14 / 17
【14話】狂気 ※シアン視点
しおりを挟む二人の今後を決める大事な話がある、グレイはそう言ってくれた。
けれど誕生日の翌日になっても、彼は何も言ってこなかった。
プロポーズをされるとばかり思っていたシアンは、それはもう激怒。
その日の放課後、彼女はグレイを呼び出した。
「グレイ様、今日は大事な話があるのではないですか! どうして何も言って下さらないのですか!」
感情を爆発させたシアン。
心で思うままに、怒鳴り声を上げる。
それに対しグレイは、「あぁ」と単調な返事を返してきた。
「なんですかそれは!」
シアンの怒りが頂点に達する。
殺してやろうかというくらいに、強く睨みつける。
しかしそれでもグレイは、「あぁ」と呟くのみ。
これだけ言っているのに、まったく動じていない。
ここでシアンは、彼の異常に気付いた。
光の無くなった虚ろな目をしていて、顔色も青白い。
その姿は、病人のようだった。
(もしかして、体調がよろしくないのかしら。最愛の人が調子を崩しているのに、私は何てことをしてしまったのかしら)
シアンの心に、フッと罪悪感が浮かぶ。
「ごめんなさい。私、カッとなって言い過ぎてしまいました。グレイ様にも、タイミングというものがありますものね」
「あぁ」
「その、グレイ様の準備が整ったら言ってください。私はいつでも待ってます」
「あぁ」
抑揚のない声で呟き、グレイはシアンの前から去って行った。
******
それから三か月が過ぎた。
今もまだ、シアンはプロポーズを受けていない。
流石に遅すぎる。
問いただしたい気持ちはあるのだが、それはできない。
グレイはずっと調子を崩したままだった。
しかもそれは、週が変わるごとにどんどん酷くなっていった。
そのことが影響してか、グレイは学園を休みがちになっていた。
ここ一週間は、一度も学園に来ていない。
心配になったシアンは、この日の放課後、グレイの生家であるジグルド家に向かうことにした。
学園から、馬車で揺られること十分。
ジグルド家に到着する。
「なんだか久しぶりに来たがするわね」
婚約する前は、頻繁にここを訪れていた。
そうして、グレイの私室で二人でお茶を楽しんでいた。
しかし、婚約してからは一、二回ほどしかない。
久しぶりにここへ来られたことに、シアンは少しだけ嬉しさを感じていた。
邸内に入ると、一人のメイドが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませシアン様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「グレイ様のお見舞いに来たわ。案内してちょうだい」
「今はお会いになられない方がよろしいかと」
困り顔で、メイドは視線を泳がせる。
「は? どういう意味よそれ」
「どう申してよいものやら……。ですが、心に大きな傷を負ってしまう可能性がごさいます」
意図の分からない忠告に、シアンはイラっとした。
(私がグレイ様をどれだけ愛しているのか知らない癖に、何が、心に傷を負う、よ。そんな訳ないじゃない!)
たかだか使用人の分際で、舐めた態度を取ってきたことが許せない。
メイドに対し、威圧的な視線を向ける。
「下らないご忠告をどうも。せっかくだけど、私はどうしてもグレイ様に会いたいの。分かったら早く案内しなさい」
「……かしこまりました」
威圧に屈したメイドは、怯えた表情で頭を下げた。
「最初からそうしなさいよ」
ありったけの苛立ちを顔に出しながら、シアンは舌打ちした。
メイドに付いて行き、二階へと上がっていく。
案内された場所は、グレイの私室だった。
「グレイ様はこちらにいらっしゃいます」
「どうも。もう下がっていいわ」
「失礼します」
去って行くメイドの背中に、フンと鼻を鳴らす。
(さて、と)
ゆっくり深呼吸。
こんなイライラした顔で、グレイに会いたくない。
気持ちを切り替え、部屋の扉をノックする。
「シアンです。体調はいかがでしょうか?」
部屋の中から返事はない。
(寝ているのかしら?)
そうして、もう一度ノックしようとした時だった。
カリカリカリ。
部屋の中から小さな物音が聞こえてきた。
扉に耳を押し付けると、より鮮明に音が聞こえる。
ペンで文字を書き殴っているような、そんな音だ。
(いったい何をしているのかしら?)
試しにドアノブを捻ってみると、ぐるりと回った。
部屋に鍵はかかっていない。
「入りま――」
扉を開けたシアンは言葉を失った。
部屋の壁一面に、知らない女性の絵がいくつも描かれていた。
構図は違うが、描かれている女性は全て同じ人物だ。
隙間なくびっしり描かれているそれで、四方の壁はすべて埋まっていた。
女性の絵を描いているのはグレイだった。
ルリル、と口にしながら、一心不乱にペンを動かしている。
部屋に入ったシアンには、目もくれない。
狂気、としか言い表せない。
度を越えた異常行動に、シアンは怖気づいてしまう。
今すぐこの部屋から逃げ出したい。
だが、シアンは逃げなかった。
グレイへの止めどない愛が、逃げることを許さなかった。
(グレイ様を助けなきゃ! 私がやらなきゃ!)
グレイに近づき、ペンを強引に取り上げる。
198
あなたにおすすめの小説
追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く
橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける――
十二年間、大聖堂で祈り続けた。
病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。
その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。
献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。
荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。
たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。
看板は小枝の炭で手作り。
焼き菓子は四度目でようやく成功。
常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。
そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。
もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。
やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。
※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜
遠野エン
恋愛
セレスティア伯爵家の長女フィーナは、生まれつき強大すぎる魔力を制御できず、常に体から生命力ごと魔力が漏れ出すという原因不明の症状に苦しんでいた。そのせいで慢性的な体調不良に陥り『幽霊令嬢』『出来損ない』と蔑まれ、父、母、そして聖女と謳われる妹イリス、さらには専属侍女からも虐げられる日々を送っていた。
晩餐会で婚約者であるエリオット王国・王太子アッシュから「欠陥品」と罵られ、公衆の面前で婚約を破棄される。アッシュは新たな婚約者に妹イリスを選び、フィーナを魔力の枯渇した不毛の大地『グランフェルド』へ追放することを宣言する。しかし、死地へ送られるフィーナは絶望しなかった。むしろ長年の苦しみから解放されたように晴れやかな気持ちで追放を受け入れる。
グランフェルドへ向かう道中、あれほど彼女を苦しめていた体調不良が嘘のように快復していくことに気づく。追放先で出会った青年ロイエルと共に土地を蘇らせようと奮闘する一方で、王国では異変が次々と起き始め………。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。
本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」
そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。
しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない!
もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!?
※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。
3月20日
HOTランキング8位!?
何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!!
感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます!
ありがとうございます!
3月21日
HOTランキング5位人気ランキング4位……
イッタイ ナニガ オコッテンダ……
ありがとうございます!!
何もしていない聖女と言われたので、婚約破棄を受け入れます
鍛高譚
恋愛
聖女と呼ばれながらも、目立った奇跡を見せたことのない公爵令嬢ホーリィー・メイデン。
ある日突然、王太子から「何もしていない聖女」と断じられ、さらに身に覚えのない嫌がらせを理由に婚約破棄され、王都を去るよう命じられてしまう。
婚約に未練はなく、静かに追放を受け入れたホーリィー。
けれど、面識すらない相手を本当に傷つけたのかという疑問だけが胸に残る。
そして彼女が王都を離れたあと、王城では少しずつ不穏な出来事が起こり始める。
これは、見えない場所で王都を支えていた聖女が、再び“夜の王城”へ戻るまでの物語。
婚約破棄をお望みでしたので。――本物の公爵令嬢は、奪った全員を生き地獄へ落とす
鷹 綾
恋愛
卒業舞踏会の夜。
公爵令嬢エルシェナ・ヴァルモンは、王太子エドガーから大勢の前で婚約破棄を言い渡された。
隣にいたのは、儚げな涙で男たちの同情を集める義妹セラフィナ。
「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女を庇い、王太子はエルシェナを悪女として断罪する。
けれど彼らは知らなかった。
王家の華やかな暮らしも、王太子の立場も、社交界での信用も、その多くがヴァルモン公爵家――そしてエルシェナの存在によって支えられていたことを。
静かに婚約破棄を受け入れたその日から、エルシェナはすべてを止める。
王宮に流れていた便宜も、信用も、優先も。
さらに継母イザベルの不正、義妹セラフィナの虚飾、王太子の浅はかさを、一つずつ白日のもとへ晒していく。
奪ったつもりでいた義妹も、捨てたつもりでいた王太子も、家を食い潰していた継母も――
やがて名誉も立場も未来も失い、二度と這い上がれない生き地獄へ落ちていく。
これは、すべてを奪われかけた本物の公爵令嬢が、
自分を踏みにじった者たちへ救済なき断罪を下す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる