「AIに拾えるのは、ログに残っている言葉だけです。メモが『印象良好』の一行では、何も出てこない。導入をきっかけに面接官の記録の付け方が揃う、という副次効果のほうが大きいこともあります」(同)
シリーズCで社員180名ほどのFinTech企業を想定する。事業開発やPdMの採用では、大手メガベンチャーや外資系コンサルと候補者が重なりやすい。内定承諾率は4割台にとどまり、提示額を競合と同水準まで上げても「他社のほうがカルチャーが合いそう」と辞退が続く。こうした状況で考えられる打ち手は次の三つだ。
逆質問の分析:各面接の逆質問をAIで整理し、候補者ごとの懸念を一覧にする。たとえば「開発組織とビジネス側、どちらが最終的に決めるのか」を表現を変えて三度聞いている候補者がいれば、それが一番の気がかりだと分かる。
最終面接後の1on1:役員ではなく、その課題に実際に向き合ってきた入社1年目前後の社員と話す場を設ける。評価には関与しないと明言する。
懸念が残ったままオファー面談に進まない:残った懸念を担当者が確認し、答えを用意してから条件提示に入る。
効果を測るなら、承諾率だけでなく、提示年収の上乗せ幅や入社1年以内の離職率もあわせて追うべきだ。承諾率が上がっても、入社後に「聞いていた話と違う」と辞められては意味がない。三つを並べて見て初めて、「口説き」ではなく「納得」で選ばれたかどうかが分かる。
採用におけるCXというと、丁寧な対応やおもてなしを思い浮かべる人が多い。もちろんそれも大切だ。ただ、候補者が本当に求めているのは、人生の大きな決断を下すための材料だ。何が不安で、その不安は入社後にどうなりそうか。それを一緒に確かめてくれる相手かどうかが、最後に效いてくる。
生成AIは、その小さなシグナルを拾う道具として役に立つ。ただ、拾った懸念に誠実に答えるのは、結局のところ人と組織だ。転職が特別なことでなくなった今、候補者の迷いと正面から向き合う仕組みを持つかどうかが、年収の上乗せ以上に条件を左右する場面は、これから増えていくはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松本祐樹/人事・労務コンサルタント)