何かと奇抜なことをして世間を騒がせているマスク氏だが、事業の長期的な動きを点と点で結んでいくと、マスク氏の壮大な構想の全貌が浮かび上がってくる。xMoneyは、マスク氏にとって20数年前の忘れ物を取りにきたかたちだ。将来、私たちはマスク氏の「X経済圏」で暮らすことになるのかもしれない。
後発のxMoneyは、果たしてユーザーの心を掴むことができるだろうか。ソーシャルメディア関連の金融事業で思い起こされるのが、FacebookのLibraだ。Facebook独自の暗号通貨を目指したLibraは、法定通貨の地位を脅かしかねないと各国政府が危機感を抱いたため、各方面から激烈な向かい風を浴びて計画を大幅に変更しDiemに改名したが頓挫した。X Moneyは、今のところ決済サービスであり、独自の通貨についての言及は見当たらない。Facebookと同じ轍を踏まないように、注意しているのかもしれない。
しかし、マスク氏がデジタル通貨に関心を示していることは周知の事実だ。将来的にxMoneyに独自の仮想通貨を統合する動きがない、とは言い切れないだろう。政権中枢への接近は、その足場固めかもしれないと思うのは深読みしすぎだろうか。
マスク氏が創業に携わったPayPalは、依然として主要なサービスであり続けている。直近、アメリカのデジタル決済市場で競合するのは主にVenmo、Cash App、Zelleだ。フィンテックは、テクノロジー関連のVCはもちろん、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を目指す旧来の金融機関も大規模投資している分野であり、競争は熾烈を極める。PayPalとxMoneyに共通しているのは、グローバルなビジョンだ。本気で世界を獲りにいこうとしている。
日本でもこれまでに様々なフィンテック系の決済サービスが立ち上がっているが、国際展開するつもりがあるかは甚だ疑わしい。日本発のソーシャルメディア「mixi」は、FacebookやTwitterに駆逐されたが、決済サービスにおいて、その二の舞いにならないとは限らない。xMoneyとともにスーパーアプリ化したXは今後、社会に大きなインパクトを与えることになるのだろうか。世界が固唾をのんで見守っている。
(文=Takuya Nagata/作家、社会開発家、テクノロジー・エキスパート)