核融合炉の燃料であるトリチウム(三重水素)の製造には「リチウム6」が不可欠だが、通常のリチウムに含まれるリチウム6はわずか7.6%。残りはわずかに重いリチウム7で、両者を分離する必要がある。
「LiSMICの膜をリチウムが通過するとき、軽いリチウム6の方がほんの少し速く移動します。この速度差でリチウム6を濃縮できる。QSTと共同で原理的な検証は完了しています」
従来の分離法は水銀を使うため環境負荷が大きく、現在はロシアと中国でしか行われていない。日本では水銀の使用が困難で、国産の代替技術が求められていた。QSTの核融合発電実証炉「Q-DEMO」は2038年完成、2039年発電開始の計画で、星野氏はこのタイムラインに合わせてリチウム6供給体制を整備する構えだ。
「QSTにいたとき、核融合でリチウムが必要だというところからこの開発が始まりました。実現はまだ先ですが、その前に社会で役立つなら積極的に還元していく。それがQSTの職員みんなの思いです」
LiSTieへの支援体制は、シードステージのスタートアップとしては異例だ。
文部科学省のSBIRフェーズ3に採択され交付上限15億円の助成を獲得。NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業にも採択された。シードラウンドでは素材・化学系VCのユニバーサル マテリアルズ インキュベーター(UMI)から1.5億円を調達している。
さらに2025年3月、QSTがLiSTieへ出資。認定ベンチャーへの出資はQST設立以来初で、知財の実施許諾対価として株式を取得するスキームにより、研究機関とスタートアップが「一蓮托生」の関係を築いた。
「正社員14人、業務委託含めて20人超の小さな所帯ですが、大企業で活躍されていた方々が加わってくれて、開発のスピードは格段に上がっています」
「このままリチウムが消費され続ければ、2040年代には需給バランスが崩れると言われています。自分の子供たちや孫の世代が資源に困る。日本はずっと資源に困ってきた国なのに、さらに先送りするのか。我々はそうなってはいけないと思って、この会社を立ち上げました」
LiSTieが目指すのは、リチウムの「一方通行」を「循環」に変えることだ。使い終わった電池からリチウムを回収し、新しい電池に生まれ変わらせる。南米の塩湖から中国を経由せずにダイレクトに水酸化リチウムを製造する。そして将来は、核融合炉の燃料まで。
柏の葉のラボで静かに稼働を始めたベンチプラント。その小さな装置が刻む24時間365日のリズムは、日本のエネルギー資源戦略に新たな選択肢を提示している。
(取材・文=昼間たかし)