12 / 58
ローザ、カーマと和解する
しおりを挟む
カーマはお嬢様に悪態ついていた侍女。
それ以外にも侍女には相応しくない態度を取り続けていた事で侯爵家を解雇される事になりました。
それを実家に連絡される事が余程嫌でしたのね。自分で蒔いた種なのに。
正直に言うと私は何も感じませんでした。彼女の処遇については旦那様が断を下されたし、冷たいようですけれども、彼女に対して思う事は特には何もございませんでした。
明日にはお屋敷を追われる人間です。旦那様のご不許を買った彼女が、吹けば飛ぶ様な男爵の実家でどう扱われるのか想像に難しくはありません。将来を悲観しての自害でしょう。
でも自害をするのならお屋敷の外でして欲しい。こちらの迷惑も考えてもらいたかったものです。
「ローザ、案内して!」
「お嬢様、どうされるのですか?」
「まだ今なら何とかなるかも。早く!」
私とてお嬢様のお考えは理解出来るつもりです。きっと聖女の能力を持つ身として彼女を蘇生なされるおつもりなのでしょう。
彼女を知る者としては、余計な事をしてくれるな、とも思います。それに第一、お嬢様にわざわざ彼女の遺体などお見せする訳には。ここは意見させて頂きます。
「お嬢様、お止め下さい!」
「何を言っているの、人の命がかかっているのよ!」
その気迫に押されてしまいました。お嬢様のお立場でしたら、悪態をついたこのカーマを放置しても後ろ指さされる筋合いも無い筈ですのに。
これが聖女様ですのね。ご自身に対して何一つ利益にならないこんな女の為に!
「こちらです!」
気が付けば走り出しておりました。
◯▲△
「カーマ!」
カーマはお嬢様と私が到着した時には意識は無く、青い顔をしてぐったりしていました。服毒自殺の様ですね。
「お嬢様、いけません」
使用人一同でお嬢様がカーマに近付く事を阻止しようと必死です。
皆思う事は一緒で、まだ少女であるお嬢様にカーマの遺体など見せたくないのだと思います。
「どいて!」
ですがそんな事で止まるお嬢様ではございません。
お嬢様の気迫の前に身動き取れなくなった使用人達を掻い潜りカーマの遺体へと駆け寄リます。
「まだ生きているわ!」
「いえ、確かに息はもう…」
「でも感じるの、生命の息吹を!」
執事らにそう言い放つとお嬢様はカーマに手を当てて目を閉じ、神経を集中している様です。
するとどうでしょう! お嬢様の御身体が光に包まれ、カーマの顔色が見る見る間に良くなって行くではありませんか!
「うっ、ぅぅ」
確かに死んだ筈のカーマが息を吹き返した瞬間でした!
「カーマ!」
お嬢様が優しく呼び掛けるとカーマの意識が戻って来た様です。
「カーマ良かったなぁ!」
「お嬢様がお救い下さったのよ!」
「お嬢様?」
使用人達の呼び掛けにも、まだ意識は混濁している様子。
「!」
でも直ぐに我に返った様だ。ハッとなったかと思えば、人目も憚らずに泣き出した。
「どうして死なせてくれなかったのですか? 実家に戻ったって…」
「カーマ……」
パチーン!
乾いた音が響きました。お嬢様が優しくお声を掛けた後になんと、カーマの頬に平手打ちしました。
「これでおあいこ。私に対する無礼は不問とします」
「お、お嬢様?」
頬を手で押さえるカーマは目を白黒させて何が起こったのか理解出来ていない様子でした。
「いい、さっきまでのカーマはもう死んだの! 自ら命を断つなんて行動力が有るのなら、それはもっと前向きに使うべきだと思うの!」
「前向き?」
「そう。カーマ、貴女は何の為に生まれて来たの? 仕事を怠けて昼寝して、後輩をイビって私に悪態をついて、クビになり、実家で虐げられて意図しない結婚をさせられる。相手は便宜上正妻には貴族の娘なら誰でも良い商人かしら。それとも人生も終盤を迎えた貴族か金持ちの老人との結婚とは名ばかりの介護。その内に僅かなお金を掴まされて捨てられて寂しい老後を送る。そんな人生を歩むカーマは死んだの!」
「うぅっ、ぅぅ」
「1度死んだつもりでやり直そう。ね、カーマ」
泣き崩れるカーマにそっと寄り添うお嬢様は幼いながらもまさに聖女様!
「お嬢様、申し訳ありませんでした」
カーマが嗚咽しながらようやくお嬢様に謝罪した。まぁでもこれで一件落着です!
「お嬢様、お嬢様に終生の忠誠を誓います」
こう言ったのはカーマでした!
「ちょっと、あなたはお暇を出された筈でしょ!」
「良いじゃない。言った者勝ちよ!」
結局カーマは許され、私と2人で競う様にお嬢様にお仕えしましたが、年齢も年齢だったカーマは暫くして旦那様所縁の騎士に嫁いで行きました。
お屋敷を去る日にはお嬢様の前で大泣きしていましたっけ。
○▲△
お嬢様が王宮に上がる際に1人だけ連れて行ける侍女はもちろん私しか居りません。
その私が王妃の陰謀により王宮からの退去を命じられての今回の断罪。お嬢様の処刑など執行させてなるものですか!
「お嬢様、我がハーディング家は国1番の武門の家と自負しております! 私も幼い頃より一通りの事は叩き込まれております。すぐに参ります、お嬢様!」
私は単身、ひたすら王都に向かって馬を走らせた。
それ以外にも侍女には相応しくない態度を取り続けていた事で侯爵家を解雇される事になりました。
それを実家に連絡される事が余程嫌でしたのね。自分で蒔いた種なのに。
正直に言うと私は何も感じませんでした。彼女の処遇については旦那様が断を下されたし、冷たいようですけれども、彼女に対して思う事は特には何もございませんでした。
明日にはお屋敷を追われる人間です。旦那様のご不許を買った彼女が、吹けば飛ぶ様な男爵の実家でどう扱われるのか想像に難しくはありません。将来を悲観しての自害でしょう。
でも自害をするのならお屋敷の外でして欲しい。こちらの迷惑も考えてもらいたかったものです。
「ローザ、案内して!」
「お嬢様、どうされるのですか?」
「まだ今なら何とかなるかも。早く!」
私とてお嬢様のお考えは理解出来るつもりです。きっと聖女の能力を持つ身として彼女を蘇生なされるおつもりなのでしょう。
彼女を知る者としては、余計な事をしてくれるな、とも思います。それに第一、お嬢様にわざわざ彼女の遺体などお見せする訳には。ここは意見させて頂きます。
「お嬢様、お止め下さい!」
「何を言っているの、人の命がかかっているのよ!」
その気迫に押されてしまいました。お嬢様のお立場でしたら、悪態をついたこのカーマを放置しても後ろ指さされる筋合いも無い筈ですのに。
これが聖女様ですのね。ご自身に対して何一つ利益にならないこんな女の為に!
「こちらです!」
気が付けば走り出しておりました。
◯▲△
「カーマ!」
カーマはお嬢様と私が到着した時には意識は無く、青い顔をしてぐったりしていました。服毒自殺の様ですね。
「お嬢様、いけません」
使用人一同でお嬢様がカーマに近付く事を阻止しようと必死です。
皆思う事は一緒で、まだ少女であるお嬢様にカーマの遺体など見せたくないのだと思います。
「どいて!」
ですがそんな事で止まるお嬢様ではございません。
お嬢様の気迫の前に身動き取れなくなった使用人達を掻い潜りカーマの遺体へと駆け寄リます。
「まだ生きているわ!」
「いえ、確かに息はもう…」
「でも感じるの、生命の息吹を!」
執事らにそう言い放つとお嬢様はカーマに手を当てて目を閉じ、神経を集中している様です。
するとどうでしょう! お嬢様の御身体が光に包まれ、カーマの顔色が見る見る間に良くなって行くではありませんか!
「うっ、ぅぅ」
確かに死んだ筈のカーマが息を吹き返した瞬間でした!
「カーマ!」
お嬢様が優しく呼び掛けるとカーマの意識が戻って来た様です。
「カーマ良かったなぁ!」
「お嬢様がお救い下さったのよ!」
「お嬢様?」
使用人達の呼び掛けにも、まだ意識は混濁している様子。
「!」
でも直ぐに我に返った様だ。ハッとなったかと思えば、人目も憚らずに泣き出した。
「どうして死なせてくれなかったのですか? 実家に戻ったって…」
「カーマ……」
パチーン!
乾いた音が響きました。お嬢様が優しくお声を掛けた後になんと、カーマの頬に平手打ちしました。
「これでおあいこ。私に対する無礼は不問とします」
「お、お嬢様?」
頬を手で押さえるカーマは目を白黒させて何が起こったのか理解出来ていない様子でした。
「いい、さっきまでのカーマはもう死んだの! 自ら命を断つなんて行動力が有るのなら、それはもっと前向きに使うべきだと思うの!」
「前向き?」
「そう。カーマ、貴女は何の為に生まれて来たの? 仕事を怠けて昼寝して、後輩をイビって私に悪態をついて、クビになり、実家で虐げられて意図しない結婚をさせられる。相手は便宜上正妻には貴族の娘なら誰でも良い商人かしら。それとも人生も終盤を迎えた貴族か金持ちの老人との結婚とは名ばかりの介護。その内に僅かなお金を掴まされて捨てられて寂しい老後を送る。そんな人生を歩むカーマは死んだの!」
「うぅっ、ぅぅ」
「1度死んだつもりでやり直そう。ね、カーマ」
泣き崩れるカーマにそっと寄り添うお嬢様は幼いながらもまさに聖女様!
「お嬢様、申し訳ありませんでした」
カーマが嗚咽しながらようやくお嬢様に謝罪した。まぁでもこれで一件落着です!
「お嬢様、お嬢様に終生の忠誠を誓います」
こう言ったのはカーマでした!
「ちょっと、あなたはお暇を出された筈でしょ!」
「良いじゃない。言った者勝ちよ!」
結局カーマは許され、私と2人で競う様にお嬢様にお仕えしましたが、年齢も年齢だったカーマは暫くして旦那様所縁の騎士に嫁いで行きました。
お屋敷を去る日にはお嬢様の前で大泣きしていましたっけ。
○▲△
お嬢様が王宮に上がる際に1人だけ連れて行ける侍女はもちろん私しか居りません。
その私が王妃の陰謀により王宮からの退去を命じられての今回の断罪。お嬢様の処刑など執行させてなるものですか!
「お嬢様、我がハーディング家は国1番の武門の家と自負しております! 私も幼い頃より一通りの事は叩き込まれております。すぐに参ります、お嬢様!」
私は単身、ひたすら王都に向かって馬を走らせた。
1
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる