「結局、AI開発競争でもグーグルが圧勝」予想が広がる理由…OpenAIを数年リード?

 そんなグーグルをめぐって、前述のとおりAI開発でもグーグルが圧勝するのではないかという予測が広まっている。エクサウィザーズ「AI新聞」編集長・湯川鶴章氏はいう。

「直近の状況としては、グーグルが今月20日に開催した開発者向けイベント『Google I/O 2025』で多くのAIに関する新たな発表が一気に行われ、“グーグル優勢”という声が強まっています。昨年くらいまではAIモデルの性能を各社が競うというフェーズで、OpenAIのGPTがリードしているとみられていましたが、今年に入ってOpenAIやグーグル、Anthropic(アンソロピック)などの先頭集団が形成されてきたという印象です。そして各社の性能に大きな差がなくなってきたこともあり、モデルの性能だけではなくてコストパフォーマンスが重視されるフェーズに変わりつつあります。特に企業ユーザーは使用料が発生するので、コストを考えるとグーグルが選ばれやすくなっています」

グーグルの価格競争力が高い理由

 なぜグーグルのAIは価格競争力が高いのか。

「低価格の中国ディープシークが出てきてから、よりいっそうコストが意識されるようになりましたが、グーグルは以前からAIサービスを提供するクラウドサービス用データセンターをどうすれば効率良く運用することができるのか、そのためにどうすれば効率の良い半導体をつくれるのか、ネットワークの仕組みを構築すればよいのかといった課題について、AIを使って取り組み、改良してきました。その結果、非常に高いコストパフォーマンスを実現できています。

 一方、OpenAIはデータセンターを持っておらず、これまではマイクロソフトのデータセンターを使っていましたが、彼らも競争力のカギがコスパになりつつあるということを認識しているので、ソフトバンクと組んでStargate Projectを立ち上げてデータセンターを自前でつくろうとしています。ですが、今からデータセンターをつくると2~3年はかかるでしょうから、当面はグーグルが有利な状況が続くかもしれません」(湯川氏)

パーソナルAIエージェントの普及

 では、今後の勢力図としては、どのようになると予想されるか。

「多くの人が実際にAIを使うようになり、これからAIエージェントの時代になるといわれていますが、一つの会社のなかでも多くのAIエージェントが立てられるようになり、会社全体としてそれらをどのようにオーケストレーションしていくのかという点が重要になってきて、そのための仕組みづくりをめぐる競争が激しくなりつつあります。

 もう一つの重要な動きが、パーソナルAIエージェントの普及です。個人の考え方、趣味・嗜好、行動履歴といったものをすべて理解した上で、その個人に最適な答えを返せる“個人秘書”“デジタル秘書”みたいなものを全ユーザーが持つようになるといわれています。そのパーソナライゼーションの部分の開発をめぐる競争がAI市場の勢力図を大きく左右すると考えられます。

 マイクロソフトの製品は多くの企業に導入されているので、企業や社員一人一人のデータを蓄積・利用することができ、パーソナライゼーションの面では有利です。グーグルも個人ユーザーに加えて企業でもかなり導入されているので同様に有利でしょう。先日の開発者会議でもグーグルのCEOが、Gmailやカレンダー、Google Docs、Google ドライブなどのデータをすべて参照して、そのユーザーに最適な内容を返せるようにしていくと説明していました。一方、その点ではOpenAIは弱いです。とはいえ、現在ではGPTのユーザーは非常に増えてきており、ユーザー個人の情報をたくさん持つようになってきていますので、まったくダメというわけではありません。そうしたパーソナライゼーションの面で、どのAI企業が強くなるのかという競争になってくるでしょう」(湯川氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯川鶴章/エクサウィザーズ・AI新聞編集長)