【完結】婚約者を妹に奪われた私は、メイクで別人になって再び婚約者に近づきます~目的はもちろん復讐のためですよ?~

夏芽空

文字の大きさ
15 / 17

【15話】因果応報の果てに ※シアン視点

しおりを挟む
 
「グレイ様、どうか元に戻って下さい!」
「いきなり何するんだ!」

 ペンを無理矢理取り上げられたグレイが、怒鳴り声を上げる。
 
 いつもニコニコしていて、誰にでも優しかったグレイ。
 怒鳴り声を上げたことなんて、これまで一度もない。
 
 こんなにも感情的になった彼を、シアンは初めて目にした。
 
「僕とルリルの邪魔をするなぁ!!」
「ルリル? 先ほども口にしていましたけど、それ、誰ですか!」

 知らない女性の名前が出てきたことに、シアンはカチンときた。
 思い切りグレイを睨みつける。
 
 それを嘲笑うかのように、グレイはニヤリと口角を上げた。

「この世で一番大事な人さ。彼女に出会ってから、僕は他の女性のことなんてどうでも良くなったよ!」
「……ひ、ひどい」
 
 その言葉は、世界一大好きな人からの裏切りに他ならない。
 大粒の涙が、瞳からボロボロとこぼれ落ちる。
 
 休日のデートを断られるようになった時から、薄々嫌な予感はしていた。
 けれど、認めたくなかった。
 
 愛する人に裏切られたら、自分がどれだけ傷つくか。
 それを考えただけで、とても怖かったのだ。
 だからシアンは、気づかないフリをしてきた。
 
 しかし、それは今現実となってしまった。
 想像を絶する衝撃で、シアンの心はズタズタに引き裂かれてしまう。
 
「婚約者である私を、あなたは裏切ったのですね」
「おいおいおい。裏切られて大層悲しんでるようだけどさ、君にその資格はないだろ?」

 ハン、とグレイが鼻を鳴らす。
 
「君はシルフィから僕を奪った。それは、君がシルフィを裏切ったのと同じことだよね。裏切るのはよくて、裏切られるのは許せない。それはあまりにも、虫が良すぎるんじゃないかな?」
「……」

 シアンは何も言い返せなかった。
 
 グレイの言葉が、ズタズタの心をさらに傷つけていく。
 
 まさかシルフィにしたことが、自分に返ってくるなんて思いもしなかった。
 因果応報という言葉を、身をもって感じる。
 
「僕は忙しいんだ。そろそろ出て行ってくれ」

 シアンからペンを取り返したグレイ。
 次に、彼女の腕を掴んだ。
 
 そのまま力任せに引きずっていき、部屋の外に放り出した。
 
「私、こんなにも人を愛したのは初めてだったのに」

 掴まれて赤くなった腕をさすりながら、シアンは涙を流した。

「奇遇だね、僕も同じだよ。こんなにも夢中になれる人に出会ったのは初めてだ」

 しかしグレイは、シアンを見ていない。
 彼の視線は、壁一面に描かれているルリルへ向けられていた。
 
「さぁルリル、続きをしようか」
 
 バタン。
 
 部屋の扉が閉まる。
 閉ざされた扉の向こうからは、いつまでもペンの音が聞こえてきた。
 
 
 そこからのことは、あまり覚えていない。
 気が付いたら、シアンはルプドーラ邸の私室にいた。
 
 ベッドに縮こまり、ふとんを頭から被る。
 体はガタガタと震えている。
 
「もう嫌だ。何も見たくない、何も聞きたくない。私はもう、これ以上傷つきたくない」

 これまでずっと、傷つける側だったシアン。
 傷つくことが、こんなに痛くて苦しいものだなんて知らなかった。
 
 もうこれ以上、傷ついて痛い思いをしたくない。
 このままこうして、ずっとふとんを被っていたい。
 
 そうしていれば誰とも関わらずに済む。
 二度と痛い思いをしなくて済むのだから。
 
 
 その日以降、彼女は私室に閉じこもるようになった。
 両親がいくら声をかけても、決して部屋の外に出てくることはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...