創業2年のバイオスタートアップが「わきが」で勝負…4兆円市場に挑む

 大学では神経科学を専攻し、同級生で共同創業者のXavier Segel氏と出会った。二人は大学1年の頃からルームメイトで、生物学への関心を共有していた。卒業論文のテーマがそのまま事業の原型となり、卒業を前に「自分たちで会社を立ち上げよう」と意気投合した。

 創業当初、学部生でありながら研究費と事業資金を集める必要に直面した。コロナ期には活況だったバイオベンチャー市場は、AI企業への投資機運の高まりもあり一気に氷河期へ。その上、教授やポスドクレベルの起業家が多いなかで、若い創業者が投資を受けるのは難しかった。

 目をつけたのは、母校の卒業生ネットワークだった。

「LinkedInで“スタートアップ”というキーワードで片っ端から卒業生を探してメッセージを送りました。最初の2人はすぐに会ってくれたのですが、その後5カ月間は音沙汰なし。地獄のような時期でした」

 転機は、一通の手紙だった。

 同窓名簿に、米国で有名なファンドの創設者の連絡先があり、そこに住んでいるのか確証もなかったが、手書きの手紙を送ってみた。すると、電話があり、30分の会話で「面白いね」と出資が決まった。すると、「あの人が出資するなら」と投資家が次々と集まった。日本では考えにくいスピード感だが、同時にセラノスのようなリスクも孕む。「日本の投資家は技術を細かく確認しますが、米国では“人”を見て決めることが多い」と福永氏は語る。

 米国では資金を集めやすい一方で研究費は高い。結果的に、米国で資金を調達し、日本で研究を進めるという構造が、投下資金に対してレバレッジが効いているという。「ある意味では残念な状況ともいえるが、スタートアップにとっては、この構造が有利に働く面もある」と福永氏は語る。

プロダクトが生まれた理由──“置き換える”という発想

 Taxa Technologiesが開発したのは、「皮膚に定着する微生物を入れ替える」という技術である。

「『腸内細菌』といった言葉はよく聞くと思います。そのように、腸内や口腔でも微生物を入れ替える研究は進んでいますが、実際に長期間定着させるのは非常に難しい。皮膚なら目で見てサンプルを採取でき、環境も比較的安定しているため、置き換えの再現性が高いと考えました」

 同社の技術の核心は、臭いの原因物質を生み出す微生物の機能を改変し、臭いを出さない微生物に置き換える点にある。

 皮膚という領域に注目した理由は、創業初期の現実的な判断にもある。

「創薬は時間も資金もかかる。学部生が始めるには無理があると分かっていました。だから化粧品やデオドラントのような消費財領域に絞った。微生物的なアプローチで実現可能で、圧倒的な市場インパクトを持つ商材を、と考えたんです」

 デオドラント市場は、日本では約500億円に対し、世界では約4兆円規模と桁違いに大きい。歯磨きのように日常的に使う習慣があり、中学生ごろから一生使い続ける人も多いという。「日常使いする消費財としてのスイッチングインパクトが非常に大きい」という。また、アメリカではデオドラントが医薬品ではなく化粧品の扱いであるため規制が緩く、参入しやすい。

 当初は日焼け止め製品の開発も検討した。しかし、日焼け止めは微生物に自然界では見られない機能を付与する試みであり、開発の難易度は非常に高かった。一方、体臭制御は、臭いを出さないようにする“停止(ノックアウト)”の編集である。自然界でも起こりうる変化であり、品種改良などでも用いられてきた技術であるため、実現可能性と市場性の両面から有望だと判断したのだった。

米国で発売へ──日米の市場を見据えて

 まずは、米国でのプロダクト販売が目下の目標だ。プロダクトはすでに500人以上のユーザーによる試験を終え、量産化の準備段階に入っている。米国での販売は2026年初旬を想定しており、1セットは4本入りで、週1回の使用で効果を持続させる仕組みだ。