【完結】『力を失くした今の君に価値はない』と婚約破棄された元大聖女は、無理矢理嫁がされた異国の地で本当の愛を知る

夏芽空

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【20話】告白

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 ベイルとの話し合いを終え、王宮からレイデン邸へと帰る馬車の中。
 対面に座るリゼリオへ、アンバーが笑いかけた。
 
「それにしても、ものすごい迫真の演技でしたね。流石はリゼリオ様です」
「演技? なんのことだ?」
「ごまかしたって無駄ですよ」

 得意な顔になったアンバーは、人差し指をピンと立てた。
 口元から上がった楽し気な笑い声が、車内に広がっていく。

「『俺の一生をかけて、必ず守り抜く』と、そう言ってくれたことです」

 リゼリオと一緒にいられる時間は、残り半年しかない。
 一生をかけようにも、半年したら別れがやってくる。リゼリオの言葉を行動に移すのは、無理な話なのだ。
 
「でも私、その言葉がとても嬉しかったんです。ありがとうございました」

 たとえ嘘でもそう言ってくれたことが、本当に嬉しかった。
 
 世界一大好きな人に、そう言ってもらえたのだ。
 嬉しくない訳がない。
 
 リゼリオの言葉は決して色あせない宝物として、アンバーの心の奥底に深く刻まれた。
 レイデン家を出て行ったあとも、決して忘れることはないだろう。
 
 一生涯胸に残り続けるだろう、最高の思い出だ。
 
(嬉しい――って言ったからには、リゼリオ様は照れるに決まっているわ。それとも、笑顔になるのかしらね?)
 
 どんな反応を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
 ワクワクしながら彼の反応を待つ。
 
 しかしリゼリオはというと、困った顔をしていた。
 
 照れる訳でも、はたまた笑う訳でもない。
 右へ左へと視線を泳がせて、ただひたすらに困惑しているのだ。
 
「訂正させてほしいのだが、その……演技ではないんだ」
「…………へ?」
「あれは、俺の本心だ」

 俺の本心――その言葉が、高速変換されていく。

(本心ってことは、リゼリオ様がずっと私の側にいてくれるってことよね!?)

 それはつまるところ、彼からのプロポーズだった。
 なんだか嘘みたいだが、そうとしか考えられない。
 
(ちょっと待って!?)
 
 体温は急上昇。火が噴き出しそうなくらいに顔が熱い。
 高鳴る心臓が、うるさいくらいに鼓動を上げている。
 
 まさかこのタイミングでプロポーズされるとは、思ってもいなかった。
 不意打ちにもほどがある。準備不足もいいところだ。

 あわあわしてしまって、どうすることもできない。
 何も言えなくなってしまう。
 
「屋敷に戻ってからにしようと思ったのだが、こうなってしまったのなら仕方ない」

 身を乗り出したリゼリオが両手を伸ばす。
 震えているアンバーの両手を包み込むようにして、優しく握った。
 
「君に伝えたいことがある」

 高貴な輝きを放つリゼリオのブルーの瞳が、まっすぐに見つめてきた。
 美しい瞳には強い決意が宿っていて、逃げることをよしとしていない。
 
 その瞳に見つめられたアンバーは、身動きが取れなくなってしまう。指一本たりとも動かせない。
 魔法にでもかかってしまったかのようだ。
 
「この結婚は一年限り――初対面で、俺はそう言ったな。だが、その言葉を撤回させてほしい。君は今まで出会ってきたどの女性とも違う、本当に素敵な人だ。そんな君との関係を、俺はまだ終わらせたくない。これからもずっと――死ぬまで続けていきたいんだ」

 車内の振動がピタリと治まる。
 まるで見計らったかのようなタイミングで、馬車が停車した。
 
「愛している。アンバー」

 シンプルな愛の告白が、一直線に体の中へ入ってくる。
 あっという間に広がっていくそれが、全身をくまなく満たしていった。
 
 泣いてしまいそうなくらいの温かさが、全身を巡っていく。
 それは紛れもない、大きな喜びの気持ちだった。
 
(両想いだったのね。それなら私も、自分の気持ちを伝えなくちゃ!)

 気持ちを伝えてくれた彼に対し、アンバーもまた、恥ずかしがらずに応えを返したいと思った。

「嬉しいです。私も、同じ気持ちですから。……大好きです。リゼリオ様!」
 
 一音一音にリゼリオへの想いをこめて、大事大事に口に出した。
 
 一年を過ぎても、リゼリオと一緒にいたい――それは、決して叶わない願いだと思っていた。
 だから、夢物語だと決めつけ、諦めていたのだ。
 
 しかし、アンバーの願いは叶った。
 
 こうして今、現実となったのだ。
 儚い夢物語なんかではなかった。
 
 見つめ合う二人はお互いに、同じような笑顔を浮かべた。
 とっても嬉しいのに照れている、少しはにかんだ笑みだった。
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