「印刷の品質については、ほぼグラビアと同等まできています。ただし課題はインフラです。水性インキを使える印刷機がまだ少なく、大量生産の受注に対応できるかがネックになります」と加藤氏は語る。
水性フレキソの普及には大きく2つの壁がある。
1.印刷機インフラの不足
フレキソ印刷機が国内にはまだ少なく、生産能力の点で制約がある。
2.コスト競争力の確保
前後工程がグラビア用に整備されているため、印刷だけを変えてもコストで劣る場合がある。
「サステナブルな要求は確実に増えていますが、一方でブランドオーナーはコスト面も非常に重視しています。そのバランスをどう取るかが最大の課題です」と加藤氏は率直に語る。
旭化成は課題克服に向けて、印刷機メーカーや海外企業と積極的に連携している。
・英国Hamillroad社の「Bellissima DMS」(高精細スクリーン技術)
・ESKO社の「Equinox」(ECG印刷に適したスクリーン技術)
これらを組み合わせ、品質とコストの両立を図る。さらに、国内外でデモセンターを立ち上げ、実際の印刷品質を体験してもらう営業活動も進めている。
「実際にお客様に見ていただき、『これならグラビアから切り替えられる』と納得してもらうことが重要です」と加藤氏は言う。
旭化成は2030年に向けて、溶剤現像版(AFPTM)の展開を徐々に縮小し、水現像版(AWPTM及びAPRTM)に注力する事業方針(「Solvent ZERO」)を打ち出している。
「2030年以降は溶剤現像版はつくらない、という覚悟を持って水現像版の普及に取り組んでいます」と加藤氏。
環境規制が強まるなか、先手を打って事業構造を転換する狙いだ。
印刷業界は環境規制だけでなく、人手不足という課題にも直面している。過酷な現場環境では人材が集まりにくく、持続的な生産が難しくなる。
「日本の印刷市場はグラビア中心で品質は高いですが、その現場環境は過酷です。10年、20年先を見れば、水性を中心に印刷方式が切り替わっていくのは間違いないでしょう」と加藤氏は展望を語る。
旭化成の挑戦から見えてくるのは、「環境対応をいかに競争力に変えるか」という視点である。
・真水現像や廃液リサイクルといった独自技術
・製品だけでなく装置・サービスを含めたシステム提案
・2030年以降は溶剤現像版を作らないという事業の構造転換
これらは単なる技術革新ではなく、産業の構造転換を伴う挑戦だ。
水性フレキソ印刷は、日本の印刷市場に新たなスタンダードをもたらす可能性を秘めている。そしてその動きは、環境とビジネスの両立を模索するあらゆる企業にとって学びとなるはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)