創業2年のバイオスタートアップが「わきが」で勝負…4兆円市場に挑む

創業2年のバイオスタートアップが「わきが」で勝負…4兆円市場に挑むの画像1
福永祐一氏

●この記事のポイント
・米国バイオベンチャーのTaxa Technologiesが開発した「Swap」は、臭いを生む菌を“入れ替える”世界初のデオドラント。1回の塗布で1週間以上持続する。
・創業者の福永祐一氏は、学部在学中に起業。合成生物学の力で「臭いを出さない菌」を設計し、世界4兆円のデオドラント市場に挑む。
・米国での販売を2026年に予定し、慶應大とも連携して研究を拡大。日本独自の「わきが」文化にも注目し、新市場の開拓を目指す。

 体臭ケアの常識が変わりそうだ。

 米国バイオベンチャーのTaxa Technologiesが開発した「Swap」は、臭いの原因となる微生物を“殺す”のではなく、“臭気を産生しない微生物と入れ替える”という発想で生まれた。

 一度の塗布で一週間以上の防臭効果が見込まれ、2026年にはアメリカで販売開始予定。合成生物学の力で、「わきが」という言葉がある日本市場にも新たな可能性を示そうとしている。この技術を実現したのは、学部生時代にバイオテクノロジー企業を起業した日本人・福永祐一氏だ。米国での資金調達に成功し、世界4兆円というデオドラント市場に挑む彼の歩みを追った。

●目次

「殺す」から「入れ替える」へ デオドラントの大革命

 人の皮膚には無数の微生物がすみついており、その一部が体臭や肌トラブルの原因になる。

 米国バイオテックベンチャーのTaxa Technologiesは、臭いの原因物質を生み出す微生物の機能を改変した“無臭型”の微生物を導入し、皮膚上の菌叢を置き換えるという世界初のメカニズムを応用したデオドラント「Swap」を開発した。一度の塗布で一週間以上の防臭効果が見込めることから、現在アメリカで臨床研究が進められており、2026年初旬の販売を予定している。

「生きた微生物を皮膚に長期定着させることは、これまで難しいとされてきました。それを実現できたのが私たちの強みです」

 皮膚という環境で“長期定着”を実現できた点が、同社の技術的ブレークスルーである。従来のデオドラントは、臭いの原因となる微生物を殺菌して一時的に臭いを抑えるものが多かった。だが同社の製品は、皮膚上の微生物群そのものを入れ替えるという発想である。「一度塗ると、臭いを出さない微生物が優勢になります。ですから、シャワーを浴びても効果が続きます」と福永氏は説明する。

 この「微生物の入れ替え」という発想を可能にしたのが、合成生物学の進歩である。

 近年のゲノム編集技術によって、DNAを狙った箇所のDNAをで精密に書き換えることができるようになった。「DNAをパソコンの画面上でA・T・G・Cの配列として読み、ここをこう変える、と指示を出すと、実際にその通りのプラス ズミド(人工的に設計できる小型DNA)を入手できる。生物を“プログラミングする”感覚に近いんです」と福永氏は語る。

 この置き換えを可能にしているのが、Taxaが独自に開発した微生物群「Taxa Probiotics™」(特許出願中)である。創業わずか2年で革新的なプロダクトを生み出すことができたのは、福永氏が合成生物学の知識を得たアントレプレナーだったからである。

学部生から創業者へ──福永氏の異色の経歴

創業2年のバイオスタートアップが「わきが」で勝負…4兆円市場に挑むの画像2

 福永氏は将来進むべき専門領域を検討しているときに、血液検査スタートアップ「セラノス」が詐欺事件で崩壊したニュースを目にする。「科学的なエビデンスを自分で裏付けられる人材の価値が高まっている」——そう感じた福永氏は、米・ウィリアムズ大学に進学した。