28 / 97
-3-
28
しおりを挟む
正月の賑やかさはすぐに去る。二週間もたてば新年ムードも冷め、待っていたのは何も変わらない日々だった。
ちーちゃんは大学に行き、私はアパートで受験勉強。平穏な日々かと思ったけれど、すっかり忘れていたイベントがちーちゃんの一言によって現れた。
「はる姉の誕生日どうしよっか」
部屋の入り口に立つちーちゃん。参考書から顔を上げて視線を移した。
胸元に牛のイラストが描かれた、パーカーとショートパンツ。見慣れたラフな格好でもすぐに言葉を返せなかった。
「もしかして誕生日を忘れてたの? あんなに何回も教えたのに?」
あんぐり開いた口と見開かれた目。気まずくなって顔をそらす。そういえば聞いたような気がする。何日だったか……あ。
座卓に置かれたミニカレンダーを手に取る。三日後の十八日に、赤字で誕生日と大きく記入されていた。そうだ、一月十八日だ。
「十八日よね。特に予定はないけど、どうしようかしら」
ミニカレンダーを戻そうとして、ふと気が付いた。そういえばちーちゃんの誕生日を祝っていない。
「私の誕生日もだけれど、ちーちゃんの誕生日もお祝いしないと」
「あたしのはいいよ」
ちーちゃんを見上げれば、ふるふると首を振っている。
「いいわけないでしょう。ちゃんと祝わないと」
「去年の五月のことを今更お祝いされてもね。次の誕生日に二倍お祝いしてくれればいいからさ」
気を遣って言っているのではなく、恐らく本心なのだろう。私の誕生日を祝うことに集中したい。だから自分の誕生日も真剣によろしくね、と。
「ちーちゃんがそう言うのなら。それで、どうしようかしら」
「どうしようってお祝いしないと」
ちーちゃんが腰を下ろしてあぐらをかいた。
「うちでお祝いしてもいいし、どこかに食べに行ってもいいし。あんまり遅くまで出られないけど」
せっかくなら外で、と少し前なら即答していた。しかし元旦に意識を失いかけてからは、外出するのが億劫になっている。そんな私にちーちゃんの気遣いはありがたかった。
「うちでお願い。そうそう、誕生日ケーキも手作りしましょうか。ちーちゃんはどんなケーキがいい?」
「それはこっちのせりふ。誕生日にはあたしがケーキ作ってあげる」
誇らしそうに胸を張るちーちゃん。しかし不安が胸に募りだした。
「ちーちゃんが作るの?」
「うん。苦手だけど頑張ってみたいの。ケーキ以外にもね、ローストビーフとかチキンとかいろいろ作る予定だよ」
ちーちゃんが指を折って数える。誕生日とクリスマスがごっちゃになっているような気がするけれど、祝ってくれるのなら文句は言えない。それに苦手な料理に立ち向かうのなら応援してあげたい。
「作り方は大丈夫?」
「もう、ばかにしないでよ。それぐらいあたしにもわかるって」
「それじゃあローストビーフの作り方は?」
「スーパーのお惣菜で買ってきたものを切ってサラダの上に乗せる」
ぴんと立った人さし指がなぜか誇らしそう。
「えっと、チキンは?」
「お店で買ってくる」
「ケーキは?」
「なんか小麦粉とか砂糖とかいろいろ混ぜて作る」
思わず両手で顔を覆った。そのまま背中から畳に倒れ込む。これは、作り方を聞いた私が悪いのだろうか。
「急に横になってどうしたの?」
苦悶とおかしさに満ちた表情をかみ殺した。表情を変えずに体を起こす。ちーちゃんは不思議そうにこちらを見ている。
どうやら悪意はないようで至って真剣らしい。それならこちらも真面目に手伝わないと。
「手伝うから一緒に、ね?」
「えー?」
ちーちゃんが不満そうに声を上げた。
「はる姉の誕生日を祝うのに、手伝ってもらったら意味ないじゃん」
「その気持ちだけで十分よ。失敗しないよう一緒にやりましょう?」
ちーちゃんに先ほどまでの勢いはない。どうやら自分の中で納得できる理由を探しているらしい。
「はる姉がそこまで言うなら、一緒に作ってもいいよ?」
「ええ。ありがとう」
「手伝うだけだからね。あたしがメインでやって、はる姉は教えるだけ」
穂を膨らませる必死な姿を抱きしめたい。そんな欲望を理性で抑え込み、掛け時計に目をやると十四時になったばかりだった。
材料を買いに行ってすぐに戻り、予行演習としてカップケーキを作っておやつにする。我ながら完璧な予定に口元を綻ばせた。
「それじゃあ早速、買い物に行きましょうか」
「今から? 当日じゃなくて?」
ちーちゃんは大学に行き、私はアパートで受験勉強。平穏な日々かと思ったけれど、すっかり忘れていたイベントがちーちゃんの一言によって現れた。
「はる姉の誕生日どうしよっか」
部屋の入り口に立つちーちゃん。参考書から顔を上げて視線を移した。
胸元に牛のイラストが描かれた、パーカーとショートパンツ。見慣れたラフな格好でもすぐに言葉を返せなかった。
「もしかして誕生日を忘れてたの? あんなに何回も教えたのに?」
あんぐり開いた口と見開かれた目。気まずくなって顔をそらす。そういえば聞いたような気がする。何日だったか……あ。
座卓に置かれたミニカレンダーを手に取る。三日後の十八日に、赤字で誕生日と大きく記入されていた。そうだ、一月十八日だ。
「十八日よね。特に予定はないけど、どうしようかしら」
ミニカレンダーを戻そうとして、ふと気が付いた。そういえばちーちゃんの誕生日を祝っていない。
「私の誕生日もだけれど、ちーちゃんの誕生日もお祝いしないと」
「あたしのはいいよ」
ちーちゃんを見上げれば、ふるふると首を振っている。
「いいわけないでしょう。ちゃんと祝わないと」
「去年の五月のことを今更お祝いされてもね。次の誕生日に二倍お祝いしてくれればいいからさ」
気を遣って言っているのではなく、恐らく本心なのだろう。私の誕生日を祝うことに集中したい。だから自分の誕生日も真剣によろしくね、と。
「ちーちゃんがそう言うのなら。それで、どうしようかしら」
「どうしようってお祝いしないと」
ちーちゃんが腰を下ろしてあぐらをかいた。
「うちでお祝いしてもいいし、どこかに食べに行ってもいいし。あんまり遅くまで出られないけど」
せっかくなら外で、と少し前なら即答していた。しかし元旦に意識を失いかけてからは、外出するのが億劫になっている。そんな私にちーちゃんの気遣いはありがたかった。
「うちでお願い。そうそう、誕生日ケーキも手作りしましょうか。ちーちゃんはどんなケーキがいい?」
「それはこっちのせりふ。誕生日にはあたしがケーキ作ってあげる」
誇らしそうに胸を張るちーちゃん。しかし不安が胸に募りだした。
「ちーちゃんが作るの?」
「うん。苦手だけど頑張ってみたいの。ケーキ以外にもね、ローストビーフとかチキンとかいろいろ作る予定だよ」
ちーちゃんが指を折って数える。誕生日とクリスマスがごっちゃになっているような気がするけれど、祝ってくれるのなら文句は言えない。それに苦手な料理に立ち向かうのなら応援してあげたい。
「作り方は大丈夫?」
「もう、ばかにしないでよ。それぐらいあたしにもわかるって」
「それじゃあローストビーフの作り方は?」
「スーパーのお惣菜で買ってきたものを切ってサラダの上に乗せる」
ぴんと立った人さし指がなぜか誇らしそう。
「えっと、チキンは?」
「お店で買ってくる」
「ケーキは?」
「なんか小麦粉とか砂糖とかいろいろ混ぜて作る」
思わず両手で顔を覆った。そのまま背中から畳に倒れ込む。これは、作り方を聞いた私が悪いのだろうか。
「急に横になってどうしたの?」
苦悶とおかしさに満ちた表情をかみ殺した。表情を変えずに体を起こす。ちーちゃんは不思議そうにこちらを見ている。
どうやら悪意はないようで至って真剣らしい。それならこちらも真面目に手伝わないと。
「手伝うから一緒に、ね?」
「えー?」
ちーちゃんが不満そうに声を上げた。
「はる姉の誕生日を祝うのに、手伝ってもらったら意味ないじゃん」
「その気持ちだけで十分よ。失敗しないよう一緒にやりましょう?」
ちーちゃんに先ほどまでの勢いはない。どうやら自分の中で納得できる理由を探しているらしい。
「はる姉がそこまで言うなら、一緒に作ってもいいよ?」
「ええ。ありがとう」
「手伝うだけだからね。あたしがメインでやって、はる姉は教えるだけ」
穂を膨らませる必死な姿を抱きしめたい。そんな欲望を理性で抑え込み、掛け時計に目をやると十四時になったばかりだった。
材料を買いに行ってすぐに戻り、予行演習としてカップケーキを作っておやつにする。我ながら完璧な予定に口元を綻ばせた。
「それじゃあ早速、買い物に行きましょうか」
「今から? 当日じゃなくて?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる