2. 宇宙ビッグデータ米──気候変動下の農業改革
高温障害による米の品質低下が深刻化する中、天地人は米卸で国内大手の株式会社神明と、スマート水田サービスを提供する農業ITベンチャー株式会社笑農和と協業し、「宇宙と美水」というブランド米を栽培している。衛星データで最適な栽培地を特定し、IoT給水システムと連携して冷水管理を自動化する。
2024年の猛暑でも、同ブランドは一等米品質を維持。農業×宇宙の先進モデルとして注目を集めている。農業事業者や自治体と連携し、今後は他の品種や地域にも展開を拡大する方針だ。
3. 脱炭素支援──風力・水田・カーボンクレジットへ
再生可能エネルギー領域では、風力発電の適地検索支援に加え、水田からのメタン排出量を推定する特許技術も開発中。これにより、農業分野でのカーボンオフセット市場の創出を目指す。
将来的には、森林・畜産・都市インフラにおける炭素量計測も計画中だ。
出資を通じてJAXAからは多方面にわたる支援を受けており、特に衛星開発やデータ活用に関する高度な知見を活かせることが大きな強みとなっている。
「我々が目指しているのは、宇宙データの民主化。Googleマップのように、誰でも自由に衛星データに触れられる世界です」と樋口氏は語る。「天地人コンパス」はその理念の体現だ。さらに、広範かつ長期間にわたって取得された衛星データを活用し、インフラの50年スパンの変化を可視化することで、街や地域の未来の姿の予測も可能にしている。
創業から6年で売上を18倍に拡大し、現在9カ国に進出中の天地人。2027年には自社衛星「Thermo Earth of Love」を打ち上げ、地表面温度の観測を強化する計画を進めている。これは、地球温暖化の進行やインフラ老朽化の兆候を早期に把握するために極めて有効な指標だ。
また、インフラ領域では水道管だけでなく、道路や地下構造物などを含めた都市インフラのデータ統合を構想。「街や地域の暮らしを支えるインフラを横断的に捉え、老朽化診断や重要度優先度の評価ができるような“都市OS”の構築に挑戦したい」と樋口氏は語る。国土交通省の掲げるインフラマネジメント構想とも親和性が高く、多様なプレイヤーとの連携が今後の鍵を握る。
天地人の挑戦は、「宇宙から地上の課題を見る」という視座を持ち、データと社会の接点を丁寧に設計することで、新たなビジネスモデルを創出してきた。スタートアップが社会実装に向かうために必要な”課題解決力”とは何か──天地人の軌跡は、その問いに対する力強いヒントを与えてくれる。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)