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「八月三十一日までに、朝倉くんとやりたいことを全部やる」
高校最後の夏を迎えた橘美月(たちばな・みづき)は、そんな一文が書かれた「夏の予定表」を、クラスメイトの朝倉湊(あさくら・みなと)に渡した。
七月二十七日、映画。
八月三日、海。
八月十日、夏祭り。
八月十七日、図書館。
八月二十四日、まだ秘密。
そして――八月三十一日だけが、空白だった。
「どうして八月三十一日までなの?」
湊はその理由を知らない。ただ、美月がいつもより少しだけ急いでいることには気づいていた。
映画を観て、海へ行き、夏祭りを歩く。
くだらないことで笑い、帰り道にコンビニへ寄る。そんな時間を重ねるほど、湊は美月のことを知りたくなっていく。
けれど、美月は秘密を隠していた。
重い病の治療のため、新学期から遠く離れた病院へ長期入院すること。
そして湊もまた、家庭の事情による夜逃げ同然の引っ越しで、この町を離れなければならないことを隠していた。
互いを傷つけたくないから、言えなかった。
――本当に、それだけだったのだろうか。
可哀想だと思われたくない美月のプライドと、傷つくのが怖い湊の保身。
「自分を守るための優しさ」は、やがて二人の関係を歪ませていく。
「戻らないほうがいい」
そう言って諦めようとする美月に、湊は問い返す。
「それ、お前が勝手に決めることなのか?」
ぶつかり合いの果てに、二人が辿り着いた八月二十四日。
予定表のカウントダウンに縛られていた二人は、運命に抗う「ある決断」を下す。
八月三十一日を、自分たちの未来の終着点にしないために――。
別々の場所へ向かう朝。
二人は最後に、破れた紙の裏側へ、たった一つだけ未来の予定を書き残す。
『また、会う。』
日付は、まだ決めない。
未来は、今の自分たちだけで決めてしまうものではないから。
これは、未来を諦めた少年と、未来を恐れた少女が、終わらない明日を選び直す青春小説。
文字数 14,543
最終更新日 2026.09.07
登録日 2026.09.05
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