「君は、何も分かってないね」

その言葉に、リオンは何も言い返せなかった。

魔導学園─劣等生クラス【第九区】
そこは、落ちこぼれが集められる魔法の底辺。

分厚い魔導理論の教本。黒板に浮かぶ魔術式の数式。隣の席の生徒たちはすらすらと式を組み立て、杖を振れば輝く魔法陣が舞った。

一方のリオンは、まだ導式の基本も覚えきれていなかった。
いや、それだけじゃない。教師の言葉の意味も、使う単語も、何を質問すればいいかさえ、分からなかった。


「……分からないことが、分からないんだ」

帰り道、小さくつぶやいた声は、砂利道の上で呑まれていった。
薄曇りの空、遠くで魔導列車の汽笛が鳴る。町を囲む高い魔封壁には、今日も澱んだ空気が流れていた。

　
─何で、僕は……

　
自分だけが違う。劣っている。皆が普通にできていることが、自分にはできない。
リオンはこの異世界に来てから、何度もそう感じていた。
けれど、やる気がないわけじゃない。努力していないわけでもない。
何度も教本を読み返し、魔法陣を写し、練習だって欠かさなかった。

それでも、試験はいつも最低点。杖は動かず、教師はあきれ顔で言うのだ。

「君は魔術に向いてない。剣術に転向した方がいいんじゃないか？」

向いてない？　それで片づけられるほど、簡単に諦められるほど、リオンは軽くなかった。

「……剣も、できなかったけどね」

はは、と笑った声は、どこか乾いていた。

それでもリオンは、ノートを開く。誰もが流みする、失敗について書かれた教本。
小さな式の矛盾を書き留める。それが正解なのかも分からない。