理由あり聖女の癒やしの湯 偽物認定されて処刑直前に逃げ出した聖女。隣国で温泉宿の若女将になる

でがらし3号

文字の大きさ
32 / 58

留守中の報告

しおりを挟む
 私とナンシーが『一角竜』に戻るとシンシアが興奮しながら留守中の出来事を報告しようとして来るけど、何か特別な事でも有ったのかしら?

「若女将、さっきとても格好良い方がいらしたのですよ!」

「あらそうなの。何名様?」

 魔の大樹海から魔物が消えてしまってからは客足が落ち込んできたから新規のお客様は大歓迎よ。もちろん常連のお客様もだけど。

「えっ、気にならないのですか? まぁいいです。それにその方、お泊りにはなりませんでした」

 それを聞いて私はズッコケそうになったわ。シンシアったら、そんなお客様でもない来訪者の事をにこやかに言わないでよ。

「何それ。道でも聞きに来たの?」

「いえ、人探しでした。何でも妹さんを探しているそうですよ」

「妹?」

 シンシアが大騒ぎする様な容姿端麗な美丈夫が妹を探してこんな辺境まで足を延ばしている。一瞬だけお義兄様おにいさまの事が頭を過ったけれど、そんな訳無いわよね。
 お義兄様は私が逃げ延びる事を望んでくれている筈だから探して回っているなんて有り得ないわ。

「その方は1人でいらしたの?」

「いえ、お連れが3人。見た感じですけど主と従者って感じでした」

 うーん、何とも言えないわね。お義兄様だとしたらこんな辺境までどうかしたのかしら?
 お義兄様の事だから私を連れ戻して魔物除けの結界を張らせようって訳じゃないわよね。
 それに第一お義兄様でない可能性も有るからどうした物かしら。

「シンシア、そんな殿方の話をされてもその方を見てもいない若女将と私にはどうする事も出来ないわ。無駄話をしていないで厨房に行って下ごしらえの手伝いをして」

 ここで話題をナンシーが変えてくれた。正直言うと助かったわぁ。お義兄様だったらと思うと動揺してボロが出そうだったからね。

「あっ、はい。分かりましたナンシーさん」

「お願いね」

 厳しめの口調の後に優しく言うナンシーの思惑に気が付く素振りも見せずにシンシアは厨房へと向かって行った。
 それを確認してナンシーが私に向き直った。

「若女将、何もまだ若様だと決まった訳ではございません」

「それはそうだけど」

「それに若様だとしても若様は若女将の不利益になる様な事など一切致しません!」

 ナンシー、言い切ったわね。それに流石はお義兄様ね。しっかりと皆に信用されているわ。

「そんな事は判っているわ。お義父様やお義母様、それにお義兄様は私に厳しくも優しくしてくれたわ。包容力って言うのかな? 私が至らなくて叱られている時でも私の事を思ってくれているって理解出来たわ。私は元は孤児だけど、その後の家族には恵まれていると思っているわよ」

 ビュイック侯爵家は皆がそんな感じだったわ。

「お義兄様かも知れない殿方の話題はこれで終わりよ。それにしてもそんな美丈夫なら会ってみたかったわね」

「若女将、殿方にご興味が?」

「冗談よ。最悪な元婚約者のお陰で男に興味なんて無いわ」

「お察し致します」

「ねぇナンシー、前から疑問だったけど私もバツイチってなるのかしら?」

「婚約者はしていましたけれど婚姻は成立しておりません。ですのでバツイチではないかと思われます」

 何故かナンシーが申し訳無さそうに言う。軽い冗談のつもりだったのに、その姿を見るとこっちが申し訳無く思う。

「それは残念ね。バツイチ三十路女が若女将を務める辺境の温泉宿って、売りになるかと思ったのに」

 なのでこの話題は自虐的に締める事にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...