ホムンクルス

ふみ

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「絶対だよ? 叶ちゃんといるのが、あたしの一番の幸せだから」
 ド直球な告白に面食らっていると「それじゃあ先にお風呂入っちゃうね」と千夏が顔を隠しながら行ってしまった。恥ずかしがるのなら言わなければいいのに。
 だけど千夏の勇気にようやく覚悟を決められた。着信履歴から遥にかけると、呼出音はすぐに消えた。
「遥?」
 ――か、叶? うそ、信じられない、良かった。
 遥の声が裏返っている。その慌てようと声色からは、凶暴さは感じ取れない。
 ――連絡くれてありがとう。二人にどうしても謝りたかったの。
「それは、うん。そっか」
 あれは夢だったのかと疑ってしまいそう。これも遥の作戦のうちなのか、本当に反省しているのかわからない。どちらかというと、後者に傾きつつあるけれど。
 ――許してくれるのなら何だってするわ。何をされたって受け入れる。土下座でも慰謝料でも何でもいい。私に罪を償わせて。
「その気持ちは嬉しいんだけど、さ」
 本当に反省しているの? そう口にしようとして、ためらった。
 ――反省しているのかってこと?
「まあ、うん」
 言い当てられ口籠る。
「遥から連絡が来たって千夏に伝えたんだけど、会いたくないからって断られちゃった。また何かされたら大変だって」
 ――警戒するのは無理もないわ。だけどお願い。最後のチャンスを与えてほしいの。もう二度とあんなことはしないって誓うから、どうか、どうかお願いします。
 弱々しい声色に胸が騒ぎ始める。遥の歪な笑みと豹変した口調が脳裏をよぎった。
 騙されるな、どうせ演技よ。そんなことない、きっと反省した。信じたい自分と冷酷な自分のせめぎ合いに、つい口を閉ざした。
 ――ねえ、叶。
「うん」
 ――死ねって言われたら、私、死ぬから。
 全身に稲妻が走ったようだった。目の前が一瞬だけ揺れて、夏場のような熱が体中に飛び火した。
「何を言ってるの?」
 ――それだけのことをしたんだもの。それに何だってするって言ったじゃない。
「だとしても……幼なじみに戻りたいって言ってたじゃん。死んだら元も子もないよ」
 ――このまま生きていても仕方ないもの。二人には迷惑掛けずに、誰も知らない所で死ぬ。私なんか忘れてちーちゃんと幸せにね。
「待って待って! わかった、わかったから」
 声のボリュームを下げて口元に手を置いた。
「遥のうちで話を聞くから、そう簡単に死ぬとか言わないで」
 ――本当に来てくれるの? 約束よ?
「約束する。一応、条件があるんだけど」
 落ち着きを取り戻した遥に条件を伝えると快諾してくれた。電話を切った後で、どっと押し寄せた疲れに打ちのめされ、その場で寝転んだ。
 スマホの電源を切っておけば良かった。そうすればこんな面倒なことに……いや、遥が死ぬと言わなくても、私はきっと許していただろう。
 千夏を罵倒されたことは根に持っている。だけどあの時ほどの熱はとっくの昔に消えた。
 できるのなら遥を救ってあげたい。できるのなら以前のような幼なじみに戻りたい。心の奥にそういった優しさが芽生えてしまっていた。
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