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【5話】ラルフの正体
楽し気な雰囲気のまま、朝食の時間は終わる。
(もっとこの時間が続けば良いのに)
少し寂しい気持ちになる。
エルドール家にいた時は、一度もそんなことを思ったことはなかった。
始まりから終わりまで何も感じずに、ただ一人でスプーンを動かしていた。
食後にこんな感情になるのは、初めてのことだった。
「美味しかった。夕飯も楽しみにしている」
ニコリと笑ってテーブルから立ち上がったラルフは、玄関へ向かった。
これから仕事に出かけるそうだ。
見送りをするため、ミレアも後に続く。
「行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
ペコリと頭を下げ、筋肉の引き締まったラルフの背中を見送る。
ラルフの姿が見えなくなってから、ミレアは扉を閉めた。
「私もお仕事頑張らないと!」
少し大きな声を出して、再び気合を入れる。
掃除、洗濯、その他もろもろの細かい雑事。
様々な家事をテキパキとこなしていく。
そうして、陽が落ちて空が暗くなり始めた頃。
ガチャリ、とドアが開いた。
「ただいま」
「おかえりなさ――」
挨拶の途中で、ミレアは言葉を失った。
ラルフが着用している皮製の服。
その服には、真っ赤な血が大量に付着していた。
バシャリと飛び散っている様子から、返り血のように思える。
(ラルフ様の仕事って、もしかして殺し屋だったりして……!)
衝撃のビジュアルから、恐ろしい職業を想像してしまったミレア。
白い肌が血色を失い、青白くなっていく。
ガタガタ体を震わせながらも、ミレアは恐る恐る理由を聞いてみる。
「そ、その血はいったい……」
「これはモンスターの返り血だ。まだ言ってなかったが、俺は冒険者をしているんだ」
「人じゃ……ない」
殺し屋ではなかったことに、ミレアは大きく安堵。
ほうっと、息を吐く。
「人?」
「私の思い過ごしだったようです。お気になさらないでください」
「……いまいち要領が掴めないが、分かった」
納得はしていないようだが、ラルフは頷いてくれた。
「先に風呂に入ってくる。それから、夕食を一緒に食べよう」
「はい。準備しておきますね」
ラルフが風呂に入っている間に、ミレアは夕食の準備を済ませる。
しばらくして、風呂上りのラルフが戻ってきた。
朝食の時と同じように、向かい合ってテーブルに座る二人。
わいわい話をしながら、食事の手を動かしていく。
「そういえば冒険者って、いったいどんなことをするのですか?」
冒険者について知っているのは、そういう職業があるということくらいだ。
詳しいことはまったく分からない。
冒険者であるラルフがどんな仕事をしているか、ミレアは気になった。
「ざっくり言うと、冒険者ギルドが発注した依頼をこなすのが冒険者だ。依頼の種類は様々だが、モンスターの討伐依頼が一番多いな」
「ふむふむ。お仕事の種類は一つだけではないのですね」
「といっても、俺がこれまで受けてきた依頼はほとんど討伐依頼だがな」
森の湖で、一瞬にして狼を切り伏せたあの動き。
日頃モンスターを討伐している彼だからこそ、ああいった芸当が可能だったのかもしれない。
「ラルフ様は冒険者になってから、もう長いのですか?」
「冒険者になったのは五年ほど前だ。俺は体を動かすのが好きでな。本業よりも性に合っていたんだ」
「本業? というと、冒険者の他にも何かお仕事をされているのですか?」
「あぁ。国政に関わる仕事が色々とあるんだ。俺はこの国の第三王子だからな」
「ふむふむ、第三王子――ん?」
ミレアの食事の手がピタッと止まる。
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