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23・たとえ魔導でなくても
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朝食が終わり、ソティリオス様が本宮殿へ戻ろうとしたところでお客が来ました。
リナルディ王国から来た病人とその家族です。
竜人族の血を引くものはカサヴェテス竜王国以外にも住んでいます。強過ぎる魔力を制御出来なくて病気になるものも当然いるのです。
彼らが来ることは、夏の半ばにはわかっていました。
お母様の実家のパルミエリ辺境伯家のミネルヴァ様から手紙が来たのです。ミネルヴァ様は予想外の激しい大暴走で壊滅した辺境伯家を立て直した、みっつ年上の私の従姉です。国王である異母弟の婚約者でもあります。
病人は、ミネルヴァ様の専属魔道具職人の助手をしている女性でした。
手紙は魔導で素早く運べても、人はそうもいきません。
転移の魔導は伝説にしか出てきません。でも結界の魔導もそうでした。精霊王様は愛し子の影を利用して移動なさいますし──いえ、今は関係ないですね。
病人が長い間旅をするのは心配でしたが、ソティリオス様に巨竜化して迎えに行ってくれとは頼めませんでした。彼は私の護衛であって、私の家臣ではないのです。彼はあくまで竜王ニコラオス陛下の命で私に付き従ってくれているのです。
王都周辺の魔力の昂りが収まってきたこともあり、ここ数日は離宮で彼らが到着するのを待っていました。
少し小柄な青年が、荒い息の女性を抱いた状態で私に頭を下げます。
彼からは血の匂いがしました。女性から飛び出した尖った魔力の鱗が、彼女を抱く青年の体を傷つけ続けているのです。その痛ましい姿に、私のほうから出向けば良かったと思いましたが、形だけとはいえ竜王の妃が気軽に祖国へは戻れません。
「初めまして、王妃様。僕はルキウス。パルミエリ辺境伯ミネルヴァ様の専属魔道具職人でございます。今回は王妃様とミネルヴァ様のご恩情で我が助手ユーノを治療してくださるとのこと、心からお礼申し上げます」
「初めまして。病人は客間に……いいえ、そちらの長椅子に寝かせてください」
ルキウスに怪訝そうな顔で見られました。
客間を惜しんだのではありません。
ただでさえ苦しそうな彼女をこれ以上動かしたくなかったのです。私の魔導はどこででも発動出来ます。
「ルキウス……ルキウス」
「ここにいるよ、ユーノ。僕はここにいる!」
談話室の長椅子に横たえられた彼女の前に跪きます。
私は目を閉じて、自分の中へ深く潜りました。こんなときでも竜王陛下への想いが沸き起こりそうになって、必死に抑えます。
想い合う目の前のふたりを羨ましいと感じてしまったせいでしょう。ふたりは病気で苦しんでいるというのに、私は本当に浅ましい人間です。
闇の魔力を静かに体内から放ちます。
漂う闇の魔力から、病人ユーノの状態が伝わってきます。
農家の幼い男の子から、魔物化した作物から、農地近くの魔物を生み出していた森の中から感じたのと同じものがありました。
澱みです。
本来絶え間なく流れている魔力が澱み、動きを止めているのです。
高まり過ぎた魔力が流れを歪めて作り上げたものです。
澱んだ魔力はいずれ昂って暴れ出し、周囲のものを魔物化するか、魔力で出来た魔物を生み出します。
ぽこぽこと泡立って沸騰する熱湯のような魔力の澱みに手を翳して、魔導を発動します。
無理矢理澱みを壊すようなことはしません。
もつれた糸を解くように、ゆっくりじっくりと梳かしていくのです。春の間、精霊王様の毛皮で練習させていただきました。何度か精霊王様を寝かしつけて、よくやったとお褒めの言葉をいただきましたっけ。
そう言えばまだ牢へ投獄される前、病弱で眠りの浅かった異母弟を寝かしつけるのが得意でした。
前のとき無意識で結界を張ったように、無意識で魔導を使っていたのかもしれません。
私の闇の魔力は眠りと夢をもたらします。たとえ魔導でなくても眠りと夢は、心と体の澱みを解き疲れを癒す力があるものなのです。
リナルディ王国から来た病人とその家族です。
竜人族の血を引くものはカサヴェテス竜王国以外にも住んでいます。強過ぎる魔力を制御出来なくて病気になるものも当然いるのです。
彼らが来ることは、夏の半ばにはわかっていました。
お母様の実家のパルミエリ辺境伯家のミネルヴァ様から手紙が来たのです。ミネルヴァ様は予想外の激しい大暴走で壊滅した辺境伯家を立て直した、みっつ年上の私の従姉です。国王である異母弟の婚約者でもあります。
病人は、ミネルヴァ様の専属魔道具職人の助手をしている女性でした。
手紙は魔導で素早く運べても、人はそうもいきません。
転移の魔導は伝説にしか出てきません。でも結界の魔導もそうでした。精霊王様は愛し子の影を利用して移動なさいますし──いえ、今は関係ないですね。
病人が長い間旅をするのは心配でしたが、ソティリオス様に巨竜化して迎えに行ってくれとは頼めませんでした。彼は私の護衛であって、私の家臣ではないのです。彼はあくまで竜王ニコラオス陛下の命で私に付き従ってくれているのです。
王都周辺の魔力の昂りが収まってきたこともあり、ここ数日は離宮で彼らが到着するのを待っていました。
少し小柄な青年が、荒い息の女性を抱いた状態で私に頭を下げます。
彼からは血の匂いがしました。女性から飛び出した尖った魔力の鱗が、彼女を抱く青年の体を傷つけ続けているのです。その痛ましい姿に、私のほうから出向けば良かったと思いましたが、形だけとはいえ竜王の妃が気軽に祖国へは戻れません。
「初めまして、王妃様。僕はルキウス。パルミエリ辺境伯ミネルヴァ様の専属魔道具職人でございます。今回は王妃様とミネルヴァ様のご恩情で我が助手ユーノを治療してくださるとのこと、心からお礼申し上げます」
「初めまして。病人は客間に……いいえ、そちらの長椅子に寝かせてください」
ルキウスに怪訝そうな顔で見られました。
客間を惜しんだのではありません。
ただでさえ苦しそうな彼女をこれ以上動かしたくなかったのです。私の魔導はどこででも発動出来ます。
「ルキウス……ルキウス」
「ここにいるよ、ユーノ。僕はここにいる!」
談話室の長椅子に横たえられた彼女の前に跪きます。
私は目を閉じて、自分の中へ深く潜りました。こんなときでも竜王陛下への想いが沸き起こりそうになって、必死に抑えます。
想い合う目の前のふたりを羨ましいと感じてしまったせいでしょう。ふたりは病気で苦しんでいるというのに、私は本当に浅ましい人間です。
闇の魔力を静かに体内から放ちます。
漂う闇の魔力から、病人ユーノの状態が伝わってきます。
農家の幼い男の子から、魔物化した作物から、農地近くの魔物を生み出していた森の中から感じたのと同じものがありました。
澱みです。
本来絶え間なく流れている魔力が澱み、動きを止めているのです。
高まり過ぎた魔力が流れを歪めて作り上げたものです。
澱んだ魔力はいずれ昂って暴れ出し、周囲のものを魔物化するか、魔力で出来た魔物を生み出します。
ぽこぽこと泡立って沸騰する熱湯のような魔力の澱みに手を翳して、魔導を発動します。
無理矢理澱みを壊すようなことはしません。
もつれた糸を解くように、ゆっくりじっくりと梳かしていくのです。春の間、精霊王様の毛皮で練習させていただきました。何度か精霊王様を寝かしつけて、よくやったとお褒めの言葉をいただきましたっけ。
そう言えばまだ牢へ投獄される前、病弱で眠りの浅かった異母弟を寝かしつけるのが得意でした。
前のとき無意識で結界を張ったように、無意識で魔導を使っていたのかもしれません。
私の闇の魔力は眠りと夢をもたらします。たとえ魔導でなくても眠りと夢は、心と体の澱みを解き疲れを癒す力があるものなのです。
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