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件
金髪、ネイル、軽い口調。
一ノ瀬レイナは、訪問リハに来るには少し派手すぎる作業療法士だった。
けれど彼女は、利用者の歩き方だけを見ない。
玄関の段差、椅子の位置、家族の声色、湯呑みを握る指先、言葉になる前の沈黙。
生活の中に隠れた違和感を、笑顔のまま拾い上げる。
転倒後の廃用と筋力低下で訪問リハを受けることになった高瀬義明。
その妻・澄江は、誰が見ても献身的で完璧な介護者だった。
薬も水も杖も、夫の手が届く場所に整えられている。
家は転ばないように整えられていた。
同時に、夫が動かなくても済むようにも整えられていた。
レイナは気づく。
この家で本当に止まっているのは、義明の足ではない。
廊下の奥にある、開けてはいけない部屋。
玄関に残された古い「絵画教室」の木札。
澄江の爪に残る青い絵の具。
そして額縁の裏に隠されていた、一通の入選通知。
かつて義明は、澄江が絵を描く人生を奪った。
才能がなかったからではない。
才能があったから、怖かったのだ。
レイナは作業療法の名目で、夫婦の過去をほどいていく。
手指の運動として筆を持たせ、歩行練習として玄関へ向かわせ、生活行為の再開として封じられた記憶に触れる。
そのやり方は優しい支援なのか、それとも追い込みなのか。
レイナにも忘れられない過去がある。
退院間近だった文房具屋の店主・岸本春夫。
歩けるようになり、家に帰れるようになった。
けれど彼が本当に望んでいた「もう一度だけ店に立つこと」を、レイナは見落とした。
今度こそ、見落とさない。
そう思うほど、レイナの介入は危うくなっていく。
これは、サイコパス気質のギャル作業療法士が、老夫婦の生活に隠された支配と後悔を暴いていく心理サスペンス。
そして、誰かの生活をほどきながら、自分自身の結び目にはまだ触れられない女の物語。
文字数 39,470
最終更新日 2026.06.27
登録日 2026.06.27
魔王軍との戦争が続く異世界には、傷を瞬時に塞ぐ回復魔法が存在していた。
裂けた皮膚は閉じる。
折れた骨はつながる。
流れた血は止まる。
治癒術師たちはそれを「救済」と呼んでいた。
けれど、救われたはずの人々は、元の生活には戻れていなかった。
剣を握れなくなった兵士。
眠れなくなった子ども。
食事を拒む片腕の騎士。
傷は塞がったのに、立ち上がる意味を失った者たち。
現代日本で作業療法士として働いていた黒瀬灯真は、患者を助けようとして命を落とし、異世界で勇者として目を覚ます。
だが、彼が最初に手にしたのは、魔王を討つための剣ではなかった。
倒れた兵士の呼吸を見て、出血を押さえ、震える手に触れることだった。
「傷が塞がっただけじゃ、人は救われない」
勇者として剣を取り、作業療法士として人の暮らしに手を添える灯真。
彼には、人々の中に残る“失われた生活の断片”を見る力があった。
一方、魔王の呪い《灯喰い》は、人から生きる意志、役割、誇り、明日を望む小さな灯を奪っていく。
神官組織に属する若き治癒術師リュミナは、灯真の行動に戸惑う。
片腕を失った元騎士イリスは、生き残った自分に価値を見いだせず、差し出されたスープさえ拒み続ける。
魔王を倒せば、本当に世界は救われるのか。
命を助けることと、その人がもう一度生きていくことは同じなのか。
これは、回復魔法では治せないものに向き合う勇者の物語。
壊れた世界で、人がもう一度「自分の人生」を取り戻すための、暗く、静かで、あたたかなダークファンタジー。
文字数 96,659
最終更新日 2026.06.08
登録日 2026.06.08
58歳の片桐修司は、かつて作業療法士だった。
認知症の利用者・佐伯文乃が何度も書いていた「あの子に、ごはんを」という言葉を、修司は混乱によるものとして見過ごした。文乃にとって字を書くことは、誰かとつながり、自分がここにいると伝えるための大切な作業だった。それを知っていたはずなのに、修司は彼女の崩れた文字の奥にある意味を受け取れなかった。
文乃が施設へ入所する直前、彼女は修司に尋ねた。
「先生、字は、まだ届きますか」
修司は答えられなかった。そして、面会に行けないまま文乃は亡くなった。後悔を抱えた修司は現場を離れ、今は岡崎市の福祉用具店で働いている。人の生活を支える道具に囲まれながら、人の生活そのものには踏み込まないようにしていた。
そんなある日、文乃の娘から一通の手紙を託される。封筒に残されていたのは、「三重」「灯」「明生」というかすれた文字。宛先は、三重の海辺の町にある小さな食堂「灯」だった。
岡崎から海へ向かう三日間の旅。修司は、杖の高さが合わない老人、手紙を書くことを諦めた女性、介護に疲れた娘と出会い、かつて自分が見失ったものに少しずつ向き合っていく。
救えなかったと思っていた人の言葉は、本当に失われていたのか。
これは、人生の後半で立ち止まった男が、旅の果てに「人を支える意味」と、誰かの生活に残る小さな灯りを見つけ直すロードノベル。
文字数 117,641
最終更新日 2026.06.08
登録日 2026.06.07
制限時間は、三十分。
対象者の本当の課題を見抜き、最も意味のある「行動変容」を起こした者が勝者となる。
全国の作業療法士たちが集められる特殊競技、通称「ケースバトル」。
訪問リハ出身の作業療法士・桐生透子は、失踪した恩師・榊原透の手がかりを追い、その舞台に立つ。
大学病院の理論派OT、精神科領域の観察者、短時間で人を動かすカリスマOT。
名だたる参加者たちが検査データや心理分析、巧みな声かけで対象者に迫る中、透子が見るのは、玄関の靴、袖口の汚れ、家族の沈黙、使われなくなった道具、そして「大丈夫です」という言葉の奥に隠された本音だった。
リハビリ拒否を続ける高齢男性。
退院直前なのに家に帰りたくない女性。
身体機能は改善しているのに食べることを拒む若年患者。
家族にすべてを代弁される初期認知症の女性。
言葉で思いを伝えられなくなった失語症の男性。
一つひとつのケースを読み解くたび、透子は恩師が残した謎へ近づいていく。
やがて浮かび上がるのは、記録から消された「Case 0」。
それは、本人も家族も「大丈夫です」と言い続けた、ある家の物語だった。
人を動かすことは、本当に支援なのか。
帰れる生活と、続けられる生活は同じなのか。
そして、作業療法士は何を見るべきなのか。
検査では見えないものが、生活には出る。
これは、無名の作業療法士が制限時間の中で人の暮らしに残されたサインを読み解く、医療ミステリー×頭脳バトル。
文字数 102,521
最終更新日 2026.06.07
登録日 2026.06.06
医でも坊主でもない。
ただ、人を癒す者として――。
時は江戸。
太平の世、華やぐ町の陰に、声なき痛みを抱える者たちがいる。
病に伏す者。
戦で身体を壊した者。
心を病み、生きる力を失った者。
だがそのすべてが、医者の手で癒されるわけではない。
薬も届かず、癒しの言葉も届かない者たちが、この町には数多くいる。
これはそんな江戸の町で、
「医者でも坊主でもない若者」が紡ぐ、ひとつの療治の記録。
名を、新蔵(しんぞう)。
長屋育ちの医見習い。
蘭学の医を学び、解体新書にも心ひかれた。
だが資格も地位もなく、貧しい者たちのもとを歩くばかりの日々。
それでも彼は願う。
たとえ医でなくとも、癒すことはできるのではないか、と。
幼い頃、自らも病で手を動かせなくなった。
そのときに出会った一冊の書――『養生訓』。
「心を養うは、身を養うに等し」
その教えが、新蔵の胸に深く根づいていた。
戦で筆を持てなくなった浪人。
火事で家族を失い、声をなくした娘。
農作業で足を失った少年。
苦しみを抱えた人々に、新蔵が差し出すのは薬ではなく、日々の作業。
木を削り、土を耕し、糸を紡ぎ、筆をとる。
手を動かし、心を動かす。
それは、ただの慰めではない。
人が「もう一度、自分として生きる」ための療法――。
だが、新蔵のやり方は、
高名な蘭方医たちからは「医療ではない」と笑われ、
金と権力で医を支配しようとする田沼意次の治世では、
「貧者の戯れ」とさげすまれる。
それでも彼は問い続ける。
癒しとは何か。
生きるとは何か。
己の無力さに歯を食いしばりながらも、
人と向き合い続けた、ひとりの若者の物語。
『養生職人 江戸作業療法始末記』
――癒しは、薬にあらず。
人が自ら立ち上がる、その力のそばにある。
文字数 86,143
最終更新日 2025.05.27
登録日 2025.04.22
「心が疲れたら、しゃべる犬たちとリハビリしませんか?」
仕事に挫折し、心が折れた元・作業療法士の神崎ひなた。
人と向き合うことに疲れ、療法士としての自信を失った彼女がふらりと辿り着いたのは――
しゃべる犬たちが働く、ちょっと変わったリハビリカフェ「わんだふるOTカフェ」だった。
店を仕切るのは、穏やかなゴールデンレトリバー「ナナ」。
元気すぎる柴犬の「タロウ」、キラキラ系トイプードルの「ミルク」、記録魔のシェパード「レオ」。
みんな普通に会話するし、仕事もこなす。しかも全員、リハビリ支援のプロ。
ここでは高齢者の方も、障がいを持つ子どもたちも、日常生活に不安を抱える人も、
犬たちのセラピーと作業療法の力で“自分らしく生きる”お手伝いをしてもらえる――
そんな、ちょっと不思議で、すごく温かいカフェ。
「人を支えるってなんだろう?」
「自分らしく働くってどういうこと?」
迷いながら、ひなたは少しずつ、この場所で再び“誰かの役に立つこと”に向き合っていく。
しゃべる犬たち×作業療法士×地域リハビリの新しいかたち。
癒されて、笑えて、ちょっぴり泣ける、わんだふるな日常がはじまります。
文字数 24,194
最終更新日 2025.05.27
登録日 2025.05.16
「リハビリって、魔法みたいだよね――」
訪問リハビリ中の事故で命を落とした作業療法士・佐倉悠斗は、
目覚めると、魔法と剣の異世界に転生していた。
そこで彼が手にしたのは、攻撃魔法でも治癒魔法でもない、
“日常を生きやすくする”力――
スキル《生活再構成》。
人間関係が怖い子ども。
就労に失敗し続けた元兵士。
「普通になれ」と言われ続けて傷ついた人たち。
彼らに“魔法のようなリハビリ”を届けながら、悠斗は静かに世界を変えていく。
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「できない」を責める世界で、
「できるようになるまで、そばにいる」物語。
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支援者の目線。
支援を受ける人の声。
そのどちらも大切に描きながら、
異世界の中で、“本当に必要とされる支援”とは何かを問い続ける――
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異世界×医療福祉×ヒューマンドラマ。
これは、チートも勇者も出てこない。
でも、確かに“誰かを救う”物語。
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※作業療法(OT)・発達支援・福祉現場をテーマにした異世界ライトノベルです。
※当事者・支援者・家族、それぞれの視点から、丁寧に描いています。
※リアルとファンタジーが交差する“生きづらさ”と“回復”の物語。
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文字数 84,389
最終更新日 2025.04.27
登録日 2025.04.08
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