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【17話】ディバイアスとの再会
しおりを挟むそれから一週間。
レティスはずっと落ち込んだままで、日々を過ごしていた。
ティオールへの好意は決して届くことはない。
あのときそれを知ったレティスは、気持ちを隠して生きていこうと決めた。
でも、やっぱり辛いのだ。
大好きな相手がこんなにも近くにいるのに、決して想いを伝えることができない。
それが苦しかった。毎日胸が張り裂けそうだ。
「まさか私がこんなことで悩む日がくるなんてね」
虚しい自嘲が一人きりの家に響いた。
今は家にひとり。
ティオールはフィードを連れて外に出かけている。
「外に出ましょうか」
苦しさに押しつぶされそうになったレティスは、気分を変えたくて外の空気を吸いにいく。
昼間だというのに、空はどんよりと曇っている。
レティスの心と同じような色をしていた。
「――!?」
レティスは衝撃的なものを目にしてしまった。
こちらを見ている白髪の男性。
それは漆黒の影のリーダー、ディバイアスだったからだ。
「腕は確かなようだな、スラスト」
ディバイアスは隣にいる男へ話しかけた。
男は、当然です、と言ってからニヤリと笑った。
体型は細身で、手足は長い。
黒いローブを着ている。
なんとも気味の悪い雰囲気を出していた。
「ですが、苦労しましたよ。ここに貼られていた結界はかなり強力なものでした。私以外の人間に探し当てることは無理だったでしょうね」
「だから貴様に声をかけたのだ。……さて」
ディバイアスがレティスへ顔を向けた。
「久しいなレティス」
「……な、なにしにきたのよ」
「決まっているだろう。お前を抹殺しにきたのだ」
「……ッ!」
返ってきたのは思っていた通りの言葉。
レティスはとっさにディバイアスへ片腕をかざした。
「【クリムゾンファイア】」
攻撃魔法を唱えた。
灼熱の火炎を放つ、レティスの得意魔法だ。
だが、炎が出ない。
「なんで!?」
もう一度やるが、結果は同じ。
魔法は発動しなかった。
「無駄ですよ。いくらやっても魔法は使えません」
スラストが楽し気な笑みを浮かべている。
彼がなにかしたようだ。
「私になにをしたの!」
「【アンチスペル】という魔法をかけました。今のあなたは一定時間魔法を使うことができません」
(なんて厄介な魔法なの……!)
魔法という攻撃手段を封じられてしまった。
そうなるともう、やることはひとつしかない。
地面を蹴ったレティスは、ディバイアスへ殴りかかっていく。
魔法が使えないのであれば、格闘戦をしかけるしかない。
格闘はあまり得意ではないが、他にもう手段がなかった。
「くらいなさい!」
渾身の力を込めた拳を、ディバイアスの顔面めがけて放つ。
「無駄だ」
しかしそれは、届くことはなかった。
ディバイアスは片手一本で軽々と、レティスの拳を受け止めた。
その手を強く握る。
「お前の魔法は大したものだ。漆黒の影の中でも一番の実力を持っていた。だが反対に、格闘の技術はお粗末。私には遠く及ばない」
ディバイアスが拳を握る力を強めていく。
レティスの顔が苦痛で歪んでいく。
「魔法を封じられた時点でお前の敗北は確定している。無駄なあがきだ」
腰をひねったディバイアスが蹴りを繰り出した。
それはレティスの腹部に直撃。
激しい痛みが全身を駆け巡るとともに、その場に倒れた。
「お前は最高に優秀なメンバーだったよ。私が見いだした才能をまさか私自身の手で潰すことになるとはな……残念だ」
「……と、どういうことよ」
「そうだな……冥途の土産に教えてやろう」
ディバイアスの口元がニヤリと上がった。
「当時八歳だったお前は瀕死の重傷を負っていて、帝国軍の病院で治療を受けていた。家族を殺されて重傷を負っていたところを、帝国軍が保護したとかでな。検査したところ、お前にはとてつもない潜在能力が秘められていることがわかった。それを知った私はこう考えたのだ。お前の力は漆黒の影の役に立つ、と。だから私は全力でお前を助けたのだ。多額の金がかかったが、それだけのリターンがあると信じていた。しかし結果は、ひどいありさまだった」
ディバイアスがため息をついた。
うずくまるレティスを見る目は、ひどく冷たい。
「お前は優しすぎた。人を傷つけられない性格をしている。とんだ腑抜けだった。私は失望した。お前を助けたのは、漆黒の影の力を増強するためだ。これではなんの役に立たない。だから私は薬を使って、お前の記憶を書き換えたのだ。両親に捨てられものごころつく前から漆黒の影にいる、という設定にしてな」
「……な、なにを言っているの」
戸惑うレティスを無視して、ディバイアスは続けていく。
「結果は最高だったよ。記憶を変えたことで甘さは消え、心の死んだ冷徹な殺戮人形となった。お前は最高傑作となった。すべて私の思惑通りだった!!」
ハッハハハハ、とディバイアスは豪快に笑う。
(私の記憶は全部嘘だった……この男に奪われていた)
ディバイアスは自分の目的のために、レティスの記憶を書き換えた。
それを理解したとき、腹の中に熱いものがたぎった。
激しい怒りの炎だ。この男を許せない。
「ディバイアスゥゥ!!」
勢いよく立ち上がったレティスは、怒りをすべて右腕にこめた。
その右腕で、ディバイアスへ殴りかかる。
「だから無駄だと言っただろうが」
腰を捻ったディバイアスが回し蹴りを放った。
とてつもない速さで繰り出されたそれに、レティスは対応できない。
まともにくらってしまう。
宙に浮いた体が遠くまで吹き飛ばされていく。
「……ッ!」
大木の幹におもいっきり体が激突した。
耐え難い痛みが全身に走る。
視界が暗くなっていく。
レティスはそのまま意識を失った。
「さて、仕上げといこうか」
意識を失ったレティスへ、ディバイアスがゆっくりと歩いていく。
とどめをさして、この任務を終わらせる。
だが、そのとき。
ディバイアスの前に銀髪の男が現れた。
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