ホムンクルス

ふみ

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 私は随分と意志が弱い。
 一人外出に数日は後悔したものの、喉元過ぎれば何とやら。ちーちゃんの夏休みが終わり、秋を迎える頃には週に三回のペースで冒険へと繰り出していた。
 夏の暑さが消え去った衣替えの時期になっても、気付かれる気配は一向になかった。
「はる姉。衣替え終わった?」
 収納ボックスと戦っている真っ最中、ちーちゃんが様子を見にきた。
「もう少しで終わるわ。その後で押入れを片付けて、掃除機をかけて、台所も掃除して……今日中に終わるかしら」
「大変だね」
 まるで人ごとのよう。小さな不満を顔に出せば、ちーちゃんが慌てた様子で部屋に足を踏み入れた。広げたコートやスカートを踏まないよう、まるで猫のようにやって来て屈んだ。
「あたしもちゃんと手伝うって。それよりさ、これ終わったらあたしの衣替えも手伝ってくれない?」
 ちーちゃんが甘えるように小首をかしげている。
「自分の洋服は自分でやる。今朝約束したばかりじゃないの」
「洋服が多過ぎるよ。多分だけどさ、知らない間に繁殖してるよ。はる姉のヘアピンと一緒だね」
 髪を留めているコスモスをかたどったヘアピンに、ちーちゃんが軽く触れた。
「何言っているの。ちーちゃんと一緒にしないでちょうだい?」
「一緒だって」
 ちーちゃんの謎理論にも慣れて「後で手伝うから」と肩をすくませた。返ってきたのは嬉しそうな顔と踵を返した背中。忙しいけれど時間を見付けて手伝わないと、一生終わる気がしない。
 そんな決意がちーちゃんにも伝わったのか、それからは穏やかに時間が流れた。
 秋風にカーテンが揺れ、過ごしやすい気温の中で半袖と長袖を入れ替える。静かな環境で集中できたおかげか、それから三十分ほどで洋服の入れ替えは済んだ。
 単純作業とはいえ、その中で忘れていた私を見付けられた。どうやらゆったりとした洋服を好んで着ていたらしい。
 収納ボックスに眠っていたニットワンピースにコート。ひょっとすると自分の体形を気にしていたのだろうか。太っているとは思えないけれど、理想がものすごく高かったりして。
 一旦、疲れをため息に乗せて吐き出した。後は衣装ケースを仕舞って掃除機をかけてこの部屋は終わり。お隣が本番みたいなところはあるけれど、二人いればどうにかなるだろう。
 畳に手を突いて立ち上がる。開けっ放しの押入れに衣装ケースを……何だろうあれ。押入れの下段、元々衣装ケースがあった奥に、段ボールが佇んでいる。
 ひょっとしてあの中身も洋服だろうか。面倒くさがる前に段ボールを引っ張ってみるもかなりの重量。これは敵わないと声を張った。
「ちーちゃんっ」
「はいはいはい!」助けを呼ぶ声が怒声に聞こえたのか、ちーちゃんはすぐに飛んできた。片手にスマホ、もう片方にポテトチップスの袋を抱えている。珍しく静かにしていると思ったら、ただ飽きただけ。期待した私が悪いけれど、少しは夢を見せてほしかった。
「これから本気出そうと思ってたの。待って、怒らないで」
「手伝ってほしくて呼んだのよ」
「なんだ、慌てて損した。それでどうしたの?」
「あの段ボールを出したいの。手伝ってくれない?」
 立ち上がって押入れの奥を指さす。ちーちゃんが座卓にスマホとポテトチップスの袋を置いて、押入れに潜り込んだ。
「ちょっと待ってね。すぐ出すから」
 協力するはずが、ちーちゃんはいとも簡単に段ボールを出してくれた。ちーちゃんは意外と力持ち。こっそり心のメモに書き足した。
「他には何か手伝う?」
「ありがとう。もう大丈夫よ」
 畳に膝を突いて段ボールに触れた。見覚えのあるネット通販のロゴ以外には何も書かれていない。
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