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5巻

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 2 野望


 この王都に来たとき、ディシディア王の頭を悩ませている問題は複数あった。
 吸血鬼、盗賊、悪獣あくじゅう、そして隣国とのいざこざ。
 吸血鬼は俺と王都で知り合った猫耳娘のミーシャが協力して潰し、盗賊に関してはクロエ、ルシル、イレーヌの三人が処理してくれた。
 そんで、その謝礼として一億リゼもいただいちゃった。ちなみに、リゼは日本の円とほぼ一緒の価値。
 王様もだいぶ喜んでいたな。もう少し王都に残ってくれないかと頼まれたくらいだ。問題解決のため、というよりは単に俺たちに興味があるらしい。
 悪獣の封印はいずれ解けるにしてもまだまだ先だろうし、早急に解決しなきゃいけない問題はかたした。
 そんなわけで、俺たちはのんびりと日々を過ごしていた。


  ◇ ◆ ◇


「ジャー、少し付き合ってくれないか」

 朝食後、クロエから剣の相手を頼まれたので引き受ける。宿にばかりいちゃ体がなまっちまうからな。
 適当に見つけた公園で、軽く剣戟けんげきを始める。
 二人で剣をぶつけ合っていてもそれほど目立ったりはしない。周囲には抜き身の剣で素振りしてるおっさんとか兵士とかもいるくらいだ。こういう光景は異世界ならではだな。
 クロエが尋ねてくる。

「もうしばらくディシディアに残るのだろうか?」
「だなー。せっかくだし、いろいろ楽しめたらと思ってよ」
「うむ、良いと思う。資金もたっぷりあるしな」

 普通の会話だけど、この間もお互い剣を交わし合っている。もう少し続けたかったが、次第に周囲に人が集まりだしたので、適当なところで切り上げ公園を出ることにした。

「しかし王様も気前いいな。一億リゼもくれるし、あんな高級宿も取ってくれるし」

 俺が何気なくそう言うと、クロエが眉根を寄せて言う。

「素晴らしい宿ではあるな。ただ、私などは逆に気を遣ってしまって少し疲れるのだ」

 クロエは几帳面なところがあるからな。金も払ってないし、汚しちゃダメとか感じるのだろう。

「グリザードの邸宅が懐かしい気もするよ」
「住み慣れた我が家ってか……」

 俺は町を歩きながらふとひらめいた。

「どうせだし、別荘とか持ちたいよな。金もあるわけだし」

 ザ・金持ちって感じで悪くない。……と思ったが、問題がある。

「あーでもなぁ、管理とかどうするって話だわ」
「その辺は、金銭さえ払えばなんとかなる問題ではあるが」

 オプションで人を派遣して管理してくれたりも可能らしい。よし、そうと決まれば、家を買ってしまおう。

「あまり大きくなくていいよな。三千万くらいでいいか」

 もらった一億リゼ以外にも、グリザードで得た大金があるし、それくらいなら余裕だ。

「ジャ、ジャー、今日買ってしまうのか?」
「反対するなら考えるけど、俺は買う気満々だな。王都のこと気に入ったんだよ。活気あるし、人は明るいし、食い物も美味いし」
「そういうことか。ならば反対はしないが」
「ああ、イレーヌたちの意見も聞かないとな」

 すぐに宿に戻って、他の三人に訊いてみる。

「あたしは良いと思うわ。小さくても自宅ってのが嬉しいわよね」
「アタシも賛成にゃー!」
「私も新しい家が楽しみです」

 ルシル、ミーシャ、イレーヌと三人とも大賛成してくれるようなので、さっそく不動産屋を訪ねることにした。


 宿の従業員に教えてもらった王都一の優良不動産屋は商業区ではなく、居住区の一角で商売をしているようだ。
 看板が出されていたので間違うこともなく建物に入る。
 男一名、女四名という訳ありそうな集団でのご来店なので一瞬目を丸くされたが、そこは商売人。すぐに営業スマイルで用件を尋ねてきた。

「本邸はグリザードにあるんだけど、ここに別荘を持ちたいと思ってる」
「さようでございますか。ご予算はいかほどでしょう」
「とりあえず、所有してる物件一覧を見せてほしい」
「こちらになります」

 この世界の基準ではかなり質の良い紙に、いくつもの物件が値段順に記載されている。
 高すぎるのは却下。三千万~五千万くらいのをザッと眺める。
 どうせだし、……ちょっと値切ってみっか。

「この五千万の家だけど、値段にしては場所が悪くないか?」
「そちらは建物に特殊な素材などを使用しておりますので、その価格になっております。それでもだいぶ安く設定させていただいてます」
「じゃあ、こっちの三千万の……」
「そちらに関しては――」

 なかなか舌の回る相手で、どうにも値切るのは難しそうだ。規定の値段で考えるしかないか。……と思ったところで、やけに安い家が目に入った。

「この三百万って、土地も込みだよな。すげー安いけど、かなりボロいってことか?」
「いえ、そちらは……。立派な家でございます」

 急に語調が下がるってことは訳あり物件っぽいねえ。場所は居住区の端なので立地は良くはない。が、それにしても家がちゃんとしてるなら安すぎる。

「事故物件か?」

 日本でもよくある話。アパートで前に住んでた人が自殺しちゃった云々。

「ええ、その家の持ち主は数年前にお亡くなりになりまして。国に申請してウチが買い取ったのですが……」
「なにがあった?」
「その、……出るんですよ」
「出るというと、アレか?」
「はい、アレです」

 この流れでのアレといったら一つしかないだろう。
 俺はフッと薄く笑ってから、耐えきれずにガハハッと大笑いする。

「いまどき幽霊はないわー。こっそり住み着いてるホームレスかなにかがイタズラしてんじゃないの?」
「……そこまでおっしゃるなら、……行ってみます、……か?」

 なんで怪談っぽい口調なんだよ、こいつ。

「案内してくれ」
「ね、ねえジャー。本当に大丈夫なの?」

 ルシルが不安げな表情を浮かべているので、親指を立てて大丈夫アピールする。
 すぐにお目当ての家へ連れてってもらうと、予想以上に立派な建物が堂々と立っていた。
 小金持ちが好みそうな洋館って感じだ。
 俺たち五人分の部屋なんか余裕であるだろうし、庭もちょうどいい広さ。

「外観も悪くねえし、傷んでもないみたいだな」
「定期的に手入れはしておりますから」
「手入れしてるやつが幽霊に遭遇したと?」
「いえ、夜にならないと出ないらしいので、日中に作業を……」

 なおこの家は、購入された数日後に売却されるということがこの半年で三回起きてるらしい。アンデッド系の魔物とかじゃなく、本物の幽霊が出るというから手の出しようがないとか。

「死人っていっぱいいるけど、なんでこの家だけ幽霊が出るのよ」
「元々この家を建てた方は、裏では呪術師の顔を持っていたと言います。己が悔いながら死んでいった場合のことを想定し、家を建てる際に魂をここに残す魔法陣を地面に描いたとか」
「じゃあ、その呪術師が地縛霊じばくれいとなって、……か」
「いえ、その方は男性。しかし幽霊は女性らしいですよ」

 つまり、呪術師の男は案外満足して死んじゃって、あとに住み着いた女が後悔しながら死んで、魂が残ったってことだろうか。ややこしいな。

「ま、なんでもいいわ。行こうぜ」

 お姉さん組のクロエとミーシャは平気なようだが、ルシルとイレーヌは怯えているようだ。特にルシル。
 歯がガタガタいってて面白い。ちょっとイタズラしてみよ。
 家の中に入ってから、気配を消してルシルの背後に回る。

「わっ!」
「ふんぎゃああああああ!?」

 ぴょんと跳びはねてから全力で逃げようとして壁に衝突するルシル。
 なかなかの衝撃だったのか、フラフラといまにも倒れそうな足取りで、右に左に歩く。

「す、すまん。そこまで驚くとは……」
「や、や、やめてえ、あたし本当にダメなのよ。怖いのが怖いの」

 怖いのが怖いってどういうことだよと思ったが、とにかく霊系が苦手ということだな。

「ここ三百万って信じられないねー」

 ミーシャが感心するのも当然だろう。俺だってここが三百万は安すぎると思う。
 一階には広々としたリビングがあり、来客用の部屋まである。二階には長い廊下が延び、左右に部屋がたくさんあるのだ。
 一人一部屋でも十分余る。
 ミーシャが二階の部屋を一つずつ開けて確認していく。

「あ、ここはアタシとジャーの寝室にしよ?」
「ダメです! ご主人様は一人部屋なんですっ」

 顔を真っ赤にして叫ぶイレーヌが可愛い。そういや俺とミーシャは、ちょっとふしだらな関係になってしまったんだよな……。
 一通り部屋の中を見回っていると、不動産屋が妙な提案をしてくる。

「試しに本日、ここに泊まってみてはいかがでしょう? こちらとしても長く利用していただける方に購入していただきたいので」

 購入後すぐに売却されると儲かるらしいのだが、毎回のことなので、さすがにこの人らもウンザリしてるっぽい。

「幽霊がどんな感じかも気になるし、そうさせてもらうわ」
「信頼していないわけではないのですが……」

 そう言って不動産屋は、逃げられないようにと着手金として百万リゼを要求してきた。本当に買うつもりがあるなら出せるだろ、ということだ。
 買わないときはすぐに返すというので、俺のなんでも入る黒袋くろぶくろから百万リゼを渡す。

「魔道具でしょうか?」
「そんなとこだ。物がたくさん入る」
「素晴らしいですね。それでは、明日にまたお伺いいたします」

 不動産屋が帰ると、俺たちはソファーでくつろぐ。
 テーブルなどの家具は一応あるので、すぐ生活はできるような状態だ。しばらくみんなでゆったりと過ごした。


 夜、夕食を五人でとったのだが、どうもルシルとイレーヌの食の進みが悪い。
 隣同士、なにやらコソコソ話ばかりしているので、耳を澄まして盗み聞きしてみる。

「ねえねえ、今夜、一緒に寝ない?」
「はい。私もそう言おうと思ってました」
「よかったぁ、もし夜中にトイレに行きたくなったときは、お互いついて行くわよ。いい?」
「ええ、大丈夫です」

 二人とも魔物やらドラゴンやらとは戦えるのに、幽霊が怖いってのは意外だよなぁ。
 一方、クロエとミーシャは平素と変わらない。

「クロエは霊系は平気か?」
「アンデッド系とは何度か戦ったことがある。それに直接の害はないのだろう?」
「そうなんだよな。ここを購入したやつにも別に実害があったわけでもねえしさ」
「アタシが思うに、誰かが幻惑系の魔法で脅かしてるんじゃないかな?」

 ミーシャが推論を述べる。

「誰がなんの目的でやるんだ」
「ウーン……、初めはあの不動産屋がやってて購入と売却の差額で儲けてるのかなって思ってたんだ。でも、違うっぽいよねぇ~」

 それが目的なら、お試しで泊まらせたりなんかしないだろうしな。
 あまり考えても仕方ないので、それぞれ部屋を決めて、そこで各々休むことにした。
 ベッドに体を沈ませ、天井を眺める。
 ちゃんと寝具などもあるし、これで三百万なら破格だ。不動産業者にしてみたら、国に申請して買い取った以上、放置はできないからさっさと売りたいってところかね。

「ふわーあ」

 まぶたがトロンとして重くなってきたので、俺は抵抗せずに瞑目めいもくすることにした。


  ◇ ◆ ◇


「きゃああああああああああああ!」

 深夜にもかかわらずパチッと目を覚ましたのは、悲鳴が聞こえたからだ。
 ……いまのは、ルシルの声か?
 すぐに部屋から飛び出ると、クロエも同じように自室から出てきたところだった。

「ジャー、いまの悲鳴は?」
「たぶん、ルシルだろうな。行くぞ」
「うむ」

 廊下を走っていると、ミーシャもちょうど出てくる。

「ねえー、もしかして幽霊が出た?」
「そうっぽい。行こうぜ」

 こうして三人で、ルシルとイレーヌの部屋のドアを開けたわけだが……。

「ここ、これ以上近寄ったら撃つわよっ」
「わ、私も矢を放ちますよ!」

 杖を構えたルシルと矢をつがえたイレーヌが、部屋の隅っこで敵を威嚇いかくしていた。うん、なんか小型犬が大型犬に必死に吠えている姿を連想させる……。
 とはいえ、あの二人がビビるのも当然。なんと室内には、ほんのりと青白い光を放つ人間、もとい幽霊が存在しているのだから。
 足はちゃんとあるっぽいが、地面についてない。普通に浮いているのだ。
 そして肝心の容姿なんだけど、……けっこう美人じゃん。
 年はそこそこいってるだろうが、端整な顔立ち。美しさの中にも気高さがあって悪くない。服はゆったりめのワンピースを着ている。
 そんな女幽霊は発声も可能なようで、ルシルとイレーヌにこう訴える。

『どうか、どうか、撃たないでくださいませ。わたくしは、決してあなた方の敵ではありません』
「ひいっ、幽霊がしゃべった……! イレーヌ、やっちゃってよ……」
「ち、近寄らないでください! それ以上来ると本当に怪我しますよっ」
『ですから、落ち着いてください。わたくしは、……あっ』

 ビュッとられた矢が、女の体に直撃。――というより、素通りして壁に突き刺さる。
 おう、……やっぱり物理ダメージ無効かよ。

「えええ、通じないの~~っ!?」
「なん、で、ですかぁ……」

 完全に混乱した二人に対して、幽霊が急に近づく。

『おんどりゃあああ! 敵じゃねえって言ってるだろうがああ! なんでテメエらは毎回毎回すぐに攻撃してくんだよっ。アタイは元人間なんだからもっと礼節をもって接しろや!』

 先ほどの気品ある態度とは一転。鬼のような形相ぎょうそうで鼓膜が破れんばかりの怒鳴り声をとどろかせるのだから、俺もさすがにビビるわ。
 キャラ変わりすぎなんですけど。おっとり系タレントのテレビ映ってないときかよ、おめーは。

「「ごめんさなさぁああい」」

 ルシルもイレーヌも、戦意は完全に消失し、抱き合って謝罪する。
 一方、ミーシャは特に怯えた様子もなく、なんとか幽霊に触れようと試みていた。

『こらネコ耳娘ッ、テメエはなに人の体で遊んでんだよ!』
「アハハ、だって幽霊なんて初めて見たんだもん。人間の姿だから、アタシは怖いって感じないんだよね」
『それは嬉しいけど、だからってアタイで遊ぶのはやめろ』
「え~……」

 ムクれるミーシャに対し、怒りつつもどこか嬉しそうな女幽霊。ビビらない人間がいて、実はちょっと喜んでいるのかもしれない。

「私はクロエと言う。幽霊を見るのは初めてだが、意思疎通は可能なようだな」
『まともなのがいて助かるよ。アタイはミリー。元はあんたらと同じ人間さ』
「ふむ。では生前、ここの持ち主だったのがキミというわけだな?」
『その通りさ。この土地にはなにか特殊な術が施されてるらしく、後悔して死んだ人間の魂を地縛霊にしちまうみたいでね』

 クロエのやつがミリーと名乗った幽霊と普通に会話してるので、俺も交じってみることにした。

「幽霊って言っても、人間脅かして喜ぶ悪趣味なタイプじゃねーみたいだな」
『……』
「ん? なんで俺には応えてくんないわけ?」
『アンタ、イケメンじゃないか』
「そりゃどうも」
『ちょっとアタイのタイプだよ。特にその髪の色が素敵じゃないのさ。アタイの好きな人に似てる』

 体をくねくねさせながら、こちらを見つめてくるな。なんかちょっと怖いぞ。そういや花嫁泥棒のチャムルが女が化けて出るとか言ってたけど、まさかこいつのことか?

「あーそれはともかく。地縛霊になったってことは未練があるってことだよな」
『それについて話したいんだけど。……まずはあっちの二人をどうにかしてくんないかい。居づらくてしょうがないよ』

 そう言ってミリーが示すのは、部屋の隅で肩を抱き合い、未だに怯えているルシルとイレーヌ。仕方がないので俺は二人のもとへ行く。

「ご主人様、怖くないのですか?」
「そうよ。……いつ攻撃してくるかわからないわよ。猫被ってる可能性もあるし」
「だとしても問題ないと思うぞ。触れられないっぽいし、あっちからもこっちにダメージは与えられないだろ。普通に考えて」
「そう、でしょうか?」
「いやそうでしょ。攻めてきたら戦えばいいだけだ。とりあえず下に行こうぜ」

 どうにか二人を説得して、俺たちはみんなでリビングへ下りることにした。
 地に縛られる地縛霊といえど、家の中では自由に移動できるらしい。
 スッと壁を通り抜けるミリーを見て、俺はオオーと声を漏らしてしまう。幽霊の定番とはいえ、生で見るとけっこう感動するなー。

『幽霊になって唯一良かったことが、これさ』

 どこか得意げに笑って、ミリーは鼻をこすった。勘だけど、そんなに悪いやつじゃなさそうだ。


  ◇ ◆ ◇


 リビングのソファーに座り、俺たちはミリーの話に耳を傾ける。

『アタイが死んだのは約一年前。享年きょうねん三十三だよ。こんな可憐な姿だけれど、この家を買う前は腕利きの冒険者をやっていてね。救った命の数は両手じゃ足りないよ』

 さりげなく自慢をぶっ込んでくる幽霊だ。まあ、嘘ではないかもな。若くしてこんな家を買えるのだから。

『アタイは自分の人生に誇りを持っているし、ただのほほんと生きてたわけじゃないよ。多くの人の中でも光り輝く人生だった!』
「はいはい、わかったっつの。死因頼むわ」
『……それは。……まあ、いいでしょ』
「めっちゃ知りたいんだけど。その反応は絶対恥ずかしいやつだろ?」

 いやね、わかっちゃうんですよ。俺もロクでもない死に方だったからさ。
 キス中のカップルが運転する車にひき殺されたというね。いま思い出しても憎々にくにくしいぜ!
 さて、ミリーは若干ムクれながらも口を開く。

『……冒険者を引退してこの家に住み始めた。でもね、剣を握る機会がなくなったアタイの体は、日に日になまっていったんだ。これじゃダメだと思って、ある日、庭で剣の素振りをしてたんだよ』
「泥棒でも入って、そいつと戦って負けたか?」
『それだったらどんなにいいか……。アタイは勝利したとき、剣を空に一度放り投げ、落ちてきた柄をキャッチしてポーズを決めることがよくあった。それを久々にやったところ……。頭に剣が落ちてきた』

 はい、そしてグサッと脳天を貫通したそうです。

「愛剣に殺されたとか! そんなの笑っちゃうにゃー」

 おいやめろミーシャ、必死に笑いこらえてたのに我慢できなくなっちまう!

『ええい、笑いなよっ。いいさ、笑えばいいのさー!』
「「「「「あははははははははははー」」」」」
『笑いすぎだろうってぇーッ! ぶっ殺すヨオオオ! アタイ、怒ったらめっちゃ強いんだヨオオ!』

 どんなに凄まれても、頭に剣落下して死んだやつだと思うと吹き出さずにはいられない。あー笑いすぎて脇腹が痛くなってきた。
 もう誰もミリーのことを怖がるやつはいなくなっていた。

『……ハァ。やっぱそこは言うんじゃなかった』
「いや、それを知ったことで、少し協力してやろうって気になったぞ。面白いしな」
『本当かい? そりゃ嬉しいよ。実はアタイにはね……、どうしても想いを伝えたい人がいるんだ』

 なるほど。気持ちを伝えずに死んじまったから、魂がこの土地に捕らわれてしまったわけか。

『その人はすんごく優しい人でねえ……』

 うっとりとした表情で、ミリーはその男の情報を話す。
 出会いは二年前。ミリーがまだ冒険者をしていた頃に、よく王都の入り口で顔を合わせていたそうだ。
 男の仕事は、城壁などを造ったり補修したりする建築系。門の近くで作業することも多く、そこで挨拶をするうちに仲良くなったとか。

『これでもねえ、何度か一緒に食事をしたこともあるんだよ? 相手もアタイのことは嫌いじゃないと思うんだけど……』
「つまり、そいつをここに連れてくればいいわけか」
『とんでもない! いまのアタイの姿なんて見せられないよっ。生前に書いた恋文があるから、それを渡しておくれ。そしてできれば……。読んでなんて言ったかを教えてほしい』
「それで納得したら成仏じょうぶつしてくれんのか?」
『そうさね、フラれたってたぶんけるはず。気持ちを伝えられなかったことが一番の心残りだし、それだけは遂げたいの』
「あいよ。んじゃ、明日探すわ。とりあえず今日は寝ようぜ」
『お休みの邪魔して悪かったね。よろしく頼むよ』

 俺は軽くうなずいてから自室へ戻る。
 恋文渡すだけで、この館が破格の値段で手に入るならお安いご用だろう。

「……あれ、待てよ」

 幽霊っつっても共存可能っぽいし、無理に成仏させる必要もなかったりして……。

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