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【11話】月見
しおりを挟むその日。
夕食を終えたところで、ティオールが声を上げた。
「レティス。今から外に行かないか?」
「どうしてよ?」
「それは秘密だ。ついてからのお楽しみ」
「……なによそれ。別にいいけど」
この後の予定は特にない。
不思議に思いながらも、レティスは誘いを受けることにした。
家を出た二人はグドラの森を歩いていく。
「どこまで行くつもりなのよ?」
「もう着くよ――と、ここだ」
開けた場所に出る。
そこには広大な湖が広がっていた。
空に浮かんでいる満月が、綺麗に水面に映っている。
水面に浮かぶ月はゆらゆらと揺れていて、それに合わせて光も動く。なんとも幻想的で美しい。
「……わぁ」
眼前の美しい光景に、レティスは感嘆の声を漏した。
「俺はこの景色が大好きでね。ぜひ君にも見せたかったんだ。気に入った?」
「えぇ、とっても素敵よ!」
これまでに月は何度も見てきた。
でも、こんなにも綺麗だと思うことは初めてだ。
「漆黒の影にいた頃の私じゃ、こんなことを思いもしなかったんでしょうね」
レティスの表情に悲しみが浮かぶ。
漆黒の影の仕事は好きではなかった。
だがものごころつく前からそこにいたレティスには、選択肢がそれなかった。
もう嫌な仕事をしなくてせいせいしている。
二度とあんな仕事はやりたくない。
でも、生まれてからずっといた組織だ。
裏切られたということが、やっぱり悲しかった。
この傷はもう消えない。これからもずっと、一生背負っていくことになるだろう。
「君と出会ったのは、やっぱり運命かもしれないな」
「え?」
「俺たちは似た者同士だ」
空に浮かぶ満月を見上げるティオールは、レティスとそっくりな表情をしていた。
******
四年前。
ベルドゥム帝国からアズーリ王国に渡ってきて八年。
二十歳となったティオールは、国内最強の魔術士と言われるほどの実力を身に着けていた。
そんなある日。
クリムゾンドラゴンという真紅の巨大な竜が、アズーリ王国を襲撃しにきた。
クリムゾンドラゴンの力は絶大だ。
国ひとつを滅ぼすほどの力を持っている。
そんな魔物を前にして、国内の魔術師たちは無力。
次々と攻撃を仕掛けていくが、手も足も出ていなかった。
彼らはただ、国が破壊されていくのを見守ることしかできなかった。
だが、ティオールは違った。
「クリムゾンドラゴンは俺が倒す!」
周りの魔術師が諦める中、闘志を燃やしていた。
一人で勇敢にも立ち向かっていった。
激戦の果て、ティオールはクリムゾンドラゴンの撃退に成功した。
こうしてアズーリ王国は救われたのだ。
ティオールは救国の英雄として、人々から崇められた。
国王も彼の行いに深い感謝を示し、『大英雄』という称号を授けた。
だが、それをよく思わない者がいた。
大きな権力を持っている貴族たちだ。
貴族たちは、国王からの信頼を得たティオールが邪魔だった。
これ以上ティオールの権力が増せば、今の自分のポジションが取って代わられてしまう危険性がある。
だからそうなる前に、排除することを決めたのだ。
貴族たちは結託。
ティオールにいわれのない罪を着せた。
「俺はやっていない!」
必死で訴えるも、それは通らなかった。
ティオールは罪人として、国外追放処分を受けた。
******
「そうして俺は、このグドラの森へやってきたんだ」
「……私と同じだったのね」
信じていた国に裏切れた。
スケールの大きさは違えど、ティオールもレティスと同じような経験をしていた。
ティオールの表情は悲しい。
大切な幼馴染を失い、信じていた国にも裏切れた。
彼の人生は、失ってばかりだ。悲しすぎる
「あなたはひとりじゃないわ」
ティオールの手を両手でギュッと握る。
レティスは同じ痛みを知っている。
だから、じっとしていられなかった。
「私はいなくならない。あなたの側にずっといる」
ハッとしたティオールが、両手を伸ばした。
レティスの体を強く抱きしめる。
「ちょっと! いきなりなにするのよ!?」
まさかの行動にレティスは仰天。
心臓がバクバクと高鳴っていく。
「すまない。少しだけこうしていさせてくれ」
ティオールのしゃがれた声には、涙が混じっていた。
(そんな声で言われたら、やめて、なんて言えないじゃない……!)
レティスは瞳を閉じる。
ティオールが離すまでいっさい動かず、そのままじっとしていた。
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