23 / 58
心を鬼にして
しおりを挟む
「……うそ……」
目を丸くしているけど、驚くというよりも放心状態になっているわね、姉妹そろって。無理も無いか。
「じっ、実は昨夜ね、あなた達の為にウチのお客様が総出で探しに行って下さったのよ!」
何とかして誤魔化さなきゃ!
私とナンシーは打ち合わせた筋書きをシンシアたちに説明する。
私もナンシーも思いは1つしかない。元聖女だとバレませんように!
「お客様以外にも魔の大樹海には冒険者が居てね、その中でも親切な冒険者がシンシアさんの腕を届けてくれたの!」
うーん、真実を捻じ曲げて話す時はどうしても早口で語尾が強くなるわね。
我ながら白々しいけど仕方ないわよね。
「あの、その冒険者の方は?」
「さあ。名乗りもせずに「ゴブリンの群れを探している連中に聞いた。あんたらの探し物はこれだろ?」って言ってシンシアさんの腕を置いて去って行ったのよ。ねぇナンシー!」
「ええ。暗がりで顔もよく見えませんでしたね、若女将!」
「そうですか。お礼を言いたかったのに…」
シンシアはそれっきり黙り込んでしまった。代わりに妹のケイト方が食い付いて来た。
「お姉ちゃんの腕は本当に温泉で付いたのですか?」
「あっ、当たり前じゃない。普通に考えて薬箱に有る傷薬じゃこうは着かないでしょ! ねぇナンシー!」
「もちろんですとも! 若女将!」
うん、薬では間違っても腕は付かない。
「でも昨日は確か、「ウチのお湯に5日浸れば」って言ってましたよね?」
ケイトが探る様に聞いてくる。
感謝しろなんて言わないけど色々と手を焼いたのは確かなんだから、こんなに冷や汗を掻かせないでよ!
「一晩で着くなんてウチのお湯と相性が良いみたいね。こんな事はシンシアさんが初めてよ!」
腕が元通りで万々歳でしょ。いい加減に納得してよ!
何とか話の流れを変えなきゃ。
私はナンシーにチラリと視線を送る。するとナンシーは直ぐに私の視線に気付いてくれる。本当に頼りになるわ!
「非常にお伝えし辛いのですけれども、昨夜のシンシアさんの腕の捜索には冒険者のお客様が総出で当たられました。中には怪我をされて先ほど戻られたお客様もいらっしゃいます」
流石はナンシー。器用に費用の話に持って行くつもりね。
実際に負傷したジョンさんがようやくさっき帰って来たからリアリティが有る。
「お客様総出の捜索費用と、怪我をされたお客様の休業補償をご負担下さい」
「費用負担ですか?」
ジョンさんはB級冒険者。羽振りは悪くないから、どれ位吹っ掛けようかしら?
「言っておきますが「そんなの私達は頼んでない!」なんて屁理屈は仰らないで下さいね。冒険者の端くれならば、冒険者が捜索した事の意味が判りますね?」
そもそも最下級の魔物であるゴブリンとは言え、冒険者に魔物を探してもらうのだ。ボランティアで動いてくれる冒険者なんていないわ。
もしいたらそれは冒険者とは呼べない。
「あの、おいくらですか?」
姉妹揃っておどおどしてきたわ。これでもう腕の事をどうこう言わない筈よね。
「そうですね。47名のお客様には昨日の宿泊代金を無料にする事で捜索して頂きました。更にB級冒険者のお客様が怪我をされています。20日間の休業補償を合わせまして」
姉妹が固唾を呑んでナンシーを見つめる。その視線には不安と期待が込められている事が痛いほどに判るわ。
「200万サートゥルとなります!」
申し訳ないけれども多少は吹っ掛けさせてもらったわ。直ぐに払えそうな金額だと意味が無い。気の毒だけど冒険者を諦めさせる為のこの金額だ。
「200万!」
「そ、そんな大金……」
妹のケイトは驚き、姉のシンシアは絶句した。
まっ、彼女らの装備からしてそうなるわよね。初心者向けの使い古しだもの。お金なんて有る訳ないわ。
「ごめんなさい。直ぐにはお支払い出来ません」
「直ぐにはって、待てば払ってもらえるの?」
敢えて厳しく言う。彼女たちに冒険者を続けさせたら次は死ぬかも知れない。
「言っておきますけれど、若女将の意向でこの200万サートゥルに当館の利益は含まれていません。本来ならば、もう100万高い、300万サートゥルになっていたのですよ!」
ナンシーが半ば脅す様に言う。何だか空気がピリピリしてきたわ。もしも今、腕が早く着いた事を蒸し返したら姉妹揃って斬られそうね。
そんなナンシーの人を殺せそうな視線を受けて、あの姉妹が気の毒になってきたわ。
「すぐに払えとは言わないわ。無利子で、催促無しの有る時払いよ」
「無利子で無催促?」
「本当にそれで良いのですか?」
「ただし、担保はもらうわよ!」
「ひぇ!」
「たっ、担保ですか?」
言った時の私の顔が歪んで見えたのかしら? 随分と怖がっているわね。
「2人には約束して欲しいの。返済が完了するまでは冒険者としての活動を停止するって!」
この姉妹だって何か志を持って冒険者になったのかも知れない。それを思うと、夢を奪うってつらいわ。
目を丸くしているけど、驚くというよりも放心状態になっているわね、姉妹そろって。無理も無いか。
「じっ、実は昨夜ね、あなた達の為にウチのお客様が総出で探しに行って下さったのよ!」
何とかして誤魔化さなきゃ!
私とナンシーは打ち合わせた筋書きをシンシアたちに説明する。
私もナンシーも思いは1つしかない。元聖女だとバレませんように!
「お客様以外にも魔の大樹海には冒険者が居てね、その中でも親切な冒険者がシンシアさんの腕を届けてくれたの!」
うーん、真実を捻じ曲げて話す時はどうしても早口で語尾が強くなるわね。
我ながら白々しいけど仕方ないわよね。
「あの、その冒険者の方は?」
「さあ。名乗りもせずに「ゴブリンの群れを探している連中に聞いた。あんたらの探し物はこれだろ?」って言ってシンシアさんの腕を置いて去って行ったのよ。ねぇナンシー!」
「ええ。暗がりで顔もよく見えませんでしたね、若女将!」
「そうですか。お礼を言いたかったのに…」
シンシアはそれっきり黙り込んでしまった。代わりに妹のケイト方が食い付いて来た。
「お姉ちゃんの腕は本当に温泉で付いたのですか?」
「あっ、当たり前じゃない。普通に考えて薬箱に有る傷薬じゃこうは着かないでしょ! ねぇナンシー!」
「もちろんですとも! 若女将!」
うん、薬では間違っても腕は付かない。
「でも昨日は確か、「ウチのお湯に5日浸れば」って言ってましたよね?」
ケイトが探る様に聞いてくる。
感謝しろなんて言わないけど色々と手を焼いたのは確かなんだから、こんなに冷や汗を掻かせないでよ!
「一晩で着くなんてウチのお湯と相性が良いみたいね。こんな事はシンシアさんが初めてよ!」
腕が元通りで万々歳でしょ。いい加減に納得してよ!
何とか話の流れを変えなきゃ。
私はナンシーにチラリと視線を送る。するとナンシーは直ぐに私の視線に気付いてくれる。本当に頼りになるわ!
「非常にお伝えし辛いのですけれども、昨夜のシンシアさんの腕の捜索には冒険者のお客様が総出で当たられました。中には怪我をされて先ほど戻られたお客様もいらっしゃいます」
流石はナンシー。器用に費用の話に持って行くつもりね。
実際に負傷したジョンさんがようやくさっき帰って来たからリアリティが有る。
「お客様総出の捜索費用と、怪我をされたお客様の休業補償をご負担下さい」
「費用負担ですか?」
ジョンさんはB級冒険者。羽振りは悪くないから、どれ位吹っ掛けようかしら?
「言っておきますが「そんなの私達は頼んでない!」なんて屁理屈は仰らないで下さいね。冒険者の端くれならば、冒険者が捜索した事の意味が判りますね?」
そもそも最下級の魔物であるゴブリンとは言え、冒険者に魔物を探してもらうのだ。ボランティアで動いてくれる冒険者なんていないわ。
もしいたらそれは冒険者とは呼べない。
「あの、おいくらですか?」
姉妹揃っておどおどしてきたわ。これでもう腕の事をどうこう言わない筈よね。
「そうですね。47名のお客様には昨日の宿泊代金を無料にする事で捜索して頂きました。更にB級冒険者のお客様が怪我をされています。20日間の休業補償を合わせまして」
姉妹が固唾を呑んでナンシーを見つめる。その視線には不安と期待が込められている事が痛いほどに判るわ。
「200万サートゥルとなります!」
申し訳ないけれども多少は吹っ掛けさせてもらったわ。直ぐに払えそうな金額だと意味が無い。気の毒だけど冒険者を諦めさせる為のこの金額だ。
「200万!」
「そ、そんな大金……」
妹のケイトは驚き、姉のシンシアは絶句した。
まっ、彼女らの装備からしてそうなるわよね。初心者向けの使い古しだもの。お金なんて有る訳ないわ。
「ごめんなさい。直ぐにはお支払い出来ません」
「直ぐにはって、待てば払ってもらえるの?」
敢えて厳しく言う。彼女たちに冒険者を続けさせたら次は死ぬかも知れない。
「言っておきますけれど、若女将の意向でこの200万サートゥルに当館の利益は含まれていません。本来ならば、もう100万高い、300万サートゥルになっていたのですよ!」
ナンシーが半ば脅す様に言う。何だか空気がピリピリしてきたわ。もしも今、腕が早く着いた事を蒸し返したら姉妹揃って斬られそうね。
そんなナンシーの人を殺せそうな視線を受けて、あの姉妹が気の毒になってきたわ。
「すぐに払えとは言わないわ。無利子で、催促無しの有る時払いよ」
「無利子で無催促?」
「本当にそれで良いのですか?」
「ただし、担保はもらうわよ!」
「ひぇ!」
「たっ、担保ですか?」
言った時の私の顔が歪んで見えたのかしら? 随分と怖がっているわね。
「2人には約束して欲しいの。返済が完了するまでは冒険者としての活動を停止するって!」
この姉妹だって何か志を持って冒険者になったのかも知れない。それを思うと、夢を奪うってつらいわ。
1
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる