一般的なファッションメディアがリリース情報やストレートニュースを扱うのに対し、「fashion tech news」は素材やブランド史を徹底的に掘り下げるインタビュー記事が中心である。開発者やプロジェクト責任者に直接取材する姿勢も大きな特徴だ。
「素材だけで一本の記事を書くこともありますし、ブランドの創業者の写真や歴史的資料まで紹介することもあります。そこまでやるのが私たちの強みです」
メディアの成長をさらに支えるのが、ユーザーとの距離の近さだ。記事に対して「参考になった」「おもしろい」などのリアクション機能を導入したほか、読者からのリクエストを受けて取材先にアプローチする試みも始めている。
また、会員限定イベントを開催し、リアルな交流の場も設けている。こうした取り組みが読者のファン化を進め、コミュニティ的な広がりを生んでいる。
広告収益やスポンサーシップによるマネタイズは現在考えていないという。あくまでR&D活動の一環として運営し、研究成果や業界の最新動向を広く伝えることが主目的だ。
結果として、記事がきっかけでブランドとのコラボが実現したり、新たな共同研究につながったりと、副次的な効果が生まれている。
玉井氏が描くビジョンは明快だ。
「ファッションメディアとテクノロジーといえば『fashion tech news』と第一想起される第一媒体になること。そこに向けて、単なる読者数の増加ではなく、ファンを増やしていくことを重視していきたいと思っています」
SNSでの発信強化や会員基盤の拡大を進め、専門性とユーザー目線を両立することで、業界内外にインパクトを与えるメディアへ成長していく構えだ。
「fashion tech news」の成功は、オウンドメディアが「宣伝ツール」にとどまらず、業界全体を巻き込むプラットフォームになり得ることを示している。
研究者目線からユーザー目線への転換、中立性を保ちながら深掘りする姿勢、ユーザーとの双方向的な関わり。これらの要素が噛み合うことで、PVやUUの成長だけでなく、ZOZO NEXTの研究活動そのものを推進する「良い循環」が生まれているのだ。
ファッション業界に限らず、オウンドメディアを運営する企業にとって学べる点は多いだろう。
「ユーザーにとって価値のある情報を中立的に届ける」ことこそが、長期的なブランド認知や事業推進につながる。そのことを「fashion tech news」の成長は雄弁に語っている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)