15 / 25
【15話】災い ※ベイル視点
しおりを挟む災害。伝染病。深刻なまでの農作物の不作――これらの問題によってラーペンド王国は今、壊滅的な被害を受けていた。
右肩上がりに増え続けている死者により、高水準だった国力は大幅に低下。
このまま事態が収束しなければ、国の存続すらも危うくなるという状況になっている。
しかしながら、解決の糸口はまったく見えていなかった。
王宮の最上階に設けられている、ベイルの私室。
執務机に座っているベイルは、強く握った拳を机に思いきり叩きつけた。
「クソっ! どうしてこんなことに!」
ラーペンド王国の第一王子であるベイルは、王位継承権の最上位である王太子。
つまりは、次期国王だ。
それなのに将来統治するはずの国は、存亡の危機を迎えている。
活気に溢れていた頃の面影は、今や見る影もない。
ベイルが統治したかったのは、世界の国々の中でも屈指の力を持っていた、かつての豊かなラーペンド王国だ。
間違っても、こんな死にかけの国ではない。
「大丈夫ですよベイル様。これは一時的なこと。きっとよくなります。ご安心ください」
脇に立っている女性――婚約者のフィールが、励ましの声をかけてきた。
(確証もない癖に……! 何が大丈夫なんだよ!)
頭空っぽの能天気な発言に、イライラがこみ上げてくる。
こんなにも悩んでいるというのに、フィールは何も考えていないのだろうか。
馬鹿丸だしな彼女に対し、怒りが乗った鋭い視線を向ける。
「そんな気休めはいらないんだよ!」
「も、申し訳ございません」
「くだらないことを言ってる暇があればさ、とっとと国を元に戻してよ! 君はすごい力を持った聖女なんだろ!」
「……申し訳ございませんが、私の力ではどうすることもできません」
この異変に対し、フィールを含む聖女は、総動員で国民の治癒に当たっていた。国から、そういった命令が出ていたのだ。
しかしそれは、異変が起きた当初だけの話。
今はもう、その命令は取り下げられている。
数が少ない聖女に対し、治癒を必要とする国民の数が多すぎた。
いくら聖女が治癒したところでまったく状況は変わらなかったために、命令が取り消されたのだ。
(無能集団が!)
治癒が追いつかないのは、聖女がどいつもこいつも結果を出せない無能なせいだ。
聖女一人一人の能力が高かったのなら、今のような状態にはなっていないだろう。
「……この女との婚約を、現時点で破棄する。僕の婚約者に相応しくないからね。すぐに王宮からつまみ出して」
ドア付近に控えている衛兵へと命を下す。
結果を出せない無能の中には、当然フィールも含まれている。
そんな無能には、次期国王たるベイルの婚約者である資格など、ありはしないのだ。
「そんな!? あんまりですベイル様! どうか、お考え直しを!!」
フィールの必死な叫び声が、部屋の中に響いた。
くりくりとしたブラウンの瞳からは、大粒の涙がボロボロとこぼれている。
ベイルはそれを、一瞥するだけだった。
「うるさいなぁ。使えないゴミ聖女がさ、僕に喋りかけないでよ」
涙の訴えが、ベイルの心を揺らすことはない。
涙を流して情に訴えようとしているが、まったくもって無駄だ。
ゴミはゴミ。何をしようが、ただただ煩わしいだけ。
不愉快な雑音と、なんら変わりがなかった。
「とっとと連れて行って」
頷いた衛兵はフィールを拘束。
嫌がる彼女を引きずりながら、部屋の外へと強引に連れ出していった。
「これでやっと静かになった」
大きなシャンデリアが吊る下がった天井を見上げながら、ため息を吐いた。
目を瞑ったベイルは、疲れたから休憩しよう、と考える。
しかしそれと同じくして、側近が部屋に入ってきた。
やろうとしたことを邪魔されるというのは、本当に腹立たしい。
端々まで吊り上がった瞳で、近づいてきた側近を見上げる。
「何の用?」
「ベイル様に書状が届いております」
「そんなの後にしてよ。僕は今、とっても疲れているんだ。すぐに休憩しなくちゃいけない」
「よろしいのですか? 差出人は国王様ですよ」
「父上が!?」
国王直々の書状の中身は一つしかない。
こういったことをやれ、といった指示が記載されている。
つまりは、命令書という訳だ。
(王国がこんなことになっている今、父上はいったい僕に何をさせるつもりなんだ……?)
「…………よこせ」
命令書の内容は、その多くが緊急性を要する。
中身を確認して、迅速にこなす必要があった。休憩をとっている場合ではない。
「なんだよこれは!!」
手紙を一読したベイルは、それをグシャっと丸める。
”アンバー・イディオライトを連れ戻せ”
記載されていたのは、そんなふざけた内容だった。
婚約破棄した相手に、戻って来い、と言わなければならないなんて、なんという馬鹿げた行為だろうか。屈辱以外の何物でもない。
絶対にやりたくはなかった。
「どうしてこの僕がアンバーを――まさか……! あのくだらない噂を、父上は信じているのか!?」
ラーペンド王国に降りかかる災いは、大聖女であるアンバーを国から追い出したことが原因。
そんな噂が、国民の間では大きく広がって話題になっている。
災いが始まったのは、半年ほど前。
アンバーとの婚約を破棄した直後であり、ちょうど時期が重なっている。
それを面白がったどこかの馬鹿が、噂を流し始めたのだろう。
しかし、災いとアンバーの追放を裏付ける証拠など、どこにもない。
つまりは、ただの憶測であり偶然だ。
しかし国民は、そのくだらない噂を信じている。
馬鹿馬鹿しい。愚かにもほどがある。
そして父も、愚かな人間の一人だったみたいだ。
国に災いをもたらした者として責任を取れ、と暗にそう言っているように思えた。
(いつも僕を見下してきたあの女に頼みごとなんて……やってたまるか!)
こんなくだらない命令になど、従いたくはない。今すぐにでも断ってしまいたい。
しかし、そういう訳にもいかなかった。
現国王の命令に背けば、王太子という今のポストを失ってしまう危険性が高い。
最悪の場合、継承権そのものを失ってしまうことだって考えられる。
王位継承権の最上位、という今の地位に君臨し続けるためには、命令を遂行しなければならないのだ。
「…………やるしかない」
ギリギリギリと、強い力で奥歯を噛む。
不本意極まりないが、次期国王になるためには命令に従うしかない。
他にとれる道などなかった。
問題は、この提案をアンバーが受けるかどうかだが、それについての勝算はかなり高い。
これは国王による命令だ。
拒否をすれば、ラーペンド王国とルータス王国の間に大きなヒビが入ることとなる。
ルータス王国からすれば、そのような事態は避けたいはずだ。
力を失った無価値な元聖女の身柄と引き換えに国際的なトラブルを回避できるのなら、安いものだ。やらない手はない。
ルータス王国の国王がよほどの馬鹿でもない限り、交渉の成功率はかなり高いだろう。
187
あなたにおすすめの小説
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました
瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。
そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
私に聖女は荷が重いようなので田舎に帰らせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるアフィーリは、第三王子であり婚約者でもあり上司でもあるドルマールからの無茶な要求に辟易としていた。
傲慢な性格である彼は自分が評価されるために利益を得ることに躍起になり、部下のことなど考慮しない人物だったのだ。
積み重なった無茶な要求に、アフィーリは限界を感じていた。それをドルマールに伝えても、彼は怒鳴るだけだった。
「申し訳ありません。私に聖女は荷が重いようですから、誰か別の方をお探しください。私は田舎に帰らせてもらいます」
遂に限界を迎えたアフィーリはドルマールにそう告げて聖女をやめた。
初めは彼女を嘲笑うドルマールだったが、彼は程なくして理解することになった。アフィーリという人材がどれだけ重要だったかということを。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる