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留守中の報告
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私とナンシーが『一角竜』に戻るとシンシアが興奮しながら留守中の出来事を報告しようとして来るけど、何か特別な事でも有ったのかしら?
「若女将、さっきとても格好良い方がいらしたのですよ!」
「あらそうなの。何名様?」
魔の大樹海から魔物が消えてしまってからは客足が落ち込んできたから新規のお客様は大歓迎よ。もちろん常連のお客様もだけど。
「えっ、気にならないのですか? まぁいいです。それにその方、お泊りにはなりませんでした」
それを聞いて私はズッコケそうになったわ。シンシアったら、そんなお客様でもない来訪者の事をにこやかに言わないでよ。
「何それ。道でも聞きに来たの?」
「いえ、人探しでした。何でも妹さんを探しているそうですよ」
「妹?」
シンシアが大騒ぎする様な容姿端麗な美丈夫が妹を探してこんな辺境まで足を延ばしている。一瞬だけお義兄様の事が頭を過ったけれど、そんな訳無いわよね。
お義兄様は私が逃げ延びる事を望んでくれている筈だから探して回っているなんて有り得ないわ。
「その方は1人でいらしたの?」
「いえ、お連れが3人。見た感じですけど主と従者って感じでした」
うーん、何とも言えないわね。お義兄様だとしたらこんな辺境までどうかしたのかしら?
お義兄様の事だから私を連れ戻して魔物除けの結界を張らせようって訳じゃないわよね。
それに第一お義兄様でない可能性も有るからどうした物かしら。
「シンシア、そんな殿方の話をされてもその方を見てもいない若女将と私にはどうする事も出来ないわ。無駄話をしていないで厨房に行って下ごしらえの手伝いをして」
ここで話題をナンシーが変えてくれた。正直言うと助かったわぁ。お義兄様だったらと思うと動揺してボロが出そうだったからね。
「あっ、はい。分かりましたナンシーさん」
「お願いね」
厳しめの口調の後に優しく言うナンシーの思惑に気が付く素振りも見せずにシンシアは厨房へと向かって行った。
それを確認してナンシーが私に向き直った。
「若女将、何もまだ若様だと決まった訳ではございません」
「それはそうだけど」
「それに若様だとしても若様は若女将の不利益になる様な事など一切致しません!」
ナンシー、言い切ったわね。それに流石はお義兄様ね。しっかりと皆に信用されているわ。
「そんな事は判っているわ。お義父様やお義母様、それにお義兄様は私に厳しくも優しくしてくれたわ。包容力って言うのかな? 私が至らなくて叱られている時でも私の事を思ってくれているって理解出来たわ。私は元は孤児だけど、その後の家族には恵まれていると思っているわよ」
ビュイック侯爵家は皆がそんな感じだったわ。
「お義兄様かも知れない殿方の話題はこれで終わりよ。それにしてもそんな美丈夫なら会ってみたかったわね」
「若女将、殿方にご興味が?」
「冗談よ。最悪な元婚約者のお陰で男に興味なんて無いわ」
「お察し致します」
「ねぇナンシー、前から疑問だったけど私もバツイチってなるのかしら?」
「婚約者はしていましたけれど婚姻は成立しておりません。ですのでバツイチではないかと思われます」
何故かナンシーが申し訳無さそうに言う。軽い冗談のつもりだったのに、その姿を見るとこっちが申し訳無く思う。
「それは残念ね。バツイチ三十路女が若女将を務める辺境の温泉宿って、売りになるかと思ったのに」
なのでこの話題は自虐的に締める事にした。
「若女将、さっきとても格好良い方がいらしたのですよ!」
「あらそうなの。何名様?」
魔の大樹海から魔物が消えてしまってからは客足が落ち込んできたから新規のお客様は大歓迎よ。もちろん常連のお客様もだけど。
「えっ、気にならないのですか? まぁいいです。それにその方、お泊りにはなりませんでした」
それを聞いて私はズッコケそうになったわ。シンシアったら、そんなお客様でもない来訪者の事をにこやかに言わないでよ。
「何それ。道でも聞きに来たの?」
「いえ、人探しでした。何でも妹さんを探しているそうですよ」
「妹?」
シンシアが大騒ぎする様な容姿端麗な美丈夫が妹を探してこんな辺境まで足を延ばしている。一瞬だけお義兄様の事が頭を過ったけれど、そんな訳無いわよね。
お義兄様は私が逃げ延びる事を望んでくれている筈だから探して回っているなんて有り得ないわ。
「その方は1人でいらしたの?」
「いえ、お連れが3人。見た感じですけど主と従者って感じでした」
うーん、何とも言えないわね。お義兄様だとしたらこんな辺境までどうかしたのかしら?
お義兄様の事だから私を連れ戻して魔物除けの結界を張らせようって訳じゃないわよね。
それに第一お義兄様でない可能性も有るからどうした物かしら。
「シンシア、そんな殿方の話をされてもその方を見てもいない若女将と私にはどうする事も出来ないわ。無駄話をしていないで厨房に行って下ごしらえの手伝いをして」
ここで話題をナンシーが変えてくれた。正直言うと助かったわぁ。お義兄様だったらと思うと動揺してボロが出そうだったからね。
「あっ、はい。分かりましたナンシーさん」
「お願いね」
厳しめの口調の後に優しく言うナンシーの思惑に気が付く素振りも見せずにシンシアは厨房へと向かって行った。
それを確認してナンシーが私に向き直った。
「若女将、何もまだ若様だと決まった訳ではございません」
「それはそうだけど」
「それに若様だとしても若様は若女将の不利益になる様な事など一切致しません!」
ナンシー、言い切ったわね。それに流石はお義兄様ね。しっかりと皆に信用されているわ。
「そんな事は判っているわ。お義父様やお義母様、それにお義兄様は私に厳しくも優しくしてくれたわ。包容力って言うのかな? 私が至らなくて叱られている時でも私の事を思ってくれているって理解出来たわ。私は元は孤児だけど、その後の家族には恵まれていると思っているわよ」
ビュイック侯爵家は皆がそんな感じだったわ。
「お義兄様かも知れない殿方の話題はこれで終わりよ。それにしてもそんな美丈夫なら会ってみたかったわね」
「若女将、殿方にご興味が?」
「冗談よ。最悪な元婚約者のお陰で男に興味なんて無いわ」
「お察し致します」
「ねぇナンシー、前から疑問だったけど私もバツイチってなるのかしら?」
「婚約者はしていましたけれど婚姻は成立しておりません。ですのでバツイチではないかと思われます」
何故かナンシーが申し訳無さそうに言う。軽い冗談のつもりだったのに、その姿を見るとこっちが申し訳無く思う。
「それは残念ね。バツイチ三十路女が若女将を務める辺境の温泉宿って、売りになるかと思ったのに」
なのでこの話題は自虐的に締める事にした。
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