理由あり聖女の癒やしの湯 偽物認定されて処刑直前に逃げ出した聖女。隣国で温泉宿の若女将になる

でがらし3号

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ローザ、到着

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 王都に入るにはビュイック侯爵にお仕えする侍女としてではなく、実家であるハーディング子爵家の5女として入る事にしました。
 と申しますのも、王都に向かうに当たり旦那様にお暇を頂戴致しましたので。
 旦那様は私がお暇を願い出ますと、私の両手を取り目を潤ませてただ一言だけ仰られました。

「頼む」と。

 
○▲△


「子爵家のご令嬢がお一人で馬に乗られてですか?」

 王都の門番は私の身分証を見て訝しげな表情をしますが無理もございません。
 老若男女問わず、貴族でしたら王都に入る際には馬車に乗る事が一般的ですから。馬に跨がって王都に入る貴族の娘なんて私の他にいらっしゃるとは思えません。

「我がハーディング家の流儀に何か?」

「いえ。滅相もありません。お通り下さい」

 身分証は本物ですから、不機嫌にそう言ってやれば門番では貴族に逆らえません。馬を歩かせて王都の門を抜けるとそこからは再び馬には頑張ってもらいます。

「あっ、雨!」

 馬を走らせてすぐでした。
 大粒の雨、と思った次の瞬間には土砂降りとなりました。

「まさかこれは?」

 嫌な予感しかしません。
 王都市内はお嬢様のお供をして恵まれない方々への治癒で何度も回りました。私は雨宿りに走る人々を躱す為に速度を落とさざるを得ない事にもどかしさを感じながらも、最短距離で中央広場へと急ぎます。


○▲△


「偽聖女、スカーレット=ビュイックはここに成敗した!」
「以上を以って偽聖女の刑の執行を終了する!」

 私がようやく中央広場に駆け付けた時には役人達がそう宣言した所でした。
 
「おっ、お嬢様!」

 そんな、間に合わなかったなんて………。
 その場で膝から崩れ落ちる私の眼に映った光景。それは落とされた首を晒す為に、籠から取り出す役人の姿でした。

 せめてお嬢様の首が晒される事がない様に、ここに居る役人全員を殺して首を奪おう。
 何人居る?

 たったの12人。

 これくらいなら幼い頃からあらゆる武術を叩き込まれて育った私なら難無く殺れる筈だ。

 そう決意した私はそっと役人の背後から近付くと、自分に言い聞かせます。

 そう、これから行う事はお嬢様の仇討ちの第一歩。今はここに居る役人だけでも次は、お嬢様に死刑を言い渡した裁判官やら役人やら。とにかくお嬢様の死刑に関わった全ての者に報いを受けてもらいます。
 職務であろうと何だろうと、お嬢様を手に掛けるなど万死に値する所業です。
 仇討ちの最後は王妃、王太子です。その為にはこの命を捨てる覚悟は出来ております。

「偽聖女の首を!」

 いよいよ首が晒されます。
 とは言え、今の私は丸腰です。素手でも殺れない事はありませんが流石に効率が悪いと認めざるを得ません。
 先ずは近くの衛兵に襲い掛かり、剣を奪わなければなりませんね。
 私は素手での格闘術にも覚えがございますので、襲い掛かるタイミングを計っていたその時でした。

「聖女様!」

 涙ながらにその首を見つめる群衆から声が漏れました。
 されど首を晒す割には距離がございます。
 遠くて判りかねますが、あの青白い顔がお嬢様だなんて信じられません!

「お嬢様!」

 気が付いた時には駆け出しておりました。周囲の方々には私が取り乱した様に見えたに違いございません。
 私を止めに入った衛兵には頸動脈に手刀を入れて眠って頂きました。

「お嬢様、なんて変わり果てたお姿に……」
 
 嗚咽しながら見たそのお顔は、とてもお嬢様には見えませんでした。

「お嬢様、こんなにお顔が変わられるなんて。さぞお辛かった事でしょう」

 お嬢様の仇を討たなければ!
 改めて決意しました。

「おい、何事だ?」
 
 どうやら私が1人倒した事は気付いていない様子です。
 ならば意識の無い衛兵から剣を奪い、仇討ちの手始めにこの役人を討つと決めました。その前にもう一度お嬢様の首を見て己を奮い立たせる事にします。

「お嬢様ぁ」

 お嬢様、まるで別人の様になられてしまいました。
 私は、如何なる手段を用いようと王宮に居座れなかった自身を罵りました。

「お嬢様」

 血の気の無いそのお顔は私の知っているお嬢様より額が広くて、鼻も低い。口元なんて髭の剃り残しが。

「えっ?」

 お嬢様に髭?
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