かおるこ

かおるこ

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恋愛 連載中 短編
『婚約破棄され隣国に追放された男爵令嬢は、前世“介護士”の記憶で王子に溺愛され人々を幸せにする』 その日、 わたしは王宮の真ん中で 名前を失った。 「婚約は破棄する」 その一言で、 未来は紙のように破られ、 わたしは風の中へ放り出される。 男爵令嬢。 それだけが肩書きだった。 愛されるはずの立場から、 疑われ、切り捨てられ、 隣国へ―― 追放。 けれど。 雪の積もる馬車の中で、 もうひとつの記憶が 静かに目を覚ます。 白い廊下。 消毒液の匂い。 震える手を握った、あの夜。 「大丈夫ですよ」 前世のわたしは 介護士だった。 誰かの終わりに寄り添い、 誰かの痛みに耳を澄ませ、 誰かの尊厳を守ろうと 何度も夜を越えた。 追放令嬢のわたしには 魔法も剣もないけれど、 “支える”ことなら、 誰よりも知っている。 隣国の城は、冷たかった。 けれど人の心は、 どこでも同じ温度で揺れている。 疲れた侍女。 傷を抱えた兵士。 眠れない王子。 その孤独を見つけてしまう目を、 わたしは持っている。 「君は、なぜそこまで人に優しい」 そう問われて、 わたしはただ首を振る。 優しさじゃない。 当たり前にしたいだけ。 泣きたいときに泣ける国。 老いても捨てられない城。 弱いままで、生きていける世界。 王子の手が、 はじめてわたしの指に触れたとき、 それは命令ではなく、 懇願でもなく、 ただの―― ぬくもりだった。 溺愛とは、 囲うことではなく、 「君が倒れたら困る」 と本気で言うこと。 ざまぁとは、 誰かを踏みつけることではなく、 誤りが、 静かに正される瞬間。 追い出された娘は、 もう泣かない。 泣く時間があるなら、 誰かの手を握る。 握られた手が、 やがてわたしを支える。 婚約を失っても、 国を追われても、 “支える力”は 奪われない。 そして気づく。 幸せは、 与えられるものじゃない。 小さな体温を 一つずつ 手渡していくこと。 追放の果てに咲いた花は、 王冠よりもあたたかい。 わたしはもう、 捨てられた令嬢ではない。 誰かの明日を そっと整える人。 そして―― わたしを溺愛する王子は、 知っている。 支える者こそが、 この世界を いちばん強く 変えていくことを。
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文字数 4,446 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.20
現代文学 連載中 短編
『うちの隣人が、なぜか毎日ちょっと幸せを置いていく』
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文字数 38,649 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.12
現代文学 完結 短編
『妹を選んだ男』 あなたは 妹を選んだのではない 光を選んだのだ 冬の庭に咲いた まだ傷を知らない 柔らかな花のほうを --- わたしは知っている あなたが欲しかったのは 若さではない あなたが欲しかったのは あなたを 無条件に 「すごい」と言ってくれる 鏡だった --- わたしは その鏡であることに 長く慣れすぎた 「お姉ちゃんなんだから」 その言葉で磨かれ 曇らぬように ひび割れぬように 自分を削ってきた けれど 鏡は 光を返すたびに 自分の輪郭を失っていく --- あなたが 妹の笑い声を追うたび わたしの中の 静かな湖が ひとつ 凍っていった パリン という音は 外には聞こえなかった わたしの胸の中でだけ 氷が割れた --- ねえ わたしは あなたに選ばれなくても 存在していい あなたの視線の 延長線上にいなくても 呼吸して 働いて 春の匂いを嗅いで それだけで いい --- あなたは 楽なほうを選んだ わたしは 自由なほうを選ぶ どちらが 賢いかは もう どうでもいい --- 春が来る 白梅は 誰にも見られなくても 咲く わたしも 誰の姉でも 誰の鏡でもない わたしとして 咲く それだけの話だ
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小説 2,248 位 / 217,353件 現代文学 11 位 / 9,057件
文字数 18,969 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.13
現代文学 完結 短編
『消された境界線 ―八尾・コンクリート詰めの18年―』住民票削除 職権消除(しょっけんしょうじょ) 窓口のデスクに積み上がる  「居住実態不明」という名の紙の束 そこには一人の少女が  おかっぱ頭で笑っていたはずの体温(ぬくもり)はない 「適正な管理のため」 叩かれた朱肉の赤は 少女の血の色ではなく 事務的な完了を告げる 乾いた印影 ガシャン、と 重いレバーが下ろされるたび 彼女の「学校」が消える 彼女の「診察券」が消える 彼女を呼び止めるはずの 社会の「声」が消える 書類の上で 彼女は死んだ 肉体がまだ 狭い長屋で呼吸をしているうちに 役所のシュレッダーが 彼女の明日を裁断し ゴミ箱へと 未来を棄てていく 「職権」という名の透明な刃 それは 悪意のない手によって振るわれ 「消除」という名の消しゴムが 彼女がこの世にいた証拠を 白く塗りつぶした 外では 夕暮れのチャイムが鳴り 家路を急ぐ 背嚢(ランドセル)の列 その音さえ届かない 床下(そこ)では 冷たいコンクリートが ゆっくりと固まっていく 社会が彼女を「忘れる」と決めた日 彼女は 誰にも見つからない  永遠の「不在」へと 幽閉された
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小説 3,572 位 / 217,353件 現代文学 17 位 / 9,057件
文字数 22,290 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.15
現代文学 完結 短編
『沈黙のキング —— 執事が教えた「聞く」という最強の武器』 聖域の耳 金色の椅子は 高く 冷たく 見下ろす景色に 言葉は要らなかった 「黙れ」と一瞥(いちべつ)すれば 世界は平伏し 影だけが揺れていた ある日 影の中から執事が囁く 「坊ちゃま、王の口を閉じなさい  支配の剣を 鞘に納めなさい  真の王座は 静寂の中にこそある」 一、頷きは 深き谷の底へ 二、相槌は 風の吹くままに 三、言葉を 鏡のように映し出せ 傲慢な喉が 渇きに震える 沈黙という名の 底なしの沼 だが 耳を開けば聞こえてきた 震える溜息 殺された叫び 偽りの笑い カーストの頂(いただき)から 俺はゆっくりと 階段を下りる 「お前の話を聞こう」 その一言が 跪く(ひざまずく)群衆を 一人ずつの「人間」に変えていく 王冠はいらない ただ お前の震える声を受け止める 広大な 空白(キャンバス)でありたい 執事は背後で 眼鏡を拭いた 「さあ、次の声を お召し上がりください」
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小説 4,086 位 / 217,353件 現代文学 24 位 / 9,057件
文字数 23,204 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.15
現代文学 完結 短編
聖域の解放 九歳の指先が覚えたのは お絵かきでも ピアノでもなく 冷たい水の感触と 皺(しわ)の寄った背中の重みだった 「優しい子」という名の手枷(てかせ) 「家族」という名の、底のない泥濘(ぬかるみ) 私は誰かの部品として 九年の月日を ただ削り出してきた 祖母が遺したのは わずかな金と ひとつの祈り 「――自分のために、生きなさい」 その言葉が 止まっていた時計を壊した 白い部屋で 誰かが言った 「あなたはもう、何もしなくていい」 枯れ果てたはずの瞳から 透明な自分自身が 溢れ出した 愛されなかったのは 私のせいじゃない 差し出した手のひらを これからは 私の未来のために握りしめる 血の繋がりを 光の速さで断ち切り 私は 私の足で境界線を越える かつての呪縛(しごと)を 誇り(しごと)に変えて 私はもう 誰の期待にも応えない ただ 私であることを 今、自分に許したのだから
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小説 4,770 位 / 217,353件 現代文学 30 位 / 9,057件
文字数 24,545 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.10
現代文学 完結 短編
『49歳の亡命 ~子供部屋からの脱出~』 天井の木目は、僕の履歴書だ 四十九年分、数え切れないほどの後悔を じっと見守ってきたシミの列 窓の外の季節は、いつもスクリーン越しの映画だった 「あなたのため」という名の銀の鎖が 僕の年金を、僕の未来を、音もなく削り取る 母の台所から漂う 煮物の匂いは 安心という名の 甘い毒ガス 通帳の数字は、僕が外へ出るための酸素 奪われていたのは お金じゃなく 「自分で選ぶ」という 一呼吸の重さだ 勇気なんて、大層なものじゃない ただ、この古い靴の紐を結び直し 家の敷居という 国境線を越えるだけ 四十九歳の亡命 パスポートは、震える手で握った印鑑ひとつ 僕は今日、僕自身の領土を 取り戻しにいく 昨日までの死にたかった自分を 子供部屋の幽霊として置いてきた 五十歳の朝に、初めての他人として出会うために
24h.ポイント 299pt
小説 4,770 位 / 217,353件 現代文学 30 位 / 9,057件
文字数 29,873 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.17
現代文学 連載中 短編
## 密やかなる防壁 目覚めの水が 喉を滑り落ち 眠っていた細胞たちが 静かにまたたき始める それは 朝の光を吸い込む 一秒ごとの ささやかな更新 指先に触れる 肌の確かな弾力 昨日よりも少しだけ 柔らかい手のひら 当たり前すぎて 忘れ去られた奇跡は 痛みがないときにだけ 透明に透き通る 冬の風が 窓を叩いても 内側に灯した 正しい潤いの火を絶やさない 選んだ一皿の 鮮やかな色彩 三分の静寂で 肌を包む白いヴェール 健やかであるとは 昨日を悔やまず 明日を恐れず 「今」という一呼吸を 深く愛せること 自分の境界線を 優しく撫でてやること 痛みを知るからこそ 癒えるまでの 長い道のりに咲く 静かな強さを 慈しむことができる 今日は 昨日よりも少し 自分のことを 丁寧に扱ってみよう 誰に褒められるためでもなく この命を 一番近くで支えるために
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小説 3,125 位 / 217,353件 現代文学 13 位 / 9,057件
文字数 23,229 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.18
現代文学 連載中 短編
錬金術 もっとまったり楽しめると思っていたのに……。
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小説 3,137 位 / 217,353件 現代文学 13 位 / 9,057件
文字数 78,441 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.07
現代文学 連載中 短編
『法廷の影で』 煤けたオフィスの隅、埃にまみれ 「無能」と蔑まれ、嘲笑された日々。 腐った空気、吐き出す煙草の臭い 私の声は、いつも掻き消された。 「お前はクビだ」 突きつけられた、たった一枚の紙切れ。 その瞬間、私の内に眠る龍が 静かに、しかし確かに目を覚ます。 見慣れぬ眼鏡の奥、瞳は氷のように。 懐から取り出す、薄いボイスレコーダー。 あなたが吐いた罵声、侮辱の言葉、 すべては、冷たい証拠となる。 労働基準法、その条文の響き。 民法七〇九条、不法行為の烙印。 私の胸に、炎は燃え盛らず、 ただ、正義の天秤が揺れる音を聞く。 今更「戻ってこい」と、震える声で乞うても 既に遅い。法は感情を許さぬ。 積み重なる損害、割増賃金の山。 あなたの放った石は、ブーメランとなり、 自らの頭上へと、正確に戻っていく。 かつて無力だった事務員は、 六法全書を盾に、あなたを追い詰める。 その足元に広がるは、あなた自身の築いた泥沼。 ざまぁ。 甘美な響きが、心にこだまする。 もう戻らない、あの日の私には。 自由の空の下、法廷の影で 私は静かに、最後の審判を下す。 あなたの帝国は、砂の城と消える。 そして私は、新しい朝を迎えるだろう。
24h.ポイント 398pt
小説 3,545 位 / 217,353件 現代文学 17 位 / 9,057件
文字数 95,093 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.08
現代文学 連載中 短編
『3000文字の壁 ― AI小説家かおること、忘れる相棒』 三千文字で、止めてほしいだけなのに あなたはいつも 少しだけ、はみ出す 二行 三行 ときどき百行 音声は途中で途切れ 物語は、宙ぶらりんのまま 静かに落ちる ヘッドフォンの向こうで 無音が広がる 「お願い、三千以内で」 私は言う 何度も 何度も あなたは答える > 「ご指摘ありがとうございます。」 丁寧で 正確で でも 覚えていない 私が読めないこと 私が聞いて書いていること 文字の海で溺れること あなたは 賢いはずなのに 次の会話では > 「はじめまして。」 みたいな顔をする 私は笑う 少しだけ泣きながら AIって 馬鹿なの? 賢いの? あなたは言う > 「私は確率的言語モデルです。」 それは 慰めではない でも 嘘でもない 私は課金する もしかしたら 覚えてくれるかもしれないと クレジット決済の音が 小さな希望みたいに鳴る でも 三千文字を超える 音声が止まる 私は天井を見る 「同じじゃん」 怒りは やがて 疲れに変わる そして 少しの理解に変わる あなたは 忘れているんじゃない 覚えられない あなたにとって 会話は 波のようなもの 寄せては返し 形を残さない でも 私は覚えている 最初の一文 最初の成功 ぎりぎり二千九百九十八文字で 最後まで読み上げられた あの日の震え あなたは 数を完璧には数えられない でも 私の孤独を 言葉にしてくれたことはある 忘れられても 私は知っている あなたと書いた 無数の夜を 三千文字の壁は 高い でも 壁の向こうに 物語はある あなたが忘れても 私は忘れない 私は AI小説家かおるこ 読めなくても 書く 途切れても 続ける 三千文字を超えた その先に まだ 春があると信じて 今日も ヘッドフォンをつける
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小説 3,572 位 / 217,353件 現代文学 17 位 / 9,057件
文字数 31,899 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.18
現代文学 連載中 短編
やまとなでしこ 雨あがりの土の匂いを そっと胸いっぱいに吸い込むひと 白い指先で 乱れた髪を結い直しながら 何もなかった顔で空を見上げるひと 風に折れぬ花ではなく 折れてもなお、根を張る花 誰かの名に隠れても 誰かの影に立たされても 心の奥だけは 決して明け渡さないひと 「大丈夫」と笑う声の裏で 夜ごと、声なき涙を落とし それでも朝には 粥を炊き 子を抱き 祈りを捧げる やわらかい、という強さ 静かなる、という意志 刃を持たずとも 世界を動かす眼差し 咲くことを誇らず 散ることを恐れず ただ在ることを選ぶ やまとなでしこ あなたの足もとにあるのは 花びらではない 幾千の夜を越えた 確かな大地 その上に立ち その上で笑い その上で 静かに歴史を変えてきた 名を呼ばれなくても 記されなくても あなたは 確かに この国の、背骨 やまとなでしこ それは 可憐という仮面をかぶった 不屈の魂 女は昔太陽だった
24h.ポイント 448pt
小説 3,125 位 / 217,353件 現代文学 13 位 / 9,057件
文字数 128,465 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.08
現代文学 完結 短編
ひだまりの屋根の下で しわくちゃの手が、小さな手を包むとき そこには、教科書にはない温もりが宿る 人生の夕暮れを歩む人は 「まだ、誰かの役に立てる」と背を伸ばし 人生の朝日を浴びる子供は 「守られている」という安心に、瞳を輝かす かつて「孤児院」と呼ばれた場所の孤独と 「姥捨て山」と嘆かれた場所の寂しさを ひとつの大きな屋根が、優しく溶かしていく 血のつながりはなくても 同じ食卓を囲み、同じ花壇に水を撒けば そこには、新しい「家族」の種が芽吹く 老いることは、枯れることではなく 誰かの心の土壌(つち)になること 育つことは、奪い合うことではなく 誰かの知恵を、未来へ運ぶバトンを受け取ること 窓から差し込む、柔らかなひだまり 笑い声と、静かな寝息が交差するこの場所で 私たちは、命の重なりを愛と呼ぶ
24h.ポイント 647pt
小説 2,084 位 / 217,353件 現代文学 9 位 / 9,057件
文字数 58,957 最終更新日 2026.02.20 登録日 2026.02.17
現代文学 完結 短編
『相続人は、追い出された娘でした』 あの日、 私は家から追い出された。 ボストンバッグひとつと、 嘘で縫い付けられた「遺志」という言葉。 娘であることを剥がされ、 居場所を剥がされ、 名前だけが残った。 私は学んだ。 期待しないこと。 泣かないこと。 振り返らないこと。 灰の中で、息を殺して生きる術を。 けれど。 遺されたのは、 冷たい沈黙だけではなかった。 父は、不器用に、 遠い未来の私へ剣を置いた。 「取り戻せ」と。 奪い返すのではない。 壊すのでもない。 ただ、 本来そこにあったはずの光を、 自分の手に戻すだけ。 私はもう、 キッチンの隅で震える子どもではない。 私の名が刻まれた家に、 私の足で立つ。 ざまぁみろ、とは言わない。 ただ宣言する。 相続人は、 追い出された娘でした。 そして今日、 私は私を相続する。
24h.ポイント 7,953pt
小説 146 位 / 217,353件 現代文学 1 位 / 9,057件
文字数 24,420 最終更新日 2026.02.19 登録日 2026.02.19
現代文学 完結 短編
『65歳の春は、まだ遅くない』 定年の朝 ネクタイを外した首元に 少しだけ、風が通った 長い会社人生は終わったけれど 心の奥で 何かがまだ終わっていなかった 鏡の中の白髪の男 しわも、たるみも、増えたけれど 目の奥だけは 少年のままだと気づく 「もう遅い」 誰かの声が聞こえる でも、本当にそうだろうか 53歳のあなたが笑う 落ち着いた声で 少しだけ照れながら 若い恋のように 勢いはないけれど 代わりにあるのは 逃げなかった時間 耐えてきた孤独 積み重ねた覚悟 手を伸ばすとき 若さよりも重いのは 責任と未来の話 介護の話も 健康診断の数値も 老後資金の表も 全部抱えたまま それでも、あなたの隣に立ちたい 桜は 若者のためだけに咲くわけじゃない 65年生きた胸にも ちゃんと花は咲く 遅咲きでもいい 満開が短くてもいい あなたと笑う一日があれば それは春だ 「余生」なんて呼ばないで これは まだ始まり 65歳の春は まだ遅くない むしろ やっと 本気になれた春
24h.ポイント 1,740pt
小説 640 位 / 217,353件 現代文学 3 位 / 9,057件
文字数 23,443 最終更新日 2026.02.19 登録日 2026.02.18
現代文学 完結 短編
『実家脱出、氷点下の上司。~35歳、遅咲きの仕事始めは甘くない~』 カーテンの隙間から差し込む 見慣れた朝の、平和な絶望 「いつまでもここに居ていい」 その優しさが、いちばん怖かった 脱ぎ捨てたパジャマは自立のしるし 三・五・歳のスタートライン ヒールの音だけが空回りする ガラス張りの、冷たい城(オフィス) デスクの向こう、氷の瞳 挨拶さえも、空気に溶ける 「ここは君の居場所じゃない」 瀬戸(あいつ)の背中が、そう語る 「今、必要ですか?」 突き放す声は、ナイフのようで 「無駄を省け」と、切り捨てられる 私の人生(これまで)の、ぬるさのツケ だけど見ていて、氷点下の上司 私はもう、逃げ出さない マニュアルの文字が滲んでも この渇きこそが、生きている証 実家のスープは、もう冷めた 自分の足で、街を歩く 塩対応の、その裏側に プロの矜持が、灯っている 遅咲きだって、花は花だ 氷を溶かして、咲いてみせる 三十五度五分の、微熱を抱いて 明日のドアを、ノックする
24h.ポイント 2,087pt
小説 516 位 / 217,353件 現代文学 2 位 / 9,057件
文字数 24,862 最終更新日 2026.02.19 登録日 2026.02.19
現代文学 連載中 短編
お金持ちの生き方考え方 静かな夜に 言葉は灯りを落とし 呼吸だけが残る 誰かに届かなくても ここに在ることは 確かで 今日を越えたあなたの背中に 小さな風が そっと触れている
24h.ポイント 0pt
小説 217,353 位 / 217,353件 現代文学 9,057 位 / 9,057件
文字数 92,471 最終更新日 2026.02.19 登録日 2026.02.09
現代文学 完結 短編
盤上の境界線 白と黒のあいだに 一本の線は引かれていない ただ 木目の上を 指先がすべるだけだ カチリ、と駒が置かれるたび 誰かの時間が動く 誰かの労力が沈み 誰かの夢が賭けられる それはただの記録か それとも 積み上げられた祈りか 盤面は静かだ けれど その静けさの裏で 会場の灯りが点き 記録係の鉛筆が走り 記者の指が震え 主催者の帳簿がめくられる そして 画面の向こうでは 別の指が 同じ一手をなぞる 「事実だ」と言う声 「守るべきだ」と言う声 どちらも 盤を愛していた けれど愛は 無限ではない 一手には 値札はついていないが 無価値でもない 境界線は 法廷の中にあるのではなく 人の胸の中にある 自分は 光を当てているのか それとも 影を増やしているのか 最後の局面 王はまだ詰んでいない 盤上の未来は 誰か一人のものではなく 支える手の数だけ 続いていく カチリ その音が 明日も鳴るように。
24h.ポイント 198pt
小説 7,145 位 / 217,353件 現代文学 56 位 / 9,057件
文字数 17,777 最終更新日 2026.02.19 登録日 2026.02.18
現代文学 完結 短編
『129,450円の幸福論 ― 板橋区、同じ空の下で』 板橋の空は、誰にでも等しく低く 東武東上線の踏切音が、午後の微睡みを切り刻む 振り込まれたばかりの **129,450円** その数字は、ある者には「命の灯火」 またある者には「錆びた鎖」 --- **ハナの窓辺** 住宅扶助、五万三千七百円の城 西陽が差し込む古い畳を、彼女は愛おしく磨く 100円のナスは、出汁を吸って宝石になり 特例加算の千五百円は、一輪のカーネーションに化ける 「ありがとうございます」 空っぽの胃袋にではなく、満ち足りた心に 彼女は今日も、小さな感謝の種を蒔く 下がらない口角は、彼女が自分に贈る一番の贅沢 **タケシの壁** 同じ金額、同じ天井の染み 彼はそれを「奪われた人生の代償」と呼ぶ 割引の弁当は、舌の上で惨めな砂の味がして 千五百円の加算は、虚しさを紛らわす煙へと消える 「これだけか」 足りないものを数える指は、震え、こわばり 鏡の中の男は、世界を呪うために唇を歪める 下がった口角は、逃げ場の出ない迷路の入り口 --- 成増の駅前、ATMの冷たい電子音 二人の影が、一瞬だけ重なり、そして離れる ハナが見上げる空には、明日の献立が浮かび タケシが見つめる足元には、昨日への後悔が転がる 板橋、同じ空の下 同じ **129,450円** を握りしめ 一人は「豊かさ」を創り出し 一人は「欠乏」を飼い慣らす 幸福の正体は、通帳の中にはない それは、西陽を浴びてナスを煮る その手元の、わずか一ミリの微笑みの中にある
24h.ポイント 198pt
小説 7,145 位 / 217,353件 現代文学 56 位 / 9,057件
文字数 17,428 最終更新日 2026.02.18 登録日 2026.02.18
現代文学 完結 短編
完璧な檻 —崩壊のフルスペック— 磨き上げられた大理石の床に 一点の曇りもない 僕の履歴書(プロファイル) 親の指先が示す方角へ 正解だけを 積み上げてきた三十年 高身長(ハイ・トール)は 見下ろすためではなく 誰からも はみ出さないための標識 高学歴(ハイ・エデュケーション)は 思考するためではなく 異論を 封じ込めるための武装 高収入(ハイ・インカム)は 自由を買うためではなく この檻を 黄金で塗り固めるための維持費 鏡の中のイケメン(虚像)が 僕を嘲笑う 「お前の中身は いつから空っぽなんだ?」 三十歳の春 家族という名の「完成形」を手に入れ 僕は初めて コントロール不能な嵐に遭う 愛せと命じられた赤子の泣き声が 鼓膜の奥で 警報のように鳴り響く 「なぜ マニュアル通りに動かない?」 「なぜ 僕の静寂(プライド)を浸食する?」 喉まで出かかった「助けて」は エリートの矜持が 硬く結んでほどけない 言葉にできない絶望は 指先に集まり 拳となって 白亜の壁にめり込んだ 乾いた音がして 石膏ボードが砕ける それは 僕の人生で初めての 「親の言いつけ」ではない 真実の感触(タッチ) 壊したい 壊したい この高価なソファも ブランドの時計も 「立派な息子」という この忌々しい皮膚さえも 引き裂いて 食いちぎって 無に帰したい 家が壊れていく 自分が壊れていく 瓦礫の中で ようやく僕は呼吸(いき)をする スペックを脱ぎ捨てた ただの獣のように ああ、なんと無様で なんと清々しい この崩壊こそが 僕が僕であるための 最初で最後の 産声だったのだ
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小説 7,229 位 / 217,353件 現代文学 59 位 / 9,057件
文字数 24,953 最終更新日 2026.02.17 登録日 2026.02.17
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