田舎の元騎士団長はどタイプメイドに振り回される

れおぽん

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第2部_「隣に立つには、眩しすぎて」

第34話:契約の「構造的欠陥」と修正案

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 アルベルトの不器用すぎる告白が、エントランスの熱気の中に溶けた。『知らぬ間に、どうしようもないほど好きになっていた』。その言葉は、ノアの心臓を貫き、凍りついていた不安を瞬く間に溶かしていった。

 だが。涙を流し、感動に震えていたノアの表情が、ふと固まった。

 彼女の中で、ある冷徹な計算が弾き出されたのだ。――嬉しい。死ぬほど嬉しい。――でも、待って。このままでは、また同じことが起きるのでは?

 ノアは涙を手の甲で乱暴に拭うと、アルベルトの胸元に預けていた体を、ゆっくりと離した。  そして、先ほどまでの「捨てられた子犬」のような表情を一変させ、業務上の不備を指摘する「鉄壁のメイド」の目でアルベルトを見据えた。

「……旦那様」 
「あ、ああ」 
「今のお言葉で、現在の私たちの関係における『構造的な欠陥』が浮き彫りになりました」


 甘い雰囲気をぶった切るノアの言葉に、アルベルトだけでなく、周囲の観衆もキョトンとする。

「け、欠陥……?」

「はい。貴方は『好きだから』私を突き放したと仰いました。私の幸せを願うあまり、ご自身の感情を殺して解雇通知を書いたと」 
「……ああ、そうだ。だが、もう二度としないと誓うよ」 
「いいえ、その誓いは担保になりません」

 ノアはきっぱりと言い放った。

「貴方のその『優しさ』こそが、最大のリスク要因です。貴方は今後も、何かあれば『君のためだ』と言って、勝手に身を引く可能性があります。……そして現在の『雇用関係』においては、雇い主である貴方に決定権があり、使用人である私にはそれを拒否する術がありません」

 ノアは一歩、アルベルトに詰め寄った。その迫力に、元剣聖であるアルベルトが思わず後ずさる。

「『死ぬまで一緒』という口約束も、貴方の『良かれと思って』という暴走の前では紙切れ同然でした。……私の精神衛生上、こんないつ契約解除されるか分からない不安定な足場では、安心して職務に励めません」

 彼女はスッ、と右手を差し出した。その瞳には、かつてないほどの独占欲と、絶対に解けない結び目を作る縫製師としての、執念のような炎が宿っていた。

「よって、契約形態の根本的な変更を提案します。雇用主と使用人という上下関係を撤廃し、貴方が二度と私を『解雇』できず、私の同意なしに勝手に身を引くことも法的に許されない……最強の『恒久契約』への移行が必要です」

「こ、恒久契約……?」

 アルベルトは狼狽えた。そんな都合のいい契約が存在するのか?  だが、ノアはアルベルトの胸ぐらを――今度は優しく、しかし絶対に逃がさない力強さで掴み、その顔を自分の方へと引き寄せた。

 距離がゼロになる。互いの吐息がかかる距離で、ノアは極上の、そして最高に恐ろしい笑顔を浮かべた。

「拒否権はありませんよ? 私をここまで追い詰め、泣かせた責任……一生かけて取っていただきます」

 それはプロポーズではない。逃げ腰の主人を、法と鎖で雁字搦めにするための「拘束宣言」だった。

 彼女は、全世界に聞こえるような凛とした声で、その「契約名」を告げた。

「では、アルベルト様。――私と、『結婚の儀』をしていただけますか」

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