに一際しわくちゃなゴブリンが近寄って来た。
 このゴブリンこそゴブじいである。この【小鬼の集落ゴブリンコミュニティ】内最高齢のゴブリンで、ご意見番みたいな地位についていて、そして何より、俺にゴブ朗と名付けたゴブリンの爺さんだ。
 作戦会議は一旦止め、今度はゴブ爺に色々と話を聞く。いや、ゴブ爺は無駄に長生きなだけはあって物知りなので、こう言った機会は逃したくない。情報収集は大切だ。
 まあ、二十年と少しを生きただけで老人と呼ばれるようになるのだから、この身体もそう長生きできないらしいけど……。ハハハ。
 気を取り直して。
 ゴブ爺にはこの世界の事とか、レベルや【存在進化ランクアップ】の法則――いや、なんかそんなもんがあるらしいよこの世界――とか、何故この洞窟には俺達のように生まれたてのゴブリンと、ゴブ爺のようにとまでいかないがそれなりに高齢なゴブリンしかいないのか、などを教えてもらった。
 この世界の話やレベルや存在進化ランクアップなどは追々語るだろうから今は置いといて、まずはこの洞窟に住むゴブリンの話をしよう。
 どうやら若い衆――俺達の親に当たるかもしれないゴブリン達――は森の外に出稼ぎに出ているそうだ。出稼ぎってつまりは略奪ですね分かります。
 え、ホーンラビット程度に殺される程ゴブリンは弱いんじゃないかって? いやいや、それは産まれたてのゴブリンが、である。
 確かにゴブリンは種族として弱者だが、だからこそこの森で産まれたゴブリンは動けるようになった次の日から自活するようにしつけられて、今の俺のように自給自足していく過程で木の棒を使ったり石を投げたりなどし、生きる術と悪知恵を文字通り命がけで習得していくらしい。
 弱いモノは死に、強いモノだけが生き残るってシンプルかつ厳しい自然の掟ですね分かります。
 ホント容赦なくて泣いた。
 ただ今回は早々にバディー組んだり木の棒を使用してホーンラビットを初っ端から狩っていた俺達を模倣する輩が多かったので、生き残る個体数は他の世代よりも多くなるだろう、との事。
 ナルホドナーと頷きつつ、そんな歳になってもゴブリンと言う種は子孫を残す為なのかアッチの方は衰え知らず――死期が近いからかもしれないが――らしく、なんだかゴブ爺の腰布の形が変化したのを確認してしまった。
 オエっと吐きそうになったが、無理やりに話を打ち切って早々に視線を逸らす。見続けられるかあんなもん。
 その後話を終えたゴブ爺はホクホク顔でたぎる欲望を発散するべく、洞窟の奥に向かっていった。
 しばらくして、特徴的な粘着音とか細く弱々しい悲鳴が聞こえた。
 捕まえられた女性達に『南無』と再度合掌して祈りを捧げる。繰り返すが今の俺では助け出すのは無理なので、いつか楽にしてやりたいものだ。流石に、あの様子では生きている事こそが酷だろう。
 それくらいの情けは俺にだってある。


《八日目》

 俺とゴブ吉くんとゴブ美ちゃんのトリオでハンティングに出かけた。
 それにしても、数日の狩りで武装――と言っていいのか分からない程粗末なモノだが――はかなり充実してきた。
 俺は幾つかあるホーンラビットの角の中から特に大きいモノを二つ選び、片手に一つずつ持つ、二刀流ならぬ二角流。そしてもしもの時の為の保険として残りの角は森に生えている頑丈なつたを使ってくくりつけ、隙間だらけの簡単な胴鎧として装備。角は案外硬いので、突きなど一点突破系の攻撃を防ぐのは難しくても、打撃などに対しては効果を発揮してくれる。保険としては十分だと思われる。
 ゴブ吉くんは自分の胴体程の太さがある木の棍棒と木の胴鎧を装備している。木の棍棒はそのままだと流石に太すぎて両手でも持てなかったので、持ち手を角でガリガリと削る事で細くしてあげている。ゴブ吉くんは三ゴブの中で一番の力持ちで莫迦だから、何も考えずに鈍器でただひたすら殴るというスタイルが最適だったりする。
 ゴブ美ちゃんにはホーンラビットの皮の切れ端と頑丈な蔦で造っていたスタッフ・スリング――投石器スリングに柄を取り付けて射程距離を強化したモノ――を持たせてみた。そこらに転がっている石を弾にして、鳥などに対して遠距離から攻撃できる後衛スタイルだ。胴鎧は今回作れなかったが、今後素材と時間があれば造ってあげようと思っている。
 ちなみに三ゴブともにボロい腰布は標準装備です。新しい服が欲しいです。
 しかしうん、やっぱり人数が増えると楽だ。
 近接前衛フォワードのゴブ吉くん、中距離型ミッドレンジの俺、後方支援バックアップのゴブ美ちゃんのフォーメーションは効率良く機能し、今日の戦果にはホーンラビットの他に新しい獲物も得られた。
 体長六〇センチ、直径六センチ程の体躯をし、黒い鱗に斑模様が特徴的な毒蛇〝ナイトバイパー〟が三体。
 七色の色彩を持つ翼という目立って仕方が無い、蝙蝠こうもりに似ているが恐らくは別の生物だろう〝ナナイロコウモリ〟を一体。
 狸とアルマジロを足したかのような、背部が硬い甲殻で覆われて硬い守りを見せた〝ヨロイタヌキ〟を二体。
 そして定番になってきたホーンラビットは今回二体。文句なしの成果だった。



 しかしそれにしても、ジュルジュルとよだれを垂らしながらつぶらな瞳を向けてくるゴブ吉くんとゴブ美ちゃんはどうにかしろと言いたい。いや、その気持ちは分かるが。
 他のゴブリンのように得た獲物をその場その場で喰うのではなく、使える部位は武装に流用したいという俺の方針で解体作業が入るため、普通のゴブリンの食事よりも一手間も二手間も多くかかっている。
 それに解体する時はまとめてやるので、ハンティング中は基本的に栄養補給をあまりしていない。
 だから腹が減っているのは分かるのだ。
 でも俺はそれを黙殺し、作業に移った。ガクリとうな垂れる気配を感じる。はぁ、仕方ない。
 何時ものようにホーンラビットの角を折り、角を手に入れてからその肉体は先にゴブ吉くんとゴブ美ちゃんに投げ渡す。本当はホーンラビットの温かそうな毛皮が欲しかったが、涎たらしながら健気に待つゴブ吉くんとゴブ美ちゃんの姿はあまりにも不憫だったので。
 しかしゴブ吉くんとゴブ美ちゃんは何故かそれを受け取りながら、キョトンとし、小首を傾げている……ああ、喰うなと言っていたのに角無しホーンラビットを渡されたから、不思議がっているのかと気付いて、今度は声に出して言った。
『少し時間が掛かるから先に喰え』と。
 しばらく悩んだ後、ゴブ吉くんとゴブ美ちゃんはガツガツムシャムシャと肉を咀嚼そしゃくする。血液が二ゴブの口周りを赤く汚していく。その姿に食欲が刺激された。
 我慢しながら視線を外し、俺はまずヨロイタヌキの甲殻を剥がしにかかった。ホーンラビットの角を使っても突き破れなかった硬い甲殻は、鎧の素材として使うのに申し分ない。
 ココで昨日製作した黒曜石のような鉱石で造ったナイフモドキがさっそく役に立った。


 切れ味は抜群、とまではいかないものの、角よりは断然楽に解体できた。解体して分かった事だが、どうやらヨロイタヌキの甲殻は皮膚の一部が硬質化した結果のモノであるらしく、一体分の甲殻を剥がすのなら全身の毛皮も丸ごと剥いだ方が楽で綺麗に解体できるようである。
 少々苦戦しながら全身の毛皮と甲殻を剥がし終えると、再び謎アナウンスが聞こえた。



[ゴブ朗は〝甲殻獣の皮付き甲殻〟を手に入れた!!]

 何だこれとはアナウンスを聞く度に思う。が、害は無いのだからまあいいかと放置。
 まだ残りがあるので俺も作業の合間に栄養補給するべく、ヨロイタヌキの心臓と脳、それと右足を千切ってバリバリ喰う。他の部位はゴブ吉くんとゴブ美ちゃんにあげた。まだ肉は有る。
 それにしてもヨロイタヌキの肉うめー。コリコリとした歯応えあって、噛めば噛むほど旨味が出てくるようだ。あ、ちょっとだけ甲殻もかじってみよう。


[能力【甲殻防御】のラーニング完了]

 ちょっと甲殻を齧ったら新しいアビリティをラーニングできた。先に心臓と脳、それと右足を食べたのが良かったのかもしれない。
 ちなみに【甲殻防御】は生物の甲殻で出来たモノで防御すれば防御力上昇に防御確率上昇、致死攻撃妨害確率上昇って効果が発揮される。うん、なかなかいいアビリティだ。使い勝手が結構いい。
 気分が良くなり、やり方も分かったので先ほどよりも短い時間でもう一体のヨロイタヌキを解体し終えた。以前の職場で生物を解体する事には慣れているので、コツさえ掴めば早いモノだ。
 今度は半分くらい肉を食べ、残りをゴブ吉くんとゴブ美ちゃん達に投げ渡し、もう一度甲殻をちょっと齧って【甲殻防御】のアビリティレベルを上げておく。
 アビリティレベル、と言っても明確な表示は無く、分かり易くレベルって言っただけだから特に意味は無い。アビリティの効果がさっきよりも多少強くなった、と思っておけば十分だろう。
 次はナナイロコウモリの解体に移る。七色の綺麗な翼を根元から切り離し、血を吸う機能が有りそうな牙を引っこ抜く。後は取りあえず皆で肉を分けて食べた。
 ナナイロコウモリの肉は歯応えのあったヨロイタヌキの肉とは違って非常に柔らかく、これはこれで、美味である。というよりも、ゴブリンになってから喰う獲物全部美味いんだけど。種族的な味覚がそうなってんのかねぇ? 詳しい事はどうでもいいが、少しだけ気になった。
 ただ残念ながらナナイロコウモリの能力はラーニングできなかったが、身体能力はちょこっとだけ強化できたらしいと、肉を喰って感じた身体の充実感で判断する。
 ESP能力【吸喰能力アブソープション】は【甲殻防御】などと言った能力アビリティだけでなく、膂力とか防御力とか生命力と言った身体も強化してくれるので本当に有り難い。
 ……それにしても、ESP能力って魂由来の能力なのか? どこかの高名な学者様の論文では『特殊なウイルスに感染し、適合した者が能力を発症する』とか言っていたような、そうでないような。と小首を傾げるが真偽を確かめる術が無いので、益の無い思考は一旦放棄。
 最後に今回のメインディッシュ、三体のナイトバイパーの解体に取り掛かる。



 取りあえず黒曜石のような鉱石で造ったナイフモドキで首を切り落とそうとしたが、蛇皮がやけに硬くて一本は刃が欠けてしまった。また削り直しだとうな垂れつつ、何かに使えるなと思った蛇皮をビリビリと引き剥がす。頭部を切り落として皮を剥いだ胴体は、一ゴブにつき一匹と丁度良かった。
 ガブリと喰った。かなり美味かった。
 うん、これは焼いて酒をぶっかけたらそれはもう絶品だろうな、と一口目から思うほどに美味かった。今も想像しただけでつばが溢れそうになる、それくらい印象深い食材である。
 ホーンラビットやヨロイタヌキのコリコリっとちょっと硬めの肉も美味かったし、ナナイロコウモリの柔い肉も美味い。だが、ナイトバイパーの肉はそれらを軽く上回る。その美味さに思わず作業の手が止まってしまい、三ゴブ揃ってガツガツと肉を喰い漁る事になった。


[能力名【赤外線感知サーモグラフィー】のラーニング完了] 
[能力名【蛇毒投与ヴェノム】のラーニング完了]
[能力名【猛毒耐性トレランス・ヴェノム】のラーニング完了]
[能力名【気配察知】のラーニング完了]
[能力名【蛇の魔眼イーヴィル・アイ】のラーニング完了] 

 喰い終わると、五つのアビリティを習得できてしまった。
 どうやらナイトバイパーは今の俺よりも格段に格が上だったらしい。これは【吸喰能力アブソープション】が自分よりも強いモノを喰えば何かを得られる確率が非常に高くなる性質上、まず間違いないだろう。
 それに一度の食事で一気に五つもアビリティを得られたのは中々ない経験だった。人間だった前世よりもゴブリンが弱い種族だからかね、と推測してみる。
 いや、それにしても今日は満足いく成果になった。まだ残っている毒牙は道具として使ってもいいのだが、今回獲得した毒に対する対抗手段とも言える【猛毒耐性】がないゴブ吉くんにゴブ美ちゃんでは、かすっただけで瀕死になってしまうに違いない。最悪即死だ。
 それに俺が今回得たアビリティ【蛇毒投与】は、(俺愛用の角のように)尖った部位を持つ物の先端からある程度意図した性質の毒を分泌できるようになるモノである。触れていないとこのアビリティは発揮されないが、この毒牙を使うよりも遥かに使い勝手がいいし、安全管理も非常に楽だ。
 なので事故が起きないように、今回は切り落とした三つの首は俺がボリボリと喰う。
 うん、ナイトバイパーの毒――【猛毒耐性】と【吸喰能力】の両方で完全に無害化されている――のピリピリとした刺激がより一層美味である。
 しかし、羨ましそうな視線を向けるな二ゴブとも。これ、君等が食べれば死んじゃうよ?


《九日目》

 今日は雨だった。土砂降りである。
 外には出たくないので昨日獲得した素材を使い、新武具の製作に勤しむ。
 昨日の帰り路に、以前ゴブ爺に教えてもらった近くで採取できる針のような【鋼刺草ハガネシソウ】と、頑丈な紐のような【細蔦ホソツタ】は既に確保済みなので、ヨロイタヌキの皮付き甲殻とナイトバイパーの皮をチクチクと裁縫していく。
 最初に造ったのは俺の胴鎧だ。ここでヨロイタヌキの甲殻を前後に使用しても良かったのだが、取りあえず今回は背面を甲殻でガッチリと守り、前面はこれまで背面に使っていた分のホーンラビットの角を使う事で隙間を殆ど無くす事ができた。
 これでやっとボロい腰布から服装がランクアップできた気がする。
 以前の胴鎧? いや、あれ蔦で角を括りつけただけだから服とは認められない。それにボロい腰布はデフォで装備してたし。
 次いで木で正方形をこしらえて、残った一体分の甲殻をつけてみた。まだまだみすぼらしいが、これで頑丈な盾の完成だ。これはゴブ吉くんにプレゼント。
 俺は盾を使わない二角流だし、この盾は俺が使うには少々大きすぎる。だから前衛のゴブ吉くんが持つべきだろう。それに最近では片手で棍棒振り回せるようになってきたので、片手をいたままにするのは勿体ない。
 盾を渡したら、大層喜んでくれた。自分の胴体と同じ太さの棍棒と、ヨロイタヌキの甲殻で造った盾と木の胴鎧を装備したゴブ吉くん。うん、なかなか様に成っている。
 次はゴブ美ちゃんの胴鎧だ。使用したのは残っていた蛇皮とナナイロコウモリの翼、それと余った角を少々。それらをチクチクと縫い合わせていくと、何だか民族衣装的な胴鎧が完成。
 ナナイロコウモリの翼を使っているので色鮮やかだが、案外翼膜よくまくは丈夫らしく弾力性がある。ホーンラビットの角はゴブリンの急所を護る様に配置しているので、最低限度の防御効果は期待できる。
 あとナナイロコウモリの牙で首飾りを造ってみた。いや、ちょっとゴブ美ちゃんだけ少な過ぎる様な気がしたからオマケしたのだ。コッチも大変喜んでくれました。
 そうだな、今度造るのは俺は武器、ゴブ吉くんは防具、ゴブ美ちゃんは弓などがいいだろうな。
 本日の食事は赤ん坊時代――と言っても数日前だけど――に食べていた、芋虫みたいな奴だった。これ、洞窟で獲れるらしいです。喰ってみると案外美味いのだから、この虫も侮れない。
 ラーニングはできないけどさ。


《十日目》 

 雨の痕跡が色濃く残る森の中、俺達は狩りをした。
 今日の戦果はホーンラビットにナイトバイパー、それとヨロイタヌキだった。
 もう少しで何かがラーニングできそうなナナイロコウモリが獲れなかったのは残念だが、仕方ない。そういう事もある。
 ちなみにこの他にも色んな生物に遭遇してるのだが、今の俺達では到底勝てそうにもない奴等が多く居るので、それらを避けてたら似た様な獲物しか取れないだけだ。一応狩りをする度に着々とレベルは上がってるので、いつかは狩れるだろうけど。
 ああ、今日は狩りも終わったのでレベルとかの話をしておこう。
 レベルってのは、早い話が個体の強さを分かり易く表示したモノだ。どういう法則かは分からないが、意識して眉間に皺を寄せれば視界に数がぼんやりと浮かぶ。
 レベルは最大で〝100〟まで表記されて、それ以上数が上がる事は無い。ちなみに今の俺は〝レベル86〟とゴブリンにしてはかなり高い、らしい。
 生後十日とはいえ、怪我一つせずに格上のナイトバイパーなどを殺して喰ってりゃ嫌でも上がるってなものだが。あと、どうでもいいかもしれないけどゴブ吉くんは〝レベル78〟、ゴブ美ちゃんは〝レベル55〟である。俺達は順調に強くなっている。
 とは言っても種族がゴブリンのままだと、例えレベルが〝100〟になったとしても他種族からすれば雑魚扱いされる事が多いらしいから、今はレベルとかあまり気にしていない。
 この世界の面白い所はレベル以外にもまだまだある。
 ゴブ爺によるとレベルの上限である〝100〟にまで到達すれば、普通はそこで成長は止まる。しかしそこでとどまる事無く成長できる素質がある個体は【存在進化ランクアップ】する事が可能なのだとか。
 早い話が、素養のある奴は上位種に進化し、さらに強くなれるって事だな。
 今の俺が順調に成長し続けたと仮定すれば、大体【小鬼ゴブリン】から【中鬼ホブゴブリン】に、【中鬼ホブゴブリン】から【大鬼オーガ】にと言った感じに進むだろう。これが一般的なルートだからだ。
 とは言えオーガ以上の種族もまだまだ居るし、この他にも成長するルートは存在していて、どういった種族に進化するのかは、進化するまでにどういった行動をしてきたかによって変化するらしい。
 例を出せば――
 大鬼にまでなり、好んで獲物の生き血をすすり、一定以上の膂力と知能、そして何より高いプライドを持つ者は【吸血鬼ヴァンパイア】に。
 大鬼にまでなり、斧や大剣といった重量級の武器を好んで使用し、尋常ならざる膂力と回復力を有する者は牛頭の鬼である【牛頭鬼ミノタウロス】に。
 中鬼にまでなり、屍の腐った肉や体液を好んで喰らい続け、やがて【霊魂】まで喰せる様になった者は【死食鬼グール】に。
 中鬼にまでなり、剣や刀や槍など特定の武器の扱いに長け、一定以上の知能や技量を有する者は人間に限りなく近く、しかし全く別の存在である【半血剣鬼ハーフ・ブラッディロード】など様々な分類に分かれる【鬼人ロード】系の種族に。
 ――と言った具合で、取りあえず素質があれば【鬼】系統に属するモンスターに成れるらしい。
 生物の進化の過程としてはハッキリ言って異常としか言えない法則だが、現にあるのだから否定なんてできるはずがないし、弱肉強食の世界で生きていく俺としてはかなり助かる話だ。
 とはいえ、ゴブ爺が言うには普通【存在進化】なんざ早々できないらしいのだが。
 それにしても、仮に俺が大鬼オーガにまでなれたとして、どのような進化をするのだろうか。
吸血鬼ヴァンパイア】になるにしては、プライドは低いだろうし。
牛頭鬼ミノタウロス】になるにしては、斧とか重量系の武器よりも刺突系の比較的軽い武器を好んでいるし。
死食鬼グール】には、なりたくないなぁ。ただゴブ爺が言うにはグールはヴァンパイア同様アンデッド属性も兼ねるから、様々な魔術を駆使する【死者の王リッチ】とか【首なし騎士デュラハン】などにも成れる可能性はあるらしいけど。
 アンデッド系のモンスターを目指すなら、ヴァンパイアになるよりは楽だろう。ただ肉の身体を持てないのが難点か。疲れ知らず、などの利点もあるのだが。
 一番有りえそうなのは、様々な武器の扱いに精通する【鬼人ロード】系だと思う。
 まあ、まだまだ先の話なんだけど。


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