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三十路を越えても幼さを残す美しい容姿の雅子は、夫の急死後、一人息子の友也を一人で育てるシングルマザーである。友也が十四歳になった夏、背骨に転移した小児がんを発症した。一度は症状が和らいだものの、九月に再発。医師からは根治不能で年内の生存も厳しいと宣告される。絶望した雅子は息子の最期に何かしてやりたいと奔走し、怪しげな物品を扱う知人の夫から、人体を20〜25分の一の大きさに縮小できる未発売の密輸薬「scale down material」の存在を知る。元に戻す方法がないその薬を利用し、雅子は友也を自らの体内に呑み込んで一つになるという奇怪な計画を思いつく。
退院後、自身の死期を悟っていた友也は、病の苦しみに怯えることなく母の側に居続けたいと願う。雅子が秘密の計画を明かすと、友也は失望するどころか歓喜し、病で苦しむ前の万全な状態で母の体内に入りたいと望んだ。こうして十月三十一日の朝に友也を呑み込むことが決まる。それまでの約二週間、二人は濃密な時間を過ごし、三十日の満月の夜には、互いに愛を誓い合って一線を超えた。雅子は「友也を妊娠した時と同じ。腹に新しい命を撒いたのだから、生まれてくるまでお腹に還って眠りなさい」と告げ、友也に縮小薬を飲ませた。
翌朝、五センチほどの大きさに縮んだ友也は、ベランダに咲く空色の竜胆の花の前で、母の手に乗せられ口の中へと運ばれる。喉を通り、胃の中へと落ちていった友也は、強烈な酸と熱液に包まれる中で自らの考えの誤りに気づく。自分と母がそのまま一つになるのではなく、自分の存在や過去の記憶、病気、そして母への愛や憧れのすべてが跡形もなく溶けて消滅することこそが、母の愛の正体だったのだ。激しい分解のプロセスの中で形を失っていきながらも、友也は絶対的な消滅と一つになる幸福に満たされながら意識を失っていく。その夜、雅子は昨夜と同じ月明かりの下で、静かに竜胆の花を見つめていた。
文字数 9,046
最終更新日 2026.08.24
登録日 2026.08.24
東欧の山あいにある朽ちた古城の地下で、呪われた病に侵され死期を悟る若き王ミハイルは、反乱を起こし討ち取られた弟アレクセイの生首と対峙していた。ミハイルが「なぜ余命わずかな自分を待てず反旗を翻したのか」と問うと、生首は怨嗟の声を上げた。
アレクセイは、亡き母サーシャから幼少期より凄惨な性的虐待を受け続けた過去を明かす。さらに、ミハイルが遊興に耽り妹ナディアを辱めた末に父ゾルタン王の後継者に選ばれたこと、そして自身を慕っていたナディアが「兄に辱められ続けている」と泣き告げたことから、兄こそが王家の汚辱の相続人だと確信して挙兵したのだと語った。しかしナディアは戦の中で矢に倒れ、自身も捕らわれたのだった。
対するミハイルは静かに真実を語り始める。自身が王位を継いだのは、母が父をヒ素で毒殺して火刑に処された際、国にかけた呪いをその身で引き受け、浄化するためだった。そして幽閉時代、死の恐怖を共にした妹ナディアと不可抗力的に一線を超えてしまった罪の意識を告白する。ナディアの死は、罪に苛まれた彼女自身が自ら矢の雨に飛び込んだ結果だった。
真実を知りつつも許しを拒むアレクセイに対し、ミハイルは自らの首を獣に喰わせよと言い放つ弟の願いを拒む。そして「母の血を最も濃く引く妹ナディアと共に三人で同じ墓に入ることこそ、母への最大の復讐だ」と告げた。不在の叔父エドヴァルド公が次の王位を継ぐ旨を最後に伝え、生首は沈黙した。王も静かに首を垂れ、地下室には地上から弔いの鐘の音だけが空虚に響き渡った。
文字数 4,604
最終更新日 2026.08.24
登録日 2026.08.24
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