具体的には、以下の3つの主要な研究開発テーマに取り組んでいます。
1.岩石風化促進メカニズムの解明と最適化: 様々な種類の岩石(特に国内で豊富に存在する玄武岩やかんらん岩など)について、風化速度を最大化するための最適な粒度、散布環境(土壌の種類、水分量、温度など)を明らかにします。
2.CO2固定量の高精度評価技術(MRV)の開発: 岩石風化によって実際にどれだけのCO2が大気中から除去・固定されたのかを科学的根拠に基づいて正確に測定・報告・検証する手法を確立します。これはカーボンクレジット市場での取引や政策的な評価において不可欠です。衛星データやAIを活用した広域評価技術の開発も進めています。
3.社会実装モデルの構築とLCA/TEA評価: 日本国内の具体的な候補地(農地、森林、休廃止鉱山など)を選定し、実証試験を通じて技術的な課題を克服するとともに、経済性(TEA: 技術経済性評価)や環境影響(LCA: ライフサイクルアセスメント)を総合的に評価し、持続可能な社会実装モデルを構築します。
このプロジェクトには、早稲田大学を中心に、産業技術総合研究所(産総研)、北海道大学、九州大学、電力中央研究所といった国内の主要な研究機関や大学が参画し、企業とも連携しながらオールジャパン体制で研究開発を進めています。
産総研とは、以前から岩石風化促進技術のLCAやTEAを行うための評価ツール開発で協力しています。このツールを用いることで、異なる種類の岩石や散布場所、適用方法におけるCO2固定化量やコストを計画段階で予測できるようになります。
日本国内での具体的な適用先としては、農地への散布が有望です。土壌改良効果も期待できるため、農業との連携が鍵となります。特に日本では水田が有力な候補地とされており、国内の水田の10%に岩石風化促進を適用した場合、年間300万トン以上のCO2削減効果が見込めると試算されています(日経クロステック記事より)。その他、休廃止鉱山の活用(酸性排水の中和処理とCO2固定化の同時実現)や、ハウス内に設置したトレイに粉砕した岩石を載せてCO2固定を促す「気固接触方式」なども研究されています。
――社会実装に向けて、最大の課題は何でしょうか?
中垣教授:やはり「測定・報告・検証(MRV)」の確立です。固定化されたCO2の一部は地下水などによって移動する可能性があり、最終的にどれだけのCO2が大気中から除去されたのかを正確に把握し、検証可能な形で報告する手法を確立する必要があります。MRVが確立されなければ、カーボンクレジットとしての価値も認められにくく、企業も参入しづらくなります。
現在、世界中でMRV手法の開発競争が激化しており、私たちもNEDOプロジェクトなどを通じて、高精度な測定技術やモデリング手法の開発に注力しています。
――岩石風化促進技術が将来的に普及した先に、どのような未来像を描いていらっしゃいますか?
中垣教授:岩石風化促進技術は、地球が本来持っているCO2吸収能力、いわば「地球の自然治癒力」を人間の手で少しだけ加速させる技術だと考えています。この技術が広く普及すれば、農業や鉱業といった既存産業と連携しながら、持続可能な形で大気中のCO2濃度を低減していく道筋が見えてくるはずです。
もちろん、この技術だけで気候変動問題の全てが解決するわけではありません。省エネルギー化や再生可能エネルギーへの転換といった排出削減努力(ミティゲーション)が大前提です。その上で、どうしても排出されてしまうCO2や、過去に排出されたCO2を除去する手段として、岩石風化促進技術が重要な役割を担える可能性があります。
将来的には、様々なネガティブエミッション技術が適材適所で活用され、ポートフォリオとして地球全体のカーボンバランスを最適化していくことになるでしょう。その中で、岩石風化促進技術が、コスト効率と永続性に優れた選択肢の一つとして、世界のカーボンニュートラル達成に貢献できる未来を目指して、研究開発を進めていきたいと考えています。
――ありがとうございました。
(構成=BUSINESS JOURNAL編集部)