万博閉幕後も続く“ミャクミャクビジネス”、3日の「お休み期間」で各地のイベントへ、ライセンスも延長する協会の思惑

2025.10.22 Wedge ONLINE

 デザイナーの山下浩平氏によるキャラは、独特の容姿から当初は「気味が悪い」などさんざんな言われようだった。デザインは、細胞をイメージした赤い楕円が連なる奇抜な万博ロゴマークを使い、「水の都」大阪にちなみ水を組み合わせたものだ。

 愛称も公募で、3万3197作品の中から、万博1000日前の22年7月18日に発表された。「ミャクミャク」には2人から応募があり、それぞれ「『脈々』と受け継がれてきた私たち人間のDNA、知恵と技術、歴史や文化」「赤色と青色が動脈と静脈を連想」などのコンセプトを込めたという。

共同通信プレスリリースより

 その後、ミャクミャクのグッズが続々と発表され、協賛企業も独自でスーツに付けるバッジなどを作製。当時、関西のある企業関係者は「会社からバッジを付けるよう言われているが、東京に出張すると取引先から奇異の目でみられる」とこぼしていた。サンリオの人気キャラ、ハローキティやシナモンロールとコラボしたぬいぐるみなども売り出されたが、売り場では「誰が買うんだ」との声も聞かれるほどの不評ぶりだった。

 開幕前、「税金の無駄遣い」と叩かれていた万博と同じく、批判にさらされ沈んでいくのではとの見方もあったミャクミャクだったが、徐々に「市民権」を得ていった。万博協会関係者は、万博の機運醸成イベントでミャクミャクの着ぐるみが登場する機会も多く、特に関西の子供からの人気の高まりが感じられたと振り返る。

 評価が一変した理由について、有識者は次のように分析する。「やはり、見慣れたという点が大きい。メディアへの露出のほか、機運醸成に向けたシティドレッシングなどで目にする機会が大幅に増え、違和感が薄れてきたのではないか」としたのは、日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄所長だ。さらに、グッズには販売数や販売場所が限られているものもあったことから、その希少性がグッズのみならずミャクミャク自体の人気を高めた、とも推測した。

ライセンス期間を延長

 グッズの人気をめぐっては、万博会期中に許されない犯罪行為も多発した。鉄道写真を趣味とする「撮り鉄」の「大宮赤ラン軍団」と呼ばれる集団が、東京から新幹線を無賃乗車して万博会場入りし、転売目的で限定グッズを数十万円分も万引きした。

 この事件で、大阪府警は窃盗容疑で東京都内の大学生の男6人を逮捕。この集団だけでなく、ミャクミャクが黒一色で統一された通称「黒ミャクミャク」のぬいぐるみなど、レアな商品を狙った窃盗事件が相次いだ。

 こうした残念な事件もあったが、万博関係者が描くミャクミャクの閉幕後の展望は明るい。ミャクミャクを中心とした公式グッズの売上高は8月末時点で約800億円にのぼり、ライセンス事業収入を大きく伸ばす可能性が高いことから、万博協会は閉幕をもって終売とせず、販売期間を来年3月末まで延長した。

 公式グッズは、ライセンス契約を結ぶ約400社が約6800種類を販売。公式商品は価格の8%程度がロイヤルティーとして企業から協会に支払われ、ここから万博の知的財産管理団体に一部が割り当てられ、残りが万博の運営費に入る契約となっている。

 オフィシャルストアのうち、会場外の15店舗を閉幕後も一定期間営業することも決定した。協会が持つミャクミャクなどの知的財産権についても、閉幕日までとしていた使用期限を来年3月まで延長した。4月以降は、万博の理念継承など使用範囲を制限したうえで、国や地方自治体などが引き続き使用できる。

各地のイベントに引っ張りだこ

 閉幕後もキャラとしてのミャクミャクは人間の世界で活動を続けている。「大阪・関西万博公式ライセンス商品」のXで10月15日、「ミャクミャク、今日からお休みをいただきます」と告知したが、わずか3日後の18日には「おやすみ期間、終了~! 今日からみんなに会いに行きます!」と復帰を宣言。この日は関西を飛び出し、大丸東京店での「大阪・関西万博オフィシャルストア大丸松坂屋百貨店」のイベントに登場した。万博協会関係者によると、各地のイベントから派遣のオファーが相次いでおり、今後も姿をあらわすことになりそうだという。

ミャクミャクはXで、今後も活動することを伝えた(2025大阪・関西万博公式ライセンス商品Xアカウントより)

 閉幕日に万博会場の大阪ヘルスケアパビリオンの閉館イベントでは、大阪府公式マスコットキャラクターで「大阪府広報担当副知事」のマスコット・もずやんとともに登場した吉村洋文知事が、ミャクミャクに関し「どうしようかなと思ってます、今。広報担当をね」と言及。ミャクミャクを抜擢することに含みを持たせた。

 万博最大の功労者は、全国に「万博成功」を印象付け、閉幕後も開催の余韻を伝えるだけでなく、ビジネスで実利を生み、行政にも影響を及ぼし続ける予感がある。「今、この時代に万博を開催する意義は何なのか」などと大上段から論じられてきた万博だが、案外、最大のレガシー(遺産)はミャクミャクなのかもしれない。