理由あり聖女の癒やしの湯 偽物認定されて処刑直前に逃げ出した聖女。隣国で温泉宿の若女将になる

でがらし3号

文字の大きさ
25 / 58

姉妹の過去

しおりを挟む
 私とケイトは、そこそこ大きい町の質屋の娘でした。
 質屋を経営するお父さんはその鑑定眼を買われて、よくギルドに頼まれて鑑定に行っていましたね。
 今から思えばそれが災いの素なんて想像もしないで。

 真面目で働き者のお父さんと優しいお母さん。私たちは普通に両親の横で育ち、ごく自然と家業を手伝う様になりました。
 普段は優しいお父さんも鑑定の時は厳しい表情で、「この鑑定次第で人の人生が変わるかも知れない。だから鑑定は一切の感情を捨てて臨まなくてはいけないよ」なんて、まだ幼かった私たちに諭してくれました。
 こうして幼い頃から鑑定に関わってきました。鑑定眼なら自信有ります。


○▲△


「ちょっと待って。それじゃどうして冒険者に?」

 この姉妹が質屋の娘で鑑定出来る理由も判ったけど、それなら質屋の娘でいれば良いじゃない。
 危険で収入も不安定な冒険者になる理由なんて思い付かないわ。

「それでは私達が冒険者になろうとした理由をお話します。」

 語り出す前、シンシアは軽く深呼吸をした。


○▲△


 妹のケイトの14歳の誕生日の直前でした。
 お父さんがいつもの様にギルドに行くと、頬に大きな傷を付けて帰って来ました。

「ギルドで鑑定結果に納得出来ない冒険者が暴れ出してね。直ぐに取り押さえられたけど、傍に居たから無傷って訳にはいかなかったよ」

「お父さん、大丈夫?」

 その傷が妙に痛々しくて、見ていられませんでした。

「ああ、大丈夫だよ。ナイフが少し掠っただけだから」

 頬に傷は有るけれど、いつも通りの優しい笑顔。それが家族の思い出の最後でした。

 その日の真夜中。

「シンシア、ケイト、起きなさい!」

 お母さんの慌てた声で目を覚めした私達は外がまだ暗い事に気が付きましたが、お母さんの声からして只事じゃないと察しました。
 
「どうしたの?」

「強盗が入ったみたいなの。2人共、隠れて!」

 私達の部屋は2階で逃げようにも逃げられません。そこで隠れる事にしました。

「お父さんは?」

「物音がしたから見に行って捕まったみたい」

「お父さんを助けなきゃ!」

 ケイトが泣きながら言っても、現実的でない事は皆が判っていました。

「ダメよ。1番大切なのは生命よ!お金はまた稼げば良いけど生命は失ったら終わりなのよ。質屋ってお金が有ると思われがちだから、強盗が押し入った時にどう行動するかをお父さんとお母さんは話し合っていたの」

「お母さん」

 自然と3人共、目に涙を浮かばせていたのを覚えています。

「シンシア、ケイト」

 お母さんは私達をギュッと抱きしめてくれました。

「お父さんもお母さんも2人が大好き。だから何が有っても諦めないで、2人で力を合わせて幸せになってね」

「お母さん!」

 私もケイトも泣いてそれしか言えませんでした。

「お母さんも!」

「ダメよ。強盗がこの部屋に入らない様にする事がお母さんの役目よ。いい、お母さんが出て行ったらドアに鍵を掛けるのよ。シンシア、ケイトをお願いね」

「いや、お母さん」

「ケイト、お姉ちゃんのいう事をちゃんと聞くのよ」

「お母さん」

「シンシア、ケイト、大好きよ」

 泣きながら微笑んで部屋を出て行った、それがお母さんとの最後でした。


○▲△


 翌朝、街の衛兵に保護された私達は、荒らされた店内に横たわっている両親を見て、枯れるまで泣きました。
 犯人は前日にお父さんの鑑定結果に納得出来ない5人組の冒険者パーティで、捕まった犯人グループの1人によればお母さんが私達を守ってくれたそうです。


「おい、2階も見せろ!」

「アンタ達、そんなゆっくりして良いのかい? 2階の窓から子供を屋根伝いに逃したわ。今頃は街の衛兵の詰め所に駆け込んでいる筈よ!」

「クソアマ!」
「どうせ顔を見られているんだ。殺れ!」

 それでお母さんは強盗に斬られたそうです。
 血の跡から、お母さんは斬られてから最期の力を振り絞って何とか、先に倒れていたお父さん寄り添おうとしたみたいでした。

 5人組の犯人グループの内、捕まったのは2人だけで残りの3人はまだ捕まっていません。そこで私達はお店を処分しました。金品も奪われたし、それに第一女の子が経営する質屋が立ち行くとも思えませんでしたので。
 質屋ってお金が有る様に思われがちですけれども、実際にはそうでもないのですよ。質屋を処分しても私たち姉妹の手元には幾らも残りませんでした。
 その僅かなお金を元手に冒険者になる事にしたんです。まだ残っているお父さんとお母さんの仇を見付ける為に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...