10 / 58
ナンシー、昔はローザ
しおりを挟む
急がなければ、お嬢様が処刑されてしまう!
「私がお側に居れば!」と何度思った事でしょう。
5年もお嬢様にお仕えしていました。一月前に私が王妃の陰謀により王宮から強制退去させられ、お嬢様はさぞや心細かったに違いありません。
申し遅れましたが、私はビュイック侯爵家にお仕えしておりました侍女、ローザ=ハーディングと申します。
子爵家の5女として生まれ、ビュイック侯爵家に行儀見習いとしての侍女としてお仕えしておりました。
そしてお嬢様との出会いは、侍女となった翌年の事でした。
「この度、聖女と認められた娘を当家の養女とした。平民の出ではあるが行く行くは王妃殿下となられるお方だ」
何時になく興奮気味な旦那様が全使用人の前で高らかにお告げになられました。
「だがまだ11歳だ。ローザ、侍女の中でお前が最も歳が近い。お前を専属の侍女とする!」
旦那様からの突然のお達しでした。
○▲△
「侯爵家の養女? ケッ、平民の出じゃない!」
日頃から横柄な態度の先輩のカーマがいつも通りに悪態をついていましたが、彼女に引っ張られる形で私もそう思う様になってしまいました。
思えばこのカーマに出会う前までは、貴族だ平民だと私は気にしていなかったと思います。
が、朱に交われば赤くなる。気が付いたらいつの間にか私も平民を見下すようになっていました。
とは言え旦那様のご命令ですから、従う他はございません。準備だけは進めておきます。
そうこうしている内にその日を迎える事になりました。
「旦那様のお戻りである!」
その日は特別な日でした。
旦那様が遂に『お嬢様』をお屋敷にお連れになられたのです。
全員が揃ってのお出迎えとの通達がございましたので従うべく整列しますと、お出迎えは使用人だけではございませんでした。
奥様に若様も『お嬢様』をお迎えるするべくお屋敷の外にまで出て来られました。
旦那様を乗せた馬車が停まりますと、旦那様にエスコートされて馬車から姿を現した天使の如き美少女こそ『お嬢様』でした。
まだ11歳だとか。年齢の割にはしっかりしていますが、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
肩まで伸びた亜麻色の髪が可憐で、風にサラサラッとしていようと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
アクアマリンの様な淡く青い瞳がクリッと可愛らしくても、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
「ようこそ、スカーレット。貴女の母になるバーバラよ」
そこにいらっしゃるだけで気品が漂う奥様が何時になくお優しくご挨拶をされました。
「ようこそスカーレット。兄になるジョージだ。よろしく」
いつも凛々しい若様、誰にでも分け隔てない優しい態度はご立派で頼もしいです。侯爵家は安泰ですね。
これで『お嬢様』のお出迎えの儀式が終わろうとした時でした。
「お待ち下さい!」
昼寝をして寝過ごした先輩侍女のカーマがようやく姿を現せました。
「ちょっとローザ、任せていた仕事が全部中途半端じゃない。晩餐に間に合わないから私が1人でやっていたら、お嬢様のお出迎えに遅れてしまったわ!」
いえ、あなたは仕事など全くせずに、いくら起こしても昼寝から起きませんでした。
それにまず遅れを謝るのではなく、私に罪をなすり付けての言い訳ですか。
「いえ、私など構いません。皆さんお忙しいでしょうから、お仕事を優先して下さい」
初めて『お嬢様』のお声を聞きました。
天使かと思いたくなる様な澄み切った美しいお声であろうと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
「まあいい。時は戻らん。以後、気を付ける様に」
お優しい旦那様の一言でその場は収まりました。
「スカーレット、そこに居るローザがお前専属の侍女だ」
「そんな、私如きに専属の侍女だなんて!」
1歩後退りながら恐縮される『お嬢様』!
自然に出て来るその一つ一つの仕草が可愛らしかろうと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
「スカーレット、お前はもう侯爵家の娘なのだ。専属侍女くらいは付けなければ」
「畏まりましたお父様。ローザさん、これからどうぞよろしくお願いします」
どんなに挨拶、そしてその後の微笑みが可愛らしかろうと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
あぁぁぁっ! もうお嬢様、可愛いじゃないですか!
心に壁を作っていた事が馬鹿らしくなってしまいました!
「私がお側に居れば!」と何度思った事でしょう。
5年もお嬢様にお仕えしていました。一月前に私が王妃の陰謀により王宮から強制退去させられ、お嬢様はさぞや心細かったに違いありません。
申し遅れましたが、私はビュイック侯爵家にお仕えしておりました侍女、ローザ=ハーディングと申します。
子爵家の5女として生まれ、ビュイック侯爵家に行儀見習いとしての侍女としてお仕えしておりました。
そしてお嬢様との出会いは、侍女となった翌年の事でした。
「この度、聖女と認められた娘を当家の養女とした。平民の出ではあるが行く行くは王妃殿下となられるお方だ」
何時になく興奮気味な旦那様が全使用人の前で高らかにお告げになられました。
「だがまだ11歳だ。ローザ、侍女の中でお前が最も歳が近い。お前を専属の侍女とする!」
旦那様からの突然のお達しでした。
○▲△
「侯爵家の養女? ケッ、平民の出じゃない!」
日頃から横柄な態度の先輩のカーマがいつも通りに悪態をついていましたが、彼女に引っ張られる形で私もそう思う様になってしまいました。
思えばこのカーマに出会う前までは、貴族だ平民だと私は気にしていなかったと思います。
が、朱に交われば赤くなる。気が付いたらいつの間にか私も平民を見下すようになっていました。
とは言え旦那様のご命令ですから、従う他はございません。準備だけは進めておきます。
そうこうしている内にその日を迎える事になりました。
「旦那様のお戻りである!」
その日は特別な日でした。
旦那様が遂に『お嬢様』をお屋敷にお連れになられたのです。
全員が揃ってのお出迎えとの通達がございましたので従うべく整列しますと、お出迎えは使用人だけではございませんでした。
奥様に若様も『お嬢様』をお迎えるするべくお屋敷の外にまで出て来られました。
旦那様を乗せた馬車が停まりますと、旦那様にエスコートされて馬車から姿を現した天使の如き美少女こそ『お嬢様』でした。
まだ11歳だとか。年齢の割にはしっかりしていますが、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
肩まで伸びた亜麻色の髪が可憐で、風にサラサラッとしていようと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
アクアマリンの様な淡く青い瞳がクリッと可愛らしくても、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
「ようこそ、スカーレット。貴女の母になるバーバラよ」
そこにいらっしゃるだけで気品が漂う奥様が何時になくお優しくご挨拶をされました。
「ようこそスカーレット。兄になるジョージだ。よろしく」
いつも凛々しい若様、誰にでも分け隔てない優しい態度はご立派で頼もしいです。侯爵家は安泰ですね。
これで『お嬢様』のお出迎えの儀式が終わろうとした時でした。
「お待ち下さい!」
昼寝をして寝過ごした先輩侍女のカーマがようやく姿を現せました。
「ちょっとローザ、任せていた仕事が全部中途半端じゃない。晩餐に間に合わないから私が1人でやっていたら、お嬢様のお出迎えに遅れてしまったわ!」
いえ、あなたは仕事など全くせずに、いくら起こしても昼寝から起きませんでした。
それにまず遅れを謝るのではなく、私に罪をなすり付けての言い訳ですか。
「いえ、私など構いません。皆さんお忙しいでしょうから、お仕事を優先して下さい」
初めて『お嬢様』のお声を聞きました。
天使かと思いたくなる様な澄み切った美しいお声であろうと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
「まあいい。時は戻らん。以後、気を付ける様に」
お優しい旦那様の一言でその場は収まりました。
「スカーレット、そこに居るローザがお前専属の侍女だ」
「そんな、私如きに専属の侍女だなんて!」
1歩後退りながら恐縮される『お嬢様』!
自然に出て来るその一つ一つの仕草が可愛らしかろうと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
「スカーレット、お前はもう侯爵家の娘なのだ。専属侍女くらいは付けなければ」
「畏まりましたお父様。ローザさん、これからどうぞよろしくお願いします」
どんなに挨拶、そしてその後の微笑みが可愛らしかろうと、こんな平民の出の娘に私が仕えるのですか?
あぁぁぁっ! もうお嬢様、可愛いじゃないですか!
心に壁を作っていた事が馬鹿らしくなってしまいました!
1
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる