「定年後に仕事を見つけられる人」の精神的な特徴

スタンフォード大学の心理学者、ジョン・D・クランボルツ教授が提唱している「計画的偶発性理論」で語られる精神性です。「キャリアの8割は偶然で決まる」というものですが、偶然は偶然やってくるわけではない。宝くじも買わないと当たらないように、偶然を引き寄せるための手立てこそが重要であるのです。

その偶然=予期せぬ出来事を生み出し、活かすための態度として、クランボルツ教授が身に付けようと提示しているのが、好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心という5つの精神性です。

① 好奇心・・・たえず新しい学習の機会を模索し続けること
② 持続性・・・失敗に屈せず、努力し続けること
③ 楽観性・・・新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
④ 柔軟性・・・こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
⑤ 冒険心・・・結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

偶然の出来事がキャリアにつながった、とは度々聞く話ですが、その素敵な偶然は口を開けて待っていても起こらない。つまり偶然は偶然ではない。引き寄せるための精神性を装着している人にこそ、よい偶然がやってくるという理論です。

「偶然」を引き寄せた人たち

好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心。すべて漢字3文字で、並べると、一見簡単そうに見えますが、いまの自分に備わっているかと問われると、なかなか自信は持てません。

しかし、ネクストキャリアに続く「偶然」を引き寄せた人は少なくありません。確かに5つの精神性が備わっていたといえる2人をここでは紹介します。

社会人大学院での学び直しから、「偶然」を掴みネクストキャリアに至ったのは、一級建築士の信藤勇一さん(59歳・執筆当時)です。大学院の修士課程を修了し、学びの「持続性」と「好奇心」を維持し続け、博士課程に進みました。博士論文を書き上げるのは大変な努力と時間が必要ですが、そこは信藤さんの「楽観性」が背中を押したと推察します。

会社の先輩は、定年後に独立して建築事務所を立ち上げることが多いそうですが、その前例にこだわらなかったのは「柔軟性」と「冒険心」を備えていたからでしょう。博士課程では、理想の研究テーマと指導者に巡り会えました。その「偶然」により、博士号と大学講師のキャリアを手に入れることができたのです。

「偶然」に選ばれるために必要なのは?

大倉政則さん(仮名・54歳)は、大学卒業以来、食品メーカーでマーケティングひと筋に「持続性」を維持して打ち込んできました。53歳まで半年を切ったある日、「好奇心」を持って参加してきた異業種交流会で交流が長年続いていた別メーカーの役員から「うちに来て新規事業開発をやってほしい」と声掛けされました。

いまの会社と待遇に不満はない。下の子どもは大学生でまだお金がかかる。50歳を過ぎての転職は家族の心に波風を与えるだろう。そのリスクに尻込みしなかった「冒険心」が大倉さんには備わっていました。

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「新規事業開発」という言葉に大倉さんは惹かれたのです。マーケティングという自分の専門ジャンルに固執しない「柔軟性」により、新しい仕事にはマーケティングのスキルが生かせるだろう、家族の了解もなんとか得られるだろう、という「楽観性」のもと、大倉さんは53歳の転職を果たしました。大倉さんは「面白そうなほうを選んだ」と言います。まさに「冒険心」そのものです。

いまからでも遅くありません。未定年は、学び直しに安心せず、好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心を装着して、素敵な「偶然」を呼び寄せましょう。「偶然」は根拠なく偶然舞い降りるものではない。「偶然」に選ばれるための精神性が必要なのです。