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ノアとマチアス

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フルナール国の国王は三人の妃を持つ伝統がある。先代の国王から妃の一人は政略結婚を取り入れ今の国王もボールドの貴族から嫁いでいる。残り二人は国内の有力貴族から嫁いでいる。皇太子殿下ノアの第一王妃はボールドの公爵家から第二王妃はフルナールの公爵家からとここまでは順調に決まった。だが第三王妃で揉めていた。



ノアは学園時代の仲の良い女性を妃にしたいと言い出した。その女性はフルナールの伯爵家の長女で伯爵家は王家に忠誠を誓う家柄で他の貴族からの評判も良好である。
「ノア様、三人の妃候補は貴族でありますから家柄とご身分に問題ありません。しかし第三王妃の候補者は恋愛対象の女性でありますか?」
「宰相、確かに彼女とは二人の時間を過ごしたことはあるが特別な恋愛感情を持ってではない。彼女への期待は学園内の役員を無難にこなす実力から彼女を推薦する。僕の三人の母上はどなたも公務をしっかりとこなし家庭での母親もしている。僕が見つけた公務をこなせる妃候補だ」
「承知いたしました。陛下には私から伝えます。ご本人と伯爵へはノア様からご説明願います」
「僕からですか?」
「王宮の人間が頼みにいけば相手は断ることができません。しかし、ノア様がご自分で求婚にいけば断ることが可能です。あくまでもノア様お一人で行動することが大切です」
「僕一人で説明に行っても王家の後ろ盾があるので断れないのではないのですか?」
「そこは陛下にはまだ伝えていないのだと、宰相には相談したから断っても禍根は残らない様に宰相がやってくれるから心配いらないとするのです」



宰相はニヤリとしながら陛下の執務室に向かった。
「陛下、お時間よろしいですか?」
「ノア様の第三王妃候補ですが、ノア様から学園時代の同級生の女性とおっしゃっております。三人の母上がされていらっしゃる公務と家庭の母親をできる実力のある女性だそうです」
「なんだ。好きなんじゃないのか?」
「本人いわく恋愛感情などはないとおっしゃっていますが、いかがでしょうか?疑問はあります」
「うん。でも王宮から話を持って行くのは・・・」
「ノア様にはお一人で伯爵家に話に行くように勧めました。陛下にお願いいたしますが、今の話は聞いていなかったことにしてくださいますか?」
「わかった。ノア次第だな」
「その女性が気に入ってしまったのでしょう。それならご自身でなんとかするはずです」
「あいつがなあ、結果を楽しみにしておこう」



宰相に勧められてモンテ伯爵家に使いを送り明日の午後に訪問する旨を伝えた。
使いの者がモンテ伯爵に了承いただいたと報告に来たのでお礼を伝えた後だ。いきなり緊張してきた。僕は何を話しすればいいのだ。頭は真っ白、手に汗はかくし、心臓が高鳴る。父上には相談できないし弟たちでは年齢が年齢、十三才以下では相談は無理だ。



先ほどまでは興奮もしていたが、明日はお供のものが一緒に送ってくれるが、モンテ伯爵家で話をするのは僕一人だ。今は緊張しかない。



義理の兄になるアンドレア殿は一緒にいてくれる同級生がいたよな。ルカだったな。親友っていうなら僕にはマチアスだ。学園時代からの付き合いだがふざけたことも言い合える数少ない友人だ。万能でもあったし女性にもモテる顔しているから女性への対応もうまいはずだ。僕にタメ口たたくのは数えるほどしかいない奴だ。よし、今から行ってやる。父上に外出を伝えると快く送り出してくれた。母上からも気をつけてねと。



王宮から歩いて十分あまりのところにマチアスの家はある。ノックすると母親が迎えてくれた。どうぞ座ってと勧められて美味しいお茶を入れてくれた。久しぶりの訪問に質問攻めに合っているうちにマチアスが帰ってきた。


「突然どうしたんだ、お前」
「よお!マチアス!頼む相談に乗ってくれ」
切羽詰まったオーラが伝わったようだ。
「母さんがいてもいいか?俺だけでは解決する問題ではないだろう」



相談する人がいないからここまで来た!とはさすがに言えない僕の心は折れる寸前だったようだ。かなりテンパっていた。マチアスの母親にも入ってもらって相談がはじまった。僕は皇太子として三人の妃を迎える。第一妃は隣国ボールドの侯爵家から、第二妃はフルナールの公爵家から、問題の第三妃は僕の推薦する同級生のモンテ伯爵家のレオノール・サラ・モンテを推薦したことだ。恋愛感情はないが本人のスキルの高さに芯の強さを押してのことだった。でも個人の判断もあり”好きなんじゃないのか?”と指摘されれば否定するのは難しい。



マチアスとお母さんは僕の話す一字一句をこぼすことなく聞いてくれた。多分切羽詰まった僕の言葉では多重・福重・言い直しがあったはずだがすべてを聞いてくれた。そのうえで二人が二人ともこう言ってくれた。
「多分、ノア(ノア殿下)は結論が決まっているはずだ。思った通りレオノール様に伝えればいいのではないでしょうか?ノアはすでに自分で決めたことを私たちに賛同してもらうためにお話されたのでしょう。私たちでは意見は申しあげられませんが、賛成です。すでにまわりの方のほとんどが賛成と思ってよいのでしょう。どこからも不協和音は聞こえてきませんから。これでいかがでしょうか?お一人でお話していただいて好きな方を妃に迎えて新しい風習を作るのもいいのではありませんか?」



「マチアス。この件が終わったら僕と一緒に王宮で勤めないか?僕と一緒に行動して公務ができる相手を探している。マチアスなら頼もしいし僕も嬉しい」



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