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明治の終わり。山深き村で猟師の祖父と二人で暮らす少年・宗一郎は、ある日、野うさぎを追って禁足とも呼ばれる森の奥へ迷い込む。
帰る道を失い、ひとり涙を流す少年の前に現れたのは、月明かりを纏うような美しい女だった。
白き肌に、腰まで流れる艶やかな黒髪。古の姫君を思わせる姿と、雅な言葉遣い。人の世の者とは思えぬその存在を、幼い宗一郎は直感で理解する。
――この人は、人ではない
それでも彼は恐れなかった。孤独に震える少年へ手を差し伸べ、祖父の元へ導いてくれた女。村人たちが「橘の君」と呼び、畏れ敬う人ならざる者。それが彼女だった。
やがて年月が流れ、少年は成長していく。けれど宗一郎が山奥で再会した橘の君は、あの日と何ひとつ変わらぬ姿のままだった。人は歳を重ね、移ろい、いつか消えてゆく。しかし彼女は、永き時をただひとり生き続けていた。
誰にも知られることのなかった孤独
誰にも触れられることのなかった心
それを知った宗一郎は、いつしか彼女を守りたいと思うようになる。やがて祖父の死をきっかけに、少年は故郷を離れる決意をする。けれど、唯一の心の拠り所であった橘の君と別れることだけはできなかった。
「あなたが何者であろうと、俺はあなたの傍にいたい」
人の命は儚い。人ならざる者の時は永遠。
交わるはずのなかった二つの命が選ぶ道は、果たして――。
明治、大正、昭和。
移り変わる時代の中でひとりの青年と、人ならざる女が紡ぐ千年の孤独を終わらせる、永遠の恋物語
文字数 6,880
最終更新日 2026.08.02
登録日 2026.08.02
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