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正義026・巣へ

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「ジャスティス1号、気配を探れるか?」
「ジャス!」

 門を抜けてから約1時間後。

『ロズベリー森林』に到着したエス達は、召喚したジャスティス1号に気配の感知を頼んでいた。

「…………ジャス」
「うーん、やっぱりダメか」

 首を横に振るジャスティス1号に、エスは腕を組みながら唸る。

 先日森で感じた嫌な気配は、どういうわけだかさっぱり感じなくなっていた。

 そのため、気配察知に優れたジャスティス1号を呼び出したわけだが、彼にも気配を察知できないらしい。

 どういうわけだと首を傾げるエスの横で、ユゼリアが口を開く。

「邪獣の出現率も通常の水準に戻ってるし、ぱっと見異変はないのよね……普通に考えれば、昨日の鬼熊を倒したことが原因に思えるけど……」

 昨日は草原に森林凄しんりんせい邪獣が出現したり、森の浅いポイントに奥地の邪獣が出現したりしていたが、今日はその現象もほとんどない。

 ジャスティス1号による気配察知だけでなく、邪獣の分布と出現率の点でも森に異常は見当たらないのだ。

 その後、数十分かけて森の奥へと進んでみたが、特筆すべき異常は検知されなかった。

「うーん、どうしよっか……」
「困ったわね……」

 簡易地図を開いたエス達は、昨日休憩を取った開けたスペースの岩に腰掛ける。

 絶対に何かがあると踏んで来たのに、驚くほど異常が見つからない。

「なんというか、ここまで何もないと逆に不気味ね……」

 ユゼリアはそう言って溜め息を吐く。

「うーん……昨日の鬼熊オーガベアが出たのはもう少し先だし、とりあえずそこまで進んでみる?」
「そうね……せっかくだし、ネストまで行くのがいいかもしれないわ」
「巣に?」
「そう。鬼熊は元々巣の近くで行動する邪獣だし、そっちのほうに異変があるかもしれないでしょ? 今のところ特に異常はないし、可能性は低いけど……」
「いいんじゃない? このまま帰るよりいいし」

 エスはそう言いながら、鳥が飛び回る青空を見た。

 まだ時間は早いので、巣を目指す時間は十分にある。

 ユゼリアが言うように何かがある可能性もゼロではないし、単純に巣を見てみたいという興味もあった。

「そうね。それじゃ行ってみましょ」
「オーケー!」

 エスは親指を立てて笑う。

 岩から立ち上がったエス達は、巣に向けて移動を開始した。


 §


「――目障りな奴らだ」

 森の奥にある洞窟にて。

 黒装束の男は吐き捨てるように呟いた。

 彼が見ていたのは、森の上空を飛ぶ

 小鳥の視線の先には木々のない開けたスペースと、移動を始めた2人の冒険者の姿があった。

 先頭には猫のようでありそうでない、不思議な生き物の姿もある。

(儀式の完成まであと2~3日……不安材料は消しておきたい)

 男はフードの向こうで神経質に歯を鳴らす。

 洞窟の最奥にある儀式の壺は、着実に呪いの力を増していた。

 今はまだ結界の力で気配を抑えられているが、儀式完成の間近となれば周囲に漏れ出すのは確実だ。

 普通の相手なら感知される心配もなく、仮に感知されても脅威にはならないが、男には1つの不安材料があった。

(昨日の鬼熊オーガベア……)

 昨日、突如として反応が消えた鬼熊。

 あの後、念のためということで、反応が消えた付近の上空を小鳥の視界で確認した。

 すると、数十メートルにわたる謎の巨大溝を発見したのだ。

 何かと思い高度を下げたところ、溝の片端かたはしに鬼熊の残骸らしきものを見つけた。

 あの場所にあった巨大な溝は、鬼熊が倒された時に出来たものなのだろう。

 それだけの攻撃を放てる冒険者となると、ほんの一握りに限られてくる。

(恐らくは……)

 男は既に森の中へと消えた2人の姿を思い出す。

 金髪を2つに結った少女と、珍妙なマントを羽織った少年。

 昨晩、儀式の邪魔になりそうな者を町の手下が襲撃したが、2組のパーティのうち片方の襲撃に失敗したと報告を受けている。

 その報告で聞いた相手の姿に合致しているのだ。

 曰く、天才のAランク魔法少女と、これまた天才と言われる新人少年らしい。

(さて、どうするか……)

 儀式直前になって現れた不安材料。

 どのように排除するか考え、男は妙案を思いついた。

 今しがた2人が向かった方角にはネストがある。

 いまだに森を怪しんでいる様子だし、1度巣を見に行くつもりなのだろう。

(ちょうどいい……儀式の過程で出た〝呪い〟の余りもあることだしな。あれを使って罠を仕掛ければ――いや、そうか。仮に失敗しても――)

「……くく」

 男は自らの完璧な作戦にほくそ笑む。

 もはや儀式の完成は盤石と言っていい。

 この森から絶望という名の災厄が生まれ、男にとって最高の愉悦が始まる。

「くくく……ははははは!!!」

 男は洞窟最奥で脈動を続ける巨大な心臓に目をやり、高らかに歪んだ笑い声を上げるのだった。
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