理由あり聖女の癒やしの湯 偽物認定されて処刑直前に逃げ出した聖女。隣国で温泉宿の若女将になる

でがらし3号

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心を鬼にして

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「……うそ……」

 目を丸くしているけど、驚くというよりも放心状態になっているわね、姉妹そろって。無理も無いか。

「じっ、実は昨夜ね、あなた達の為にウチのお客様が総出で探しに行って下さったのよ!」

 何とかして誤魔化さなきゃ!
 私とナンシーは打ち合わせた筋書きをシンシアたちに説明する。
 私もナンシーも思いは1つしかない。元聖女だとバレませんように!
 
「お客様以外にも魔の大樹海には冒険者が居てね、その中でも親切な冒険者がシンシアさんの腕を届けてくれたの!」

 うーん、真実を捻じ曲げて話す時はどうしても早口で語尾が強くなるわね。
 我ながら白々しいけど仕方ないわよね。

「あの、その冒険者の方は?」

「さあ。名乗りもせずに「ゴブリンの群れを探している連中に聞いた。あんたらの探し物はこれだろ?」って言ってシンシアさんの腕を置いて去って行ったのよ。ねぇナンシー!」

「ええ。暗がりで顔もよく見えませんでしたね、若女将!」

「そうですか。お礼を言いたかったのに…」

 シンシアはそれっきり黙り込んでしまった。代わりに妹のケイト方が食い付いて来た。

「お姉ちゃんの腕は本当に温泉で付いたのですか?」

「あっ、当たり前じゃない。普通に考えて薬箱に有る傷薬じゃこうは着かないでしょ! ねぇナンシー!」

「もちろんですとも! 若女将!」

 うん、薬では間違っても腕は付かない。

「でも昨日は確か、「ウチのお湯に5日浸れば」って言ってましたよね?」

 ケイトが探る様に聞いてくる。
 感謝しろなんて言わないけど色々と手を焼いたのは確かなんだから、こんなに冷や汗を掻かせないでよ!

「一晩で着くなんてウチのお湯と相性が良いみたいね。こんな事はシンシアさんが初めてよ!」

 腕が元通りで万々歳でしょ。いい加減に納得してよ!
 何とか話の流れを変えなきゃ。
 私はナンシーにチラリと視線を送る。するとナンシーは直ぐに私の視線に気付いてくれる。本当に頼りになるわ!

「非常にお伝えし辛いのですけれども、昨夜のシンシアさんの腕の捜索には冒険者のお客様が総出で当たられました。中には怪我をされて先ほど戻られたお客様もいらっしゃいます」

 流石はナンシー。器用に費用の話に持って行くつもりね。
 実際に負傷したジョンさんがようやくさっき帰って来たからリアリティが有る。

「お客様総出の捜索費用と、怪我をされたお客様の休業補償をご負担下さい」

「費用負担ですか?」

 ジョンさんはB級冒険者。羽振りは悪くないから、どれ位吹っ掛けようかしら?

「言っておきますが「そんなの私達は頼んでない!」なんて屁理屈は仰らないで下さいね。冒険者の端くれならば、冒険者が捜索した事の意味が判りますね?」

 そもそも最下級の魔物であるゴブリンとは言え、冒険者に魔物を探してもらうのだ。ボランティアで動いてくれる冒険者なんていないわ。
 もしいたらそれは冒険者とは呼べない。

「あの、おいくらですか?」

 姉妹揃っておどおどしてきたわ。これでもう腕の事をどうこう言わない筈よね。

「そうですね。47名のお客様には昨日の宿泊代金を無料にする事で捜索して頂きました。更にB級冒険者のお客様が怪我をされています。20日間の休業補償を合わせまして」

 姉妹が固唾を呑んでナンシーを見つめる。その視線には不安と期待が込められている事が痛いほどに判るわ。

「200万サートゥルとなります!」

 申し訳ないけれども多少は吹っ掛けさせてもらったわ。直ぐに払えそうな金額だと意味が無い。気の毒だけど冒険者を諦めさせる為のこの金額だ。

「200万!」

「そ、そんな大金……」

 妹のケイトは驚き、姉のシンシアは絶句した。
 まっ、彼女らの装備からしてそうなるわよね。初心者向けの使い古しだもの。お金なんて有る訳ないわ。

「ごめんなさい。直ぐにはお支払い出来ません」

「直ぐにはって、待てば払ってもらえるの?」

 敢えて厳しく言う。彼女たちに冒険者を続けさせたら次は死ぬかも知れない。

「言っておきますけれど、若女将の意向でこの200万サートゥルに当館の利益は含まれていません。本来ならば、もう100万高い、300万サートゥルになっていたのですよ!」

 ナンシーが半ば脅す様に言う。何だか空気がピリピリしてきたわ。もしも今、腕が早く着いた事を蒸し返したら姉妹揃って斬られそうね。
 そんなナンシーの人を殺せそうな視線を受けて、あの姉妹が気の毒になってきたわ。

「すぐに払えとは言わないわ。無利子で、催促無しの有る時払いよ」

「無利子で無催促?」
「本当にそれで良いのですか?」
 
「ただし、担保はもらうわよ!」

「ひぇ!」
「たっ、担保ですか?」

 言った時の私の顔が歪んで見えたのかしら? 随分と怖がっているわね。

「2人には約束して欲しいの。返済が完了するまでは冒険者としての活動を停止するって!」

 この姉妹だって何か志を持って冒険者になったのかも知れない。それを思うと、夢を奪うってつらいわ。
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