ホムンクルス

ふみ

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 自室でノートをまとめていると、ちーちゃんはいつも通りの時間に帰ってきた。
「ただいまー」
 声とともに私の部屋を通り過ぎたちーちゃん。直後、壁越しにベッドが軋む音が聞こえてきた。きっとベッドにダイブし、スマホとにらめっこしているのだろう。あまりの変わらなさに、逆に意識してしまいそうで怖い。
「おかえりなさい。ちーちゃん」
 顔を見に行けば予想通り。ベッド脇に腰掛けるかどうかためらうも、軽く頭を振ってちーちゃんに近付いた。対策はばっちりしてある。何も恐れることはない。
 四川樓から帰ってきてすぐに衣類の匂いを消し、勝手に借りたシュシュも元に戻した。歯を磨いて、念のためにお風呂だって済ませてある。最大限の努力はしたんだもの。きっと大丈夫。
「はる姉」
「どうしたの?」
 ベッド脇に腰掛け、いつものようにちーちゃんと目を合わせた。
「今日さ、どこか行った?」
 笑みが消えかかる。奥歯をかんで踏ん張り、逃げそうになる視線を何とか縫い留めた。真っ白になった思考では何も言えず、ただちーちゃんの言葉を待った。
「一人で外に行ってないよね?」
 穏やかな表情と声色。その裏には本当に何もないのか。臆病なほど言葉の裏を探した後で口を開いた。
「どうして、そんなことを聞くの?」
「何となく。昼間はどこにだって行けるから、約束破ってないか心配になっただけ」
 何となくにしてはタイミングが良過ぎる。ちーちゃんの動物的な直感に驚かざるを得なかった。
「行ってないならいいや」
 ちーちゃんがスマホを枕に放った。
「お風呂の前にコンビニ行ってくるけど、はる姉も行く? あたし、アイス食べたくなっちゃった」
 体を起こしたちーちゃんは、昨日までと同じ幼い笑みで答えを待っている。昨日までなら即答できた何気ない会話も、今日からは少し変わってしまうのだろうか。
「私は、いい」
「そっか」
 ちーちゃんは何も気に留めず部屋を出た。誰もいない一人の部屋。以前までは不安で堪らなかった孤独が、今日ばかりは心地良かった。
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