ホムンクルス

ふみ

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 ちーちゃんを追って部屋にたどり着いたなんて真っ赤なうそ。初めからここだとわかっていたんだ。
 それに鍵の掛かったドアを開けられたのも、合鍵を持っていたから。あの夜は遥が来たことに驚いて何とも思わなかったけれど、そういうことだったんだ。
「それから一緒に、監視カメラも設置したんだ」
 監視カメラ? 今日何度目かの思考停止。頭の中で噛み砕いていると千夏が腰を上げた。
 本棚の前で立ち止まり、触れることを許さなかったウサギのぬいぐるみを手にした。触るなと言われ、何の疑問も抱かなかったけれど、まさか。
「ほら」
 千夏が膝を曲げ、ちゃぶ台にぬいぐるみを置いた。まじまじと観察していると、千夏がぬいぐるみを裏返し、背中にあるジッパーを下ろした。
 そこからかわいいとは真逆の位置にある、黒い小型カメラが顔を覗かせた。キラリと光るレンズから顔をそらすと、千夏がぬいぐるみごとゴミ箱へ放り投げた。
「全部の部屋にあって、はる姉のスマホから簡単に確認できたんだよ。それに、スマホに仕掛けた追跡アプリも」
「それじゃああのアプリは、遥がやったの?」
「うん。さっき電話がきていたでしょ? 叶ちゃんがあたしの部屋に来たから慌ててかけたんだと思う」
「それってつまり、千夏と遥がレストランで会っていた時も、すぐ近くに私がいることを知っていたの?」
「あたしは何も聞いてないけど、横取りするいい頃合いだと思ったんじゃないかな」
 いくら遥が電化製品に強くても……いや、ありえる。疑問と一緒に目の前に浮かんだのは、遥が強引に迫ってきたあの夜の出来事だった。目的を果たすためなら何だってする姿勢。大和撫子とはかけ離れたまなざし。
 それらを思い出せば真実味は増す。けれど決定的な証拠はいまだにない。それさえあれば千夏を信じて――違う。
 私は恐れているんだ。千夏から救ってくれた遥にも騙されたとなれば、誰も信じられなくなることを。
「はる姉が来る前に必要なことは全部話すし、叶ちゃんが聞きたいことは全部教えるよ。ひょっとしたら、殺されちゃうかもしれないから」
 疲労で痺れる頭を必死に回転させる。それでもその裏にあるものや比喩暗喩、千夏が言おうとしていることは全くわからなかった。
 疑っているのなら吹きだして笑えばいい。大げさだと千夏の背中を叩いてみればいい。そう頭に浮かぶも、千夏の表情や佇まいがあまりにも真実味を帯びて、下手に動けなかった。
「殺されるって、何?」
「殺されちゃうの。昔みたいに」
「昔?」
 驚きのあまり声が裏返った。
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