リアルな対人場面で表面的なコミュニケーションを選択し、このような対話を回避する傾向のある人たちにとって、ネットは新たな自己表現の場となっています。
リアルな人間関係では相談できない悩みをネットで打ち明ける心理背景は、匿名性にあります。顔の見える関係性だと、ありのままの自分をさらけ出すのが怖い。思い切って相談して、相手に「そんなちっぽけなことで悩んでいるの? ダサいね」と反応されたら、かえって傷ついてしまいます。けれども、どこの誰だかわからない関係性なら安心して自分を出せる。弱い自分を知られても現実場面に影響せずダメージが少なくて済むのです。
なかには、ネット社会とリアル社会でキャラクターを変える人もいます。現実場面で発揮できない、かっこいい、かわいいキャラクターをネット社会では演じることができるからです。ネット社会では、多くのフォロワーを獲得し、輝かしい地位を保持している人がいます。もはや、現実生活よりもネットの方が自分を表現でき、充実感を得られる場所になりつつあるのかもしれません。
SNSできらびやかな一場面を投稿することに夢中になる人もいます。行きたい場所やお気に入りの場面で写真を撮る、というより、そもそも投稿することを目的として「映えスポット」に出かけ、オシャレな景色を撮影することが楽しい、という人もいます。発信すれば、いいね!と賞賛、同意してくれる人がいる、という安心感や満足感も得られます。
このように、現実場面では表面的な人間関係でやりすごし、ネット上では自分のことを表現したり共感できる仲間とつながったりする。そして、傷つかないように自分を守っているのです。
しかし、転職や婚活など人生のライフプランに関わるイベントを目の前にすると、現実生活と向き合う必要が生じます。そのとき、はたと立ち止まり、こう思うかもしれません。「本当の自分って何だっけ」「本当は、自分は何がしたいんだっけ」と。
人は、経験を通して自分らしさを見出します。人との関係性のなかで、アイデンティティを構築するのです。身近で困っている人を助けた経験から「自分は人を助けることが好きなのかもしれない」と意識したり、人とのコミュニケーションが好きな人が「人と関わることが好きかも」と考えたりします。好きな絵を褒めてもらえると嬉しいですし、オシャレをして注目を浴びたら良い気分になり、「自分はファッション分野に強いのかも」と意識するようになります。
人から指摘してもらって初めて自分の強みに気づく人もいます。
わたしも大学院生のとき、研修生としてお世話になった先生から「お前はバイタリティーがあるな」と言われ、キョトンとした思い出があります。自分では「真面目で努力家の自分」が自分らしいと思っていたのですが、先生の一言で「思い立ったらすぐ行動するバイタリティーのある自分」という新たな一面を認識できるようになりました。同時に、「真面目にがんばらなくてもよい」とラクになれたのです。
もしもあなたが、「自分がどのような人間なのかわからない」と悩んでいるなら、自分を取り巻く人間関係について振り返ってみてください。傷つくのを恐れて、表面的な人間関係にとどまっていませんか? 自分はこんなふうに生きていきたい、といった将来の目標を友人と語り合うことはありますか?
色んな人の考えを聞いて参考にすることも大切ですが、それよりも、自分を表現してみることです。もしかしたら、厳しい意見にさらされるかもしれませんが、それもまた、自分を見出す貴重なスパイスになることでしょう。
最初から大きなことを語る必要はありません。なんとなく、で構いませんから自分の好きなことを大切にしてください。そして、自分の思ったことを言葉にしてみましょう。それで、あなたのことを攻撃する人とは距離を置けばよいのです。
あなたが自分のことを表現すると、あなたの本音に「いいね」と反応してくれる人は必ずいます。ネットの中だけではありませんよ。リアルの中にもいます。そして、あなたのことを大切にしてくれる人を選んで、一緒に行動するようにしましょう。