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【14話】手段は選んでいられない
しおりを挟むベルドゥム帝国の帝都の裏路地にある、古びた大屋敷。
ここは漆黒の影のアジトだ。
そこの一室では、五十歳の男が頭を抱えていた。
「このままではマズい……!」
押し出すような苦悶の声を上げたのは、漆黒の影のリーダー――ディバイアス。
リーダーをもう二十年以上も続けている、大ベテランだ。
ディバイアスは大きな実力と、確かな判断力を持っている。
命の価値が紙きれのように軽いこの組織でずっと生き残ってこられているのは、その二つのおかげだ。
ディバイアスはこれまで、上層部から与えられた仕事を完璧にこなしてきた。
ただの一度だって失敗はない。
その功績で、上層部からの信頼をずっと勝ち取ってきた。
しかしディバイアスは今、大きな危機を迎えている。
「レティスめ!」
上層部から指示されたレティスの抹殺。
これが未だに達成できていないのだ。
しかも襲撃犯から失敗したという報告を聞いて以降、足取りが不明。
手がかりひとつ掴めていない。
腕利きの魔術師たちに探らせているが、一向に見つけられていなかった。
状況は最悪だ。
レティスを抹殺できていないことに、上層部はかなりしびれを切らしている。
なんとかごまかしてきたがもう限界だ。
このままではディバイアスが、任務失敗の責任を取らされるだろう。
責任を取らさせるということは――つまり、死ぬということだ。
「こうなったらヤツを使うしかないか。できれば使いたくなかったが……もう手段は選んでられん」
なんとしてもレティスを殺す必要がある。
覚悟を決めたディバイアスは、アジトから出ていった。
ベルドゥム帝国の辺境には、重犯罪者のみが収監されている収容所がある。
ディバイアスはそこの最下層の独房を訪れていた。
房の中にいるのは、四十代の男。
手足を拘束され、目隠しをされている。
男の名前はスラスト。
帝都で何百人もの人間を殺した大量殺人鬼だ。
「俺はディバイアス。帝国の裏組織、漆黒の影のリーダーをしている。貴様の力が必要だ。俺に協力しろ」
スラストが殺人を犯した理由は快楽のため。
人間性に大きな欠陥を抱えている快楽殺人者だ。
だが、魔法の腕はずば抜けて高い。
帝国で一番の実力を持っている。
レティスの居場所を探れるとしたら、もうスラストの他にはいないだろう。
「お断りします」
しかし、断られてしまった。
声を上げたスラストが、フンと鼻を鳴らす。
「帝国のために働くなんてごめんですからね」
「タダで働けと言っているのではない。それなりの見返りはある。俺に協力したら貴様をここから出してやろう」
「……ほう。ここから出たら、私はまた人を殺しますよ? それも一人や二人じゃありません。前よりもっと多くの人間です。帝都は血みどろになるでしょうね……あなたのせいでね。それでも構わないというのですか?」
「構わん」
ディバイアスは言い切る。
いっさい悩むことはなかった。
「俺にとって大事なのは、与えられた役目を果たすことだけだ。外に出た貴様がなにをしようが、それは俺の知ったことではない。勝手にするがいい」
「あなた……いいですね! わかりました。その話をお受けしましょう」
ヒヒヒ、と気味の悪い笑い声が房の中に響いた。
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