20 / 25
【20話】告白
しおりを挟むベイルとの話し合いを終え、王宮からレイデン邸へと帰る馬車の中。
対面に座るリゼリオへ、アンバーが笑いかけた。
「それにしても、ものすごい迫真の演技でしたね。流石はリゼリオ様です」
「演技? なんのことだ?」
「ごまかしたって無駄ですよ」
得意な顔になったアンバーは、人差し指をピンと立てた。
口元から上がった楽し気な笑い声が、車内に広がっていく。
「『俺の一生をかけて、必ず守り抜く』と、そう言ってくれたことです」
リゼリオと一緒にいられる時間は、残り半年しかない。
一生をかけようにも、半年したら別れがやってくる。リゼリオの言葉を行動に移すのは、無理な話なのだ。
「でも私、その言葉がとても嬉しかったんです。ありがとうございました」
たとえ嘘でもそう言ってくれたことが、本当に嬉しかった。
世界一大好きな人に、そう言ってもらえたのだ。
嬉しくない訳がない。
リゼリオの言葉は決して色あせない宝物として、アンバーの心の奥底に深く刻まれた。
レイデン家を出て行ったあとも、決して忘れることはないだろう。
一生涯胸に残り続けるだろう、最高の思い出だ。
(嬉しい――って言ったからには、リゼリオ様は照れるに決まっているわ。それとも、笑顔になるのかしらね?)
どんな反応を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
ワクワクしながら彼の反応を待つ。
しかしリゼリオはというと、困った顔をしていた。
照れる訳でも、はたまた笑う訳でもない。
右へ左へと視線を泳がせて、ただひたすらに困惑しているのだ。
「訂正させてほしいのだが、その……演技ではないんだ」
「…………へ?」
「あれは、俺の本心だ」
俺の本心――その言葉が、高速変換されていく。
(本心ってことは、リゼリオ様がずっと私の側にいてくれるってことよね!?)
それはつまるところ、彼からのプロポーズだった。
なんだか嘘みたいだが、そうとしか考えられない。
(ちょっと待って!?)
体温は急上昇。火が噴き出しそうなくらいに顔が熱い。
高鳴る心臓が、うるさいくらいに鼓動を上げている。
まさかこのタイミングでプロポーズされるとは、思ってもいなかった。
不意打ちにもほどがある。準備不足もいいところだ。
あわあわしてしまって、どうすることもできない。
何も言えなくなってしまう。
「屋敷に戻ってからにしようと思ったのだが、こうなってしまったのなら仕方ない」
身を乗り出したリゼリオが両手を伸ばす。
震えているアンバーの両手を包み込むようにして、優しく握った。
「君に伝えたいことがある」
高貴な輝きを放つリゼリオのブルーの瞳が、まっすぐに見つめてきた。
美しい瞳には強い決意が宿っていて、逃げることをよしとしていない。
その瞳に見つめられたアンバーは、身動きが取れなくなってしまう。指一本たりとも動かせない。
魔法にでもかかってしまったかのようだ。
「この結婚は一年限り――初対面で、俺はそう言ったな。だが、その言葉を撤回させてほしい。君は今まで出会ってきたどの女性とも違う、本当に素敵な人だ。そんな君との関係を、俺はまだ終わらせたくない。これからもずっと――死ぬまで続けていきたいんだ」
車内の振動がピタリと治まる。
まるで見計らったかのようなタイミングで、馬車が停車した。
「愛している。アンバー」
シンプルな愛の告白が、一直線に体の中へ入ってくる。
あっという間に広がっていくそれが、全身をくまなく満たしていった。
泣いてしまいそうなくらいの温かさが、全身を巡っていく。
それは紛れもない、大きな喜びの気持ちだった。
(両想いだったのね。それなら私も、自分の気持ちを伝えなくちゃ!)
気持ちを伝えてくれた彼に対し、アンバーもまた、恥ずかしがらずに応えを返したいと思った。
「嬉しいです。私も、同じ気持ちですから。……大好きです。リゼリオ様!」
一音一音にリゼリオへの想いをこめて、大事大事に口に出した。
一年を過ぎても、リゼリオと一緒にいたい――それは、決して叶わない願いだと思っていた。
だから、夢物語だと決めつけ、諦めていたのだ。
しかし、アンバーの願いは叶った。
こうして今、現実となったのだ。
儚い夢物語なんかではなかった。
見つめ合う二人はお互いに、同じような笑顔を浮かべた。
とっても嬉しいのに照れている、少しはにかんだ笑みだった。
195
あなたにおすすめの小説
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
聖女を追放した国が滅びかけ、今さら戻ってこいは遅い
タマ マコト
ファンタジー
聖女リディアは国と民のために全てを捧げてきたのに、王太子ユリウスと伯爵令嬢エリシアの陰謀によって“無能”と断じられ、婚約も地位も奪われる。
さらに追放の夜、護衛に偽装した兵たちに命まで狙われ、雨の森で倒れ込む。
絶望の淵で彼女を救ったのは、隣国ノルディアの騎士団。
暖かな場所に運ばれたリディアは、初めて“聖女ではなく、一人の人間として扱われる優しさ”に触れ、自分がどれほど疲れ、傷ついていたかを思い知る。
そして彼女と祖国の運命は、この瞬間から静かにすれ違い始める。
婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。
しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。
「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。
傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。
封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。
さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。
リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。
エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。
フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。
一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。
- 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛)
- 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛)
- 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛)
- もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛)
最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。
経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、
エルカミーノは新女王として即位。
異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、
愛に満ちた子宝にも恵まれる。
婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、
王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる――
爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。
心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。
そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。
一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。
これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる