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「ちーちゃんは何が入っているか知っている?」
振り返るように斜め後ろに視線を投げた。
「わかんない」
いつの間に手にしたのか、ちーちゃんの興味はスマホに移っていた。謎の宝箱だっていうのに興味が湧かないのだろうか。子どもっぽいけれど少し大人。心のメモにそう書き足した。
留めてあったガムテープを剥がせば、そこには電子機器らしきものがごろごろと乱雑に詰められていた。適当に手に取ってみるも、名前も用途も全くわからない。そもそも使えるのか、壊れているのかさえわからなかった。
「最近見ないと思ったら、そこに隠してたんだ」
ちーちゃんがしゃがんで箱の中を覗き込んだ。
「使いもしないのに集めてたの。はる姉はそういうのが好きって教えたの覚えてる?」
「聞いたような、聞いていないような」
「バイト代をほとんどつぎ込んでたんだよ? そのせいで一時期、夕ご飯がモヤシだけだったこともあったし」
「えっと、ごめんなさい」
ちーちゃんの遠くを見る目につい頭を下げた。
だけど腑に落ちないことがある。食費に手をかけてまで欲しかったものが目の前にあっても、心は揺れることなく落ち着いている。この心の静けさが不思議でならない。ちーちゃんを前にしても、愛を思い出せなかった私が言う資格はないのだろうけれど。
「うわ、これも買ってたんだ」
ちーちゃんが黒い長方形のものを取り出した。手のひらサイズのそれは全面がメッシュのようになっていて、まるでスピーカーのよう。憶測だけどいい推理だと思う。
「それってスピーカー?」
「ちょっと惜しい。プロジェクター兼スピーカーだってさ」
ちーちゃんがくるりと手首を回した。
長方形の一面にレンズが見えた。頭に浮かべたプロジェクターとは大きさも形も違う。こんなオシャレな芳香剤のような形はしていない。
「無線でスマホと繋げられるって、熱く教えてくれたじゃん」
首をかしげれば「だよね」とちーちゃんが寂しそうに笑った。それよりも目の前にある電子機器が気になって仕方がない。
「片付けたら手伝いに行くから、ちーちゃんも少しは頑張ってね。スマホばっかりしていたらお説教よ?」
ちーちゃんがやる気のない返事を残して部屋へ戻った。直後に隣室から聞こえる小さな笑い声。肩とため息を落としつつも、目の前の問題に向き直った。
「こんなに集めていたのね」
雑に詰められた趣味の塊を手に取る。記憶を失う前は相当好きで、ちーちゃんに熱く語るほどだった物たち。
それこそどう使うのか、どういった原理なのか、どう便利になるのかを調べて知識として頭に叩き込んだに違いない。それがどうして知識から抜け落ちたのだろう。
失ったのは記憶の部分で、知識ははっきりと覚えている。それは電子機器に対する知識も例外じゃない。だけど私はこのガラクタの山を知らない。名前も使い方もイメージすることさえできない。
私を形作っていたものが、すっぽりと抜け落ちたみたい。
ふと、花屋での出来事を思い出した。あの時も目に映った花の名前は半分もわからなかった。一生懸命覚えようと知識として頭に叩き込んだはずなのに。覚えていないから仕方が――。
「まさか」
もしもそんな知識が、最初からなかったとしたら。
記憶を失ってから半年間、小さな違和感に何度も触れてきた。自分の故郷、無意識に結おうとした髪、なくした好きへの情熱。その全てがまるで自分ではないような気がしていた。
それなら私は誰。ちーちゃんが教えてくれたプロフィールがうそだとしたら何が残るの。故郷も家族もなく、ちーちゃんという恋人に全てを任せて暮らしているだけの私は何なの。
「それも、悪くはないけど」
畳へと身を投げた。片付けの途中だったせいか、小さなほこりが宙を舞う。それを避ける気にもならず目を閉じた。
振り返るように斜め後ろに視線を投げた。
「わかんない」
いつの間に手にしたのか、ちーちゃんの興味はスマホに移っていた。謎の宝箱だっていうのに興味が湧かないのだろうか。子どもっぽいけれど少し大人。心のメモにそう書き足した。
留めてあったガムテープを剥がせば、そこには電子機器らしきものがごろごろと乱雑に詰められていた。適当に手に取ってみるも、名前も用途も全くわからない。そもそも使えるのか、壊れているのかさえわからなかった。
「最近見ないと思ったら、そこに隠してたんだ」
ちーちゃんがしゃがんで箱の中を覗き込んだ。
「使いもしないのに集めてたの。はる姉はそういうのが好きって教えたの覚えてる?」
「聞いたような、聞いていないような」
「バイト代をほとんどつぎ込んでたんだよ? そのせいで一時期、夕ご飯がモヤシだけだったこともあったし」
「えっと、ごめんなさい」
ちーちゃんの遠くを見る目につい頭を下げた。
だけど腑に落ちないことがある。食費に手をかけてまで欲しかったものが目の前にあっても、心は揺れることなく落ち着いている。この心の静けさが不思議でならない。ちーちゃんを前にしても、愛を思い出せなかった私が言う資格はないのだろうけれど。
「うわ、これも買ってたんだ」
ちーちゃんが黒い長方形のものを取り出した。手のひらサイズのそれは全面がメッシュのようになっていて、まるでスピーカーのよう。憶測だけどいい推理だと思う。
「それってスピーカー?」
「ちょっと惜しい。プロジェクター兼スピーカーだってさ」
ちーちゃんがくるりと手首を回した。
長方形の一面にレンズが見えた。頭に浮かべたプロジェクターとは大きさも形も違う。こんなオシャレな芳香剤のような形はしていない。
「無線でスマホと繋げられるって、熱く教えてくれたじゃん」
首をかしげれば「だよね」とちーちゃんが寂しそうに笑った。それよりも目の前にある電子機器が気になって仕方がない。
「片付けたら手伝いに行くから、ちーちゃんも少しは頑張ってね。スマホばっかりしていたらお説教よ?」
ちーちゃんがやる気のない返事を残して部屋へ戻った。直後に隣室から聞こえる小さな笑い声。肩とため息を落としつつも、目の前の問題に向き直った。
「こんなに集めていたのね」
雑に詰められた趣味の塊を手に取る。記憶を失う前は相当好きで、ちーちゃんに熱く語るほどだった物たち。
それこそどう使うのか、どういった原理なのか、どう便利になるのかを調べて知識として頭に叩き込んだに違いない。それがどうして知識から抜け落ちたのだろう。
失ったのは記憶の部分で、知識ははっきりと覚えている。それは電子機器に対する知識も例外じゃない。だけど私はこのガラクタの山を知らない。名前も使い方もイメージすることさえできない。
私を形作っていたものが、すっぽりと抜け落ちたみたい。
ふと、花屋での出来事を思い出した。あの時も目に映った花の名前は半分もわからなかった。一生懸命覚えようと知識として頭に叩き込んだはずなのに。覚えていないから仕方が――。
「まさか」
もしもそんな知識が、最初からなかったとしたら。
記憶を失ってから半年間、小さな違和感に何度も触れてきた。自分の故郷、無意識に結おうとした髪、なくした好きへの情熱。その全てがまるで自分ではないような気がしていた。
それなら私は誰。ちーちゃんが教えてくれたプロフィールがうそだとしたら何が残るの。故郷も家族もなく、ちーちゃんという恋人に全てを任せて暮らしているだけの私は何なの。
「それも、悪くはないけど」
畳へと身を投げた。片付けの途中だったせいか、小さなほこりが宙を舞う。それを避ける気にもならず目を閉じた。
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