「仕事がデキない東大卒」が陥るただ1つの失敗

「エントリーの数は少ないし、行動量も少ない。小手先の訓練で伸ばせるSPIを伸ばす努力もしない。面接でも熱意がないし、最低限の業界研究もしてこない。ちょっと突っ込んだ話をするとまるでFランク(底辺)大学で遊びほうけていた学生のようにトンチンカンな応答に終始して話がまったくかみ合わない。『東大までの人』の就職活動は、こんな調子なんですよ」

「大学別に企業説明会の日程が用意されているし、書類選考も悪名高い『学歴フィルター』で素通りしちゃうから、必死になる必要がないのでは?」

僕がそう尋ねると、小林さんは「問題の根はもっと深いんですよ」とかぶりを振った。

「東大までの人」が抱える問題点

「東大までの人たちは、社会に興味がないんです。正確に言えば、興味がないわけではないんですが、社会で成功したいという欲求は人一倍強いのに、その過程をまったくイメージできていないんです。

『30歳までに年収1000万円欲しい』だとか『将来は経営者になりたい』といった願望だけは強いのですが、それをかなえるためにはどんな仕事に就いて、どういうふうに成功するかという具体的なビジョンがまったくもって貧困なんです。

それなのに、なぜか自信だけは満々なので、そういう子がクライアントだと本当に困りますね」

耳の痛い話だった。大学院の博士課程まで進学し、人より長く大学にいた僕も実社会に対するイメージはずっと希薄だった。社会にたいして興味もなかった。ようやく「物心」がついたのは、就職してしばらくたった30手前のころだったように思う。

「これまでどおり一生懸命勉強してれば、誰かが評価してくれると思っているんでしょう。甘えですよ。まあ、困るのは志望者が殺到するような大手優良企業にかぎって、そういう東大生を期待値込みで採用していくことなんですが」

「でも、基本的に期待どおりの活躍はするんでしょう?」

東大卒社員のパフォーマンスが低いという話は、週刊誌の特集などではしばしば見かけるが、僕のまわりでは聞かない。

「まぁ、そうですね。大手は大手で露骨な幹部養成コースみたいなキャリアパスが整っていることも多いですし、敷かれたレールの上を走るのは得意な子たちですから。アベレージとして、東大生は優秀ですよ。ここで問題としているのは、『東大までの人』ですね。正直、仕事ではあまり使えません」

近年、大学卒業時点で最も社会人として即戦力に近い実力を備えており、出世頭を務めるのは、東大でも早慶でもなく、明治大学出身で飲食店アルバイトかインターンの経験のある学生だ――そう、小林さんは断言した。

業種にもよるのだろうが、ただ頭がいいだけの人間よりも、変なプライドもなくコミュニケーション能力に優れた人材のほうが多くの企業では役に立つということなのだろう。

「東大卒の中途採用」は要注意

「これは余談ですが、中小企業の経営者さんが東大卒を中途採用しようとするときは、少し慎重になったほうがいいかもしれませんね」

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職場に合わなかったとき、新卒なら「ほかにやりたいことができた」とか「資格試験に専念したい」などとのたまってフイと退職してくれることも多い。しかし、中途採用となると、周囲とのズレをものともせず居座り、トラブルにまで発展するということもしばしば起こるのだそうだ。

「来月入社する中途の社員がどうも東大卒らしい。東大卒の採用なんて、うちの会社始まって以来だ。そりゃすごいね。前職はまったくの別業種らしい。なんでうちの会社に? 役員の紹介。部長の友達の息子なんだって。年は30歳手前で独身の男。まあ、このあたりまで合致すれば間違いないです。麻雀でいうところの『数え役満』ですね。当たったらヤバい」

なにも学歴にかぎった話ではない。人事担当者は客観的に見て自分の会社に不相応な経歴の人間をホイホイと採用すべきではないということだろう。一般によく言われるように、「安いものには理由がある」のだ。