【完結】金貨三枚から始まる運命の出会い~家族に虐げられてきた家出令嬢が田舎町で出会ったのは、SSランクイケメン冒険者でした~

夏芽空

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【18話】次の男を探さないと ※リルン視点


 フィルリシア王国王都。
 レグルトン子爵邸内、ゲストルーム。
 
 その部屋の中には今、二人の男女がいる。
 リルン・エルドールと、その婚約者である、リグレル・レグルトンだ。
 
 二人はテーブルに座って、お茶をしている最中だった。
 
 クッキーをかじったリルンは、紅茶の入ったカップに口をつける。
 一口味わってから、ソーサーの上にカップを置いた。
 
「ここで飲むお茶も、これで最後かぁ」
 
 天井を見上げ、ひとりごとのように呟くリルン。
 続けて、宣言する。
 
「リグレル様、私達の関係は今日で終りましょう」
 
 日常的な会話と変わらないトーンで、リルンはさらっと切り出した。

 一瞬の沈黙が流れたあと、リグレルは瞳を大きく見開いた。
 
「それはつまり、僕との婚約を破棄するっていうこと!?」
「そう言ったつもりですが、ご理解いただけませんでした?」
「どうして!」

 大きな叫び声と一緒に、両手で机を叩くリグレル。
 ガシャン! という大きな音が、ゲストルームに響いた。
 
(まったく……いちいちうるさい男ね)

 不快感たっぷりの表情で、リルンは「そんなの決まってます」と口にする。
 
「あなたといても、つまらないんですよ。私、退屈が一番嫌いなの」

 容赦も慈悲もいっさいなく、バッサリと吐き捨てる。

 人より少し優しいだけが取り柄の、パッとしないつまらない男。
 それが、リグレルに対しての評価だった。
 
 彼との会話もデートも、その何もかもが、まったくもって楽しくなかった。
 
 ミレアへの嫌がらせとして奪ってみたはいいものの、想像以上につまらなすぎる。
 貴重な時間を無駄にしてしまった。

「そんなのあんまりじゃないか!」

 リグレルの瞳からボロボロと涙がこぼれた。
 
 なんてみっともなくて哀れなのだろう。
 男してのプライドはないのだろうか。

「リルンの言う通りに、ミレアを婚約破棄してまで君を選んだのに!」
「私を悪者みたいに言うのはやめていただけますか?」

 軽く舌打ちを鳴らす。

「私はただ、お願いしただけ。お姉様との婚約破棄を最終的に決めたのは、リグレル様ご自身です。私の知ったことではありません」
「……ひどい、ひどいよリルン」

(なに被害者ぶってるのよ。一番かわいそうなのは、あなたのようなつまらない男に時間を奪われた私なのに)

 ハン、と鼻を鳴らすリルン。
 膝をついて泣き崩れているリグレルを、見下した目で見る。
 
「それでは失礼します」

 嗚咽おえつを漏らすリグレルをひとり残し、リルンはゲストルームを去った。
 
 
 エルドール家へ戻る馬車の中。
 車窓から外の景色を眺めながら、リルンはポツリと呟く。
 
「次の男を探さなきゃ」

 自他ともに認める、愛らしい美少女であるリルン。
 どんな男性も、その魅力には逆らえない。
 
 一言声をかければ、それだけで虜にできる。
 迫って落ちなかった男性など、これまでに一人もいなかった。
 
 リグレルと別れたところで、リルンにとっては痛くも痒くもなかった。
 相手なんて、その気になればすぐ見つかる。
 
(今度はもっと、私を楽しませてくれる男じゃないとね)

 リグレルは歴代最悪だった。
 次の相手は、もう少し慎重に選んだほうが良いかもしれない。
 
 
 エルドール家に帰ってきた頃には、夕食が始まろうかという時間になっていた。
 
 食堂に入ったリルンは、食卓テーブルへ座る。
 既に両親は着席している。
 
「お父様、お母様。ご報告があります」
 
 家族が集うこの場で、リグレルと婚約破棄したことを伝えようとリルンは考えた。

「私今日、リグレル様と――」
「まずいことになったかもしれない」

 リルンの報告が、険しい顔をした父によって遮られる。
 ミレア以外のことでこんな表情をする父を、リルンは初めて見た。

「一か月前から始まった天候不順。そのせいで、綿花の収穫量がかなり悪い」
 
 エルドール家の主な家業は、綿花の栽培だ。
 
 以前は大した収穫高を上げれられなかったそうだが、ここ十数年はずっと豊作が続いている。
 貧乏子爵家だったエルドール家は、そのおかげでかなり裕福になった。
 
「このままでは金を返せない!」

 数々の新規事業に手を出しているエルドール家は、他の貴族家から多額の融資を受けている。
 これまでは、綿花栽培による収益で返済分をまかなってきた。
 
 しかし不作により収益が見込めなくなった今、返済にあてる金が生みだせないのだろう。
 
(ふーん、なんだか大変なことになっているみたいね)

 両親が険しい顔をしている一方、リルンはまるで人ごとのようだった。
 
 こういう面倒そうなことを考えるのは、美しい自分の役目ではない。
 両親に任せておけば、勝手にどうにか解決するだろう。
 
 気にもせず、リルンは夕食を食べる。
 両親はそれどころじゃなさそうだったので、婚約破棄の件はまた今度報告することにした。
 
 
 夕食を終えたリルンは、私室に戻った。
 
 机の中で大切に保管してある封筒を取り出す。
 それを見て、リルンはうっとり笑う。
 
「綿花なんかよりも、私にはこっちの方が大切だわ!」

 封筒に入っているのは、王家主催のパーティーの招待状だ。
 三か月後の建国三百周年記念日に、王都にある大ホールで開催される。
 
 そのパーティーには、数多くの貴族家が招待されている。
 となれば、素敵な男性と出会える確率も高いはずだ。
 
「私を楽しませてくれそうな男性はいるかしら」

 期待に胸をはせながら、リルンは楽し気に笑うのだった。

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