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第三話

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「実波、追い出しなさい。こんな人」

「えっ、」

「だいたい、姉さんは料理中でしょ。カレー、焼けるよ」

汚れの滲んでいるエプロンを指差し、指摘する。図星なのか、母は不機嫌な顔になった後、部屋を退散していった。

出ていくのを見届けると、瑞さんはため息をついた。

「あーっ。姉さんも、もっと柔軟にならないもんかな、、、。まだ、十分もお邪魔してないのに。ねぇ、実波ちゃん」

「、、、」

「実波ちゃん?」

私の体は動かない。瑞さんの問いに答えることすら、ままならない。私は、、、人の不機嫌な顔や声が苦手なのだ。瑞さんは何を感じたのか、パン!と拍子を打つ。少し淀んでしまった空気を、吹き飛ばした。

「わたし、ここにいる間。実波ちゃんの部屋、借りようかな。いい?布団敷くだけだから」

「、、、えぇっ!」

堂々と間借りを宣言するだなんて。

テーブルを囲んで昼ごはんを食べているとき、瑞さんは母に事情を説明していた。母は、瑞さんが私の部屋を間借りすることには、反対しなかった。あの母らしくない。

「実波の勉強の邪魔はしないでよ」

「了ー解」

私が再び二階の自室に戻るときには、瑞さんはついてこなかった。ヒラヒラと手のひらを振って、玄関の外へ出ていった。

自室に戻った後も、私は勉強になど集中できなかった。こんなこと、滅多にないことなのだが、私は瑞さんの人柄に興味を持っていた。いつも、人などどうでもいいと思っていたから、珍しいことこの上ない。瑞さんがいなくなっても、あの人の持つ柔らかい雰囲気は、残り香のように漂っている。

私は、ああいう姿に、羨望の念を抱いた。

瑞さんは、午後の八時まで帰ってこなかった。夕飯も食べず、どっかに出かけたままだ。なにげに夕飯を用意していた母は、不満そうにブツブツ言っていた。

「ただいまーっ。ねぇねぇ実波ちゃん!って、姉さん?」

「あんた、夕飯いらないなら、いらないって言いなさいよ」

「いやー。帰ってくる気大アリだったんだよ?でもさ、駅前においしそうなカフェがあってー。今度行こうよ。ね」

「もうっ」

言い争っても意味がないと悟ったのか、母は無言で食器洗いを再開していた。





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