マイクロソフトやグーグル、なぜ「岩石の風化でCO2削減」の新技術に注目?

――コストについてはどのようにお考えでしょうか?

中垣教授:現在、世界で最も安価にCO2を回収できると言われているのは、大規模な森林再生で、1トンあたり10ドル程度です。岩石風化促進も、将来的にはこれに近いコスト、あるいはそれ以下を目指せる可能性があります。特に、砕石ダストのような未利用資源を活用することで、原料コストを大幅に抑えられる可能性があります。

 重要なのは、CO2固定化量だけでなく、その「永続性(Durability)」です。樹木は何十年、何百年で枯れてCO2を再放出する可能性がありますが、岩石風化によって固定化された炭酸塩は、地質学的な時間スケールで安定的にCO2を貯留します。この永続性の価値をどのように評価するかが、今後の課題の一つです。

 また、農地に岩石粉末を散布することで、土壌改良効果や作物の収量増加といった副次的な便益(co-benefit)も期待できます。これらを経済価値として評価できれば、実質的なCO2固定化コストをさらに下げることができるでしょう。

なぜマイクロソフトやGoogleは岩石風化促進に注目するのか?

 MicrosoftやGoogleのような巨大テック企業は、自社の事業活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにするだけでなく、過去の排出量も含めて大気中から除去するという野心的な目標(カーボンネガティブ)を掲げている。その達成のためには、大量かつ永続的なCO2除去を可能にする技術が不可欠だ。

 岩石風化促進技術は、以下の点で彼らのニーズに応える可能性を秘めている。

1.高い永続性(Durability): 岩石によって固定化されたCO2は、数百年から数千年という地質学的スケールで安定的に貯留されるため、森林再生など他の自然ベースの解決策と比較して再放出のリスクが低いと評価されている。

2.スケーラビリティの可能性: 原料となるケイ酸塩岩などは地球上に豊富に存在し、農地や鉱山跡地などを活用することで、理論上はギガトン規模のCO2除去ポテンシャルがあるとされている。

3.コスト効率への期待: 特に未利用の岩石資源(砕石ダストなど)を活用したり、土壌改良といった共同便益を考慮したりすることで、将来的に他のCDR技術と比較してコスト競争力を持つ可能性がある。

4.共同便益(Co-benefits): 農地への適用による土壌のpH調整、必須ミネラルの供給による作物収量の向上、海洋アルカリ化による海洋酸性化の緩和といった、CO2除去以外の環境・社会への貢献も期待されている。

 これらの理由から、MicrosoftはFrontier Fundなどを通じて岩石風化促進技術を持つスタートアップからCO2除去量を購入しており、Googleも同様の動きを見せている。彼らの投資は、技術開発を加速させるとともに、カーボンクレジット市場における岩石風化促進技術の信頼性を高める効果も期待される。

社会実装への道筋―NEDOプロジェクトと産学連携

――日本国内での具体的な社会実装のイメージや、現在進められている研究プロジェクトについて教えてください。NEDOの「ムーンショット型研究開発事業」でも、先生がプロジェクトマネージャーを務める「岩石風化ポテンシャルを最大限に引き出すCO2固定システムの開発」が採択されていますね。

中垣教授:はい、NEDOのムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」の一環として、私たちのプロジェクト「岩石風化ポテンシャルを最大限に引き出すCO2固定システムの開発」が2023年度から本格的に始動しました。このプロジェクトでは、2050年にCO2純排出量1ギガトン/年の削減ポテンシャルを持つ岩石風化促進技術の確立を目指しています。